オレたちは神でも ましてや悪魔でもない 絞り出すように言葉を吐いた少年の姿を認めながら。 人間なんだよ!! 天を衝く絶叫を確かに耳にしながら、足を踏み出す彼の人に歩を合わせた。 【 実のところは 】
「……あのまま雨の中にいたら風邪をひくのではないだろうか」 打ちひしがれた子供達の姿が降りしきる雨に霞む頃、前を歩く男の見えない影を踏むように歩いていた彼女が、唐突に声を上げた。途端にぎくりと歩を乱す背中を見据えながら再度口を開く。 「早く帰って休むよう、ひと言声をかけておけばよかった」 「中ー尉ー」 こころもち声を低めてわざと己の口調を真似た棘だらけの声に、ロイは恨めしそうに振り向いた。雨で煙った視界の中に、場違いなほど爽やかな笑みを湛えて彼女は立っていた。しかしその瞳が微塵も笑っていないのを認めて、ロイは苦々しげに眉を寄せる。 「─ などと考えていらっしゃるかと思いまして」 「思っていない」 「そうですか。失礼しました」 向けられた言葉を即座に否定する子供じみた態度に、ホークアイはすました表情で、これまた即座に謝意を示した。とりつくしまもない対応に、顔をしかめたまま大きな息を吐く男を見つめ、彼女も微かに眉を寄せて二の句を継いだ。 「大人ぶっていても、あの子はまだ子供ですよ。大人の理屈を飲み込めというのは酷ではありませんか?」 非難めいた言葉に滲んだ、聞き分けのない子供をたしなめるような響きに、ロイはますます眉間の皺を深くした。口をへの字に曲げたその表情は、鋼の二つ名を持つ子供によく似ていると、ホークアイは心密かに考える。 「だが、彼の選んだ道の先にはおそらく今日以上の苦難と苦悩が待ちかまえているだろう。むりやり納得してでも進むしかあるまい」 抑揚なく紡がれた言葉は冷たいものだったが、その声には奇妙な温もりがあった。噛みしめるように口にする姿は、まるで自分に言い聞かせているように見えた。 「本人にきちんと伝えてあげればいいのに」 しばしの沈黙の後、ぽつりとホークアイは呟いた。眉間を押さえて大きな息を吐く様を、目を眇めて眺めながら、ロイはやれやれと肩をすくめてみせた。 「ガキのお守りはごめん被りたいものだ」 面倒だしと投げやりに続ける姿に、ホークアイは再度ため息をつく。 「御自分から嫌われ者を買って出る必要はないと思うのですが」 「彼らは自分たちだけで歩かなければならないのだから余計な情を移す必要もあるまい。第一好かれるより嫌われた方がこちらも楽だ。それに ─ 」 あきれた声音で漏らされた言葉に生真面目な表情で応え ─ ロイはにやりと笑った。 「彼の方も、おそらく同じような事を考えているだろうし」 唇の端を歪めただけの笑みを浮かべているのに、何故かとても楽しげに見えるその顔に、ホークアイは紡ぐ言葉を見つけることが出来ず、ただ黙って眺めていた。 ああ、つまり要は結局の所 ─ 彼らは似た者同士という事なのか 用は済んだとばかりに前を向き、さっさと歩き出す男に付き従いながら、ホークアイは面倒な事だと小さくため息をついた。 了 (2009.5.4)
アニメ4話の補完話。エドを放置して去っていった後の大佐とホークアイさんの捏造会話。 原作では曲がりなりにも声をかけていったっちゅーに、アニメの大佐ってばエドが叫んでいる最中に行っちゃって冷たいなー等と思ったので、ちょいと裏話っぽく書いてみました。 せっかくなので、アニメではしょられた台詞も入れてみたよ。ホークアイさんは、子供に身も蓋もない大人の理屈を押しつけたまま、フォローもせずに突き放す大佐に、ちょっとは意地悪したくなるかもしれないかなーと。 大佐は結局エドに自分を見ていたりして。二人で歩く邪魔にならないよう、わざと距離を置いていたりして…等と、ついでに妄想してみました。 大佐とエドのコンビは、本人たちより周りに迷惑がかかりますな。ホークアイさんが言うように、ホント面倒な奴らだと思いますです。 しっかしヤマもオチも意味もないなー。これぞまさにやおい話って感じーorz |