【 とどのつまり 】 「げっ」「むっ」 最悪のタイミングだ ― とお互いが思った。 唐突に突きつけられたワケの分からない質問に、何故だか知らないが非常に悩まされ、憂鬱な気分に陥っていた矢先の出会い頭だった。あいつにだけは会いたくないと、両者とも心の底から願っていたのに、運命の神様はとことん意地の悪い性格らしい。 さてどうしようと、お互いに考えた。 ここで挨拶のひとつもしないのは、あまりに白々しい。上官として ― 部下として ― 礼儀は必要だし、怠ったら最後、どんな嫌みを言われ続けるか分かったモンじゃない。 かといって 『 仲が良い 』 等という許しがたい評価が周りの口の端に上るのも気に入らなかった。ここは無難に挨拶だけ交わして、さっさと別れようと両者ともに決心し、同時に愛想笑いを浮かべてみせた。 「 ― やあ、鋼の。相変わらず小さいな」 「やあ、大佐。相変わらずおめでたい面だな」 それで挨拶のつもりかとお互いにムッとする。不満はあるが、とにもかくにも義理は済んだ。後はこの場を立ち去ればいいだけだ。 しかし、その時2人はハタと思った。 何でオレがこいつに気を使わなきゃならないんだよ。いつだって余計な事を言い出して怒らせるのはあっちじゃないか。オレが遠慮しなきゃない理由なんてひとつもないよな。 何で私がガキに気を使う必要があるのか。言葉尻に勝手につっかかってきて迷惑をかけられているのはこちらの方だ。私が遠慮する理由など何処にもない。 一度そう考えてしまうと、ここで引くのは癪に障った。仏頂面で互いを睨みつけながら仁王立ちする。異様な雰囲気に、周りがそそくさと退散しているのに、2人とも気づかなかった。 「何ひとの顔じろじろ見てんだよ」 「それはこちらの台詞だ。相変わらず目つきが悪いな、君は」 「嫌みったらしいニヤケ面よりは全然マシ。 ― ああ、オレがあんまり可愛いから見惚れてるんだな」 「……君が可愛く見えれば幸せなんだがねえ…」 「あんたは本っ当にムカっ腹が立つコトしか言わねえな」 「目つきと一緒で言葉遣いは最悪だし。これでどの辺を 『 可愛い 』 と思えばいいのかね?」 「 ― イタタタっ! ほっぺた引っ張ってしみじみほざくな大佐っ! ああ、もういい。何か食わせろ、何か」 「さっき昼食を食べていたんじゃなかったのか?」 「それとこれとは別。たまには甘いモンがいいなー」 「食べてばかりいると太るぞ」 「それは大佐みたいなおっさんだけが心配してりゃいいんだ。育ち盛りをなめんなよ」 「そのわりには食べた分が成長に還元されていないようだがね」 「うっさいなー。その内ドンとまとめて伸びるんだよ!」 「まあ、迷惑にならない夢なら幾らでも語りたまえ」 「うっわ、ホントに腹立つ。ほら、さっさと行くぞ」 「……金を出すのは誰だか言ってごらん? 鋼の」 「良識ある大人として、たまにはか弱い子供をいたわってもバチは当たらないだろ」 「こう毎度毎度だと、いたわるのにも疲れてくるんだがね」 「細かいコトは気にすんな。いいじゃないか、あんたも大手振ってケーキとか食えてさ」 「ふむ。まあ確かに」 「お互いの利害関係が一致したトコロで気持ちよく出発するとしようぜ」 「あー、はいはい」 そうして2人は仲良く ― 当人たちがどんなに否定しても、端からみればただただ仲良く ― 並んで歩いていった。 「……バカだよなあ」 「バカですよねえ」 一部始終を見ていた苦悩のインタビュアーたちは、がっくりと肩を落として呟いた。 了 (2004.11.23)
ドキドキだったりハラハラだったりしたインタビューの後日談。 仲がいいんだか悪いんだか分からない2人に振り回される弟と部下。本人たちより周りの方がよっぽど状態が見えているらしいです。 珍しく普通な役所(?)のハボックさん。アルハボじゃなくてハボアルだったしなー。いいお兄さん振りを発揮していたかと。そのワリには公然と大佐をこき下ろせて幸せとか言っている、慎ましやかな性格が微笑ましい。しばたのハボさん像って…。 アルが二人の関係を説明しようと苦心していましたが、説明出来ないのは当たり前。だって私も説明出来ないもん(きっぱりってあんた…) 書いているのは自分なのだしイメージだってそりゃあるのですが、しばたさんの頭の中の大佐とエドの関係は、どうにも言葉にしにくいです。自分でもちょっと変わっているとは思いますが、抱いているイメージから大きく外れるモンは書いていない…と思うので、読まれた方がそれぞれ好きなように解釈して貰えたらと思います。そんな想像のし甲斐のあるお話を書きたいものです。夢は大きく。 で、愛だの恋だのに流れる事なく、それでも連れ立って歩いている大佐とエド兄。 類友らしく、お互い同じような思考形態でいる辺りからして仲良しさん。しかし15の子供と大差ないコト考える大佐ってば、オヤジなくせに大人気ないなあ。 打算や気負いなしに、お互い好き勝手放言出来る関係…ってコトにしておきましょうかね。 |