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【 明日ヘノ活力 ─ 大佐編 ─ 】

「それで? 大佐殿の緊急の御用とは何ですかねっ」
 棘がありまくりの言葉を吐いて、肩を怒らせている目の前の子供に、ロイ・マスタング大佐はにっこり笑って一言。
「チェスの相手をどうだね? 鋼の」


「だーっ! そんなコトのためにわざわざ呼び出したのかっ!? てめーはっ!」
 さっきまで、取り敢えず不平不満を押さえ込んでいたお子様は、瞬間湯沸し器の如く湯気出して喚いた。いやはや元気なコトだと、大佐は涼しい表情でそれを眺める。
「オレは! 忙しーのっ! ヒマなおっさんの相手してやる時間なんかコレっぽっちもないね!」
 来た時の倍は怒って、憤然と出て行こうとするエドにの背に、からかうような声が響いた。
「ほう、敵前逃亡するのだね?」
 ピクリと動きが止まったエドの背中にもう一波。
「まあ、それも仕方がないだろうねえ」
 やれやれとため息つきのその台詞が、安っぽい挑発だと分からないほど、エドは子供ではなかった。しかし、コト大佐の挑発を受け流せるほど、大人でも穏やかな気質でもなかった。
 結局怒りんぼのガキなのだ…とは、大佐の心の声。
「やらいでかっ!」
 ああ、しまったと、心の中では自分の軽率さを反省しつつも、売られたケンカは買ってしまう性分らしい、鋼の錬金術師がそこに居た。


「…こっちをこう…じゃダメか…」
「どうしたのかね? 降参かな?」
「うっせーな。考えてるんだから邪魔すんなっ」
 チェス盤を眺めつつ、眉根を寄せてうなり声を上げているエドを、大佐はにやにやと眺めている。椅子にふんぞり返っているその姿を苦々しげに見上げながら、エドがひとつ舌打ち。
「─ちっくしょ…」
「手が無いなら無いと、潔く宣言しなさい」
「分かってるよ!」
 悔し紛れに怒鳴る自分に向けられる、大佐の勝ち誇ったいけ好かない笑みが、さすがに癪に障る。
「──さっきっからなんだよ。にやにやしやがって」
 八つ当たりとは思いつつ、エドが抗議の声を上げた。それを聞いたロイ・マスタング大佐は、ことさら嬉しそうに言った。
「いや、日頃生意気な君が凹んでいる姿を見るのはこう…」
「なんだよ?」
「言葉にするなら…明日への活力が沸くような気がするな」
 ──プチンと何かが切れる音がした。


 大佐の部屋からテーブルをひっくり返すような大音響が響いた。ついでドアを蹴り破る勢いで開けて出てくる子供の影を、たまたま通りかかったホークアイ中尉とハボック少尉が見咎める。
「どうもお邪魔しましたっ!」
 子供の方も2人を見つけて、肩で息をして頭から湯気出した状態で、それでも一応礼を通した。そうして靴音も高くその横を通り過ぎていく。


「─うっわ、ホントにテーブル引っくり返していったんだな、あの坊主」
「…そうね」
「しっかし大佐、楽しそうに笑ってるなー。……気味悪ィ」
「まったくだわ」
 大佐の大笑いと、とことん気味悪そうな声と、深い深いため息が、その場に同時に流れた。

 結構軍は平和なのかもしれない。


了 (2003.11.18)

ロイ版明日への活力。突発らしくバカ丸出しな話。
ロイエド…とか言ったら怒られるかなあ。でも私のロイエドっていったらこんな感じだな、いまんとこ。
ホントはエドがもっとしたたかな方がいいんだけれど、これは大佐に華を持たせてみました。