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【 アルフォンスくんの平穏な日々 】




 本人が知ったら調子に乗るから口にはしないけれど。
 ボクは兄さんを密かに尊敬している。天才肌のわりにはコツコツ地道に努力しているし、乱暴者で常識破りだけれど、ああ見えて限度はわきまえているし、ひたすら口は悪いけれど、相手に言うだけの事はやっているしで結構頼りにしている。
 が、尊敬する大好きな兄のやる事でも我慢ならない事だってある。絶対に。
「……兄さんも、毎回同じ事を言われてうんざりしているだろうけど」
「あー?」
「ボクだって同じ事を何度も何度も何度も言うのにうんざりしているんだ。それは分かってくれるよね?」
「何の話だ?」
「いくら部屋の中だからって、風呂上りに素っ裸でうろつくのは止めてよ!」
 仁王立ちになって金切り声で叫ぶアルを、首にタオルをかけて涼んでいた生まれたままの格好のエドは、きょとんとした顔で見上げた。
「いいじゃんか。どうせ弟しかいないんだし」
「 『 親しき仲にも礼儀あり 』 って言葉があるのは兄さんも知ってるよね?」
「だってあちーし…」
「そんなのが言い訳になるか!」
 何故怒られるのか分からないと言いたげな表情で、包み隠さずベッドにあぐらをかいてどっかと座っている姿に、頭を抱えずにはいられない。自分の兄には、デリカシーとか恥じらいという言葉は存在しないのだろうか。
 一時期この悪癖が収まってホッとしたものだが、最近また元に戻ってしまった。その期間は兄の機嫌が非常に悪かったので、別な面で心労を重ねたが。
「今はウィンリィの家にいるんだよ。見られても知らないからね」
「見られて減るモンでもねーだろ」
 本気でそう思っているらしい、胸を張って偉そうにふんぞり返る様に目眩が起きるような気がした。そんなアルを眺めていたエドは、不意に胡乱な笑みを見せて口を開いた。
「もしかしてアレか? 兄貴の裸体が眩しすぎてドキドキして見ていられないってヤツか?」
 にやにやと笑いながらの突拍子もない言葉に、身体がない身でありながら目眩が起きる 『 気がする 』 だけではなく、本当に目眩がしている気分に陥った。
「そんな見苦しいモンを見たくないのっ!」
「見苦しいって失礼なヤツだなあ。可愛いと評判のオレ様に向かって」
 臆面もなく言ってのけてから、首を傾げてよー知らんけどと付け加える厚顔無恥さにうんざりする。うんざりしていた所へ追い討ちがやってきた。
「恥ずかしがる事はないぞ。このお兄さまは寛大だからな。ちょっとくらいなら触らせてやってもいいぜ」
 アルの中で、プチンと何かが切れた。

「もういい! 言っても分からないヤツには実力行使しかない事がよーっく分かった! パンツくらいはけクソ兄貴っ!!」
「お前、兄貴に向かってその口の利き方はなんだ!?」
「こんな恥知らずの兄を持った覚えはないからね!」
「ギャー! アルに襲われるーっ!!」
「まだそんなふざけたコトいうかーっ!!」
「 ─ ちょっとあんたたち何騒いでんのよ! 下に埃が落ちてきてるわよっ!」
 唐突にバタンと大きな音がして扉が開いた。あまりの騒々しさに肩を怒らせてやってきたウィンリィの目の中に、開け放たれて丸見えとなった部屋の様子が心ならずも飛び込んで来る。
 ベッドの上でパンツ片手に実の兄にのしかかっている大きな鎧の弟と、抵抗虚しく組み敷かれている全裸の小さな兄が、固まったままこちらに目を向けている光景が。
 完全な沈黙がしばらく続いた。このまま永遠に時が止まるかと思われたが、ふいにウィンリィは眉根を寄せると、間抜けな兄弟の姿を上から下まで値踏みするように眺めた。それからある一点に視線を止める。
「………フッ」
 頷きながら勝ち誇った笑みを浮かべ、夕飯だから降りてくるように告げてから、ウィンリィは軽やかに身を翻すと扉を閉めて去っていった。
「……今の笑い、何だと思う?」
「え? えーと。……見られても減るモンじゃないから、きっと大丈夫…だよ」
 血の気がひいた顔でしょんぼりと肩を落とす兄の姿に、自業自得とはいえ酷すぎると心底同情していたアルの元へ、階下で誰かがガラクタにぶつかって派手に転んだような音が届いた。

 その日とうとう部屋から出て来る事がなかったエドは、ウィンリィが赤い顔をして終始上の空でいた事も、手足にあった青あざも知る事はなかった。少々罪悪感を抱きつつ、アルも敢えてその事実を知らせないでいた。
 鼻で笑われたのがよほどショックだったのか、兄の悪癖は今の所ぴたりと止まっている。が、その内ちゃっかり立ち直って、また元の木阿弥だろうと悟ってもいた。これ位で大人しくなってくれるほど可愛げがあるのなら苦労はしない。
 束の間の平穏な日々を、アルは今日もしみじみと噛みしめた。



了 (2005.4.22)



ある意味非常に当サイトらしい話。事件も起きなきゃ色恋沙汰のひとつもない、ただウィンリィに見られるエドという一発ネタ。これぞホントの山なしオチなし意味なしのやおい話です。
本当はショートマンガでやったら面白そうだと思ったですが、残念ながら私にお絵描きのセンスはないのだった…orz
仕方がないので文章で練成。マンガにしたらモザイク必須だしなー。

エドの手足は鋼なので熱が篭りやすいみたいですし、風呂上りに涼むのに素っ裸でいるってのは自然の成り行きなのでわないかとー。アルは常識人なので、そんなだらしない姿を苦々しく思っていて注意もするのだけれど、兄貴が聞く耳持たないヤツのせいでたまに爆発したりするワケです(講釈師、見てきたように物を言いー)
アルが『兄貴の裸体が眩しすぎてドキドキして見ていられない』かは御想像にお任せします。
兄弟の前では平気そうな顔をしていたウィンリィですが、実はけつまずいて転んでしまうくらい動揺しまくっていたって辺りが個人的に萌え。やおいもエロも好きですが、女の子も大好きです!
そしてそんな彼女の様子を知らずに、鼻で笑われたのがただただショックな兄貴の図ってのも好きです。全てを知っているのはアルだけってのも。この3人組には和みます。
しかしこのエド兄、言動が何処かのオヤジに似ているように感じるのは気のせいだろうか…。