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【 明日ヘノ活力 】

 今日の兄さんは機嫌が悪い。

 話しかけても「あー」とか「うー」とか生返事が返ってくるだけだし、仏頂面でさっきから、すっかり暗くなった窓の外を眺めている。何も見えないだろうに、飽きずにただ眺めている。
 機嫌が悪いというよりは、落ち込んでいるのかな。
 しょうがないよなあ。せっかく賢者の石を見つけたと思ったのに、まっかな偽物だったんだもんなあ。骨折り損のくたびれ儲けって、こういう事をいうんだろう。
 兄さんは、普段カラ元気で突っ走る分、一旦つまずいたら、走り出すまでインターバルが必要な時もあるようだ。
 そう思って、ボクも黙って兄さんの視線の先を眺めてみる。やっぱり何も見えないけれど、ただ眺めてみる。

「アールー」
 突然、それまで黙ったままの兄さんが、こちらを振り向いた。
 妙に神妙な顔つきで、ボクに向かっておいでおいでをする。
 何の事やら分からぬまま、ボクは兄さんの方へ近づいた。こういう時の自分って、我ながら素直ないい弟だなと思う。
「こっち。ここ、座れ」
 自分が座っているベッドの端を指差して、やっぱり神妙な顔つきのまま言う。
 素直なボクはその言葉に従って、ベッドの端の兄さんの隣にちょこんと座ってみる。何なんだろ?
 その様子を黙って見ていた兄さんは、おもむろに立ち上がった。あれ? と思う間もなくボクの前に立ち塞がると、突然ぽふっと抱きついてくる。
「──はい?」
 さすがにちょっとビックリするよ。ボクの首に両腕を回してがっしりとしがみついている兄さんは、何だか大木に止まったセミって感じだったんだけど、そんな事言ったら絶対怒られるな。
「に、兄さん? どうしたの?」
「んー」
「『んー』じゃなくてさ。これ鎧だよ? 鉄の塊だよ? 冷たいじゃないか」
「んー」
「だから『んー』じゃないんだってば。身体冷えちゃうよ」
「─でも体温が移ってあったかくなってきた」
 そう言うと兄さんは、顔を上げてボクを見やると満足そうにニッと笑った。
「うおっしゃーっ!」
 抱きついてきたのと同じくらい突然に、兄さんは勢いよく離れると、これまた突然に雄叫びをあげる。ファ…ファイト一発?
「一体なんだっていうのさ」
 ワケが分からなくて不満そうに声を上げるボクに、兄さんはにやりと笑って一言。
「明日への活力」
 胸を張って得意満面でそう言う兄さんに、ボクはもう…。疲れるなあ。
「…って、なんだ? アル?」
 驚かされてばかりだと悔しいので、ボクも兄さんの背中におんぶする。
「ボクも明日への活力」
「だーっ! お前のはシャレになんねー。重いっ!」
 ホントに兄さんは重そうだったんだけど、ボクは無視する事にした。
 こうしていると、ボクも兄さんの体温が感じられるような気がしたし。

 また明日があるさ──なっ!

了 (2003.11.18)

バカップル話。なんとなく思いついたので書いてみた。リオールのすぐ後くらいの設定か。
これで「アルエドでーす♪」とか「小説ありまーす」…って宣伝出来るかしらん?(ムリっぽい)
しかしこの世界に、ファイト一発リ○ビタンDがあるたあ知らなかったね。

そういやこれが、鋼初書きにしてほぼ3年振りに書いた話か。うっひゃー。
ま、復活ののろしがエロじゃないだけマシかもしれない。