【 易しい兄の操縦法 】
「…心得てるよなあ」 「何か言ったか? アル」 「ううん。なんでもない」 不思議そうな顔をしてこちらを覗きこんでいる、兄さんの視線をごまかして苦笑い。兄さんはすっかり元気になっている。昨日まではすぐにでも泣き出しそうな表情をしていたのに。 兄さんの場合、自分の心が泣こうとしている事に、本人はさっぱり気がついていない事からして問題なんだよな。泣く事を我慢している方がよっぽど健全だと思う。ホント、バカなんだから。 その兄さんは、さっきからしきりにマスタング大佐の悪口を言っていた。恥ずかしいからだろう、何があったかは決して口にしなかったけれど、あんなヤツに借りを作ってしまったとか、いつかきっとシメてやるとか、物騒な言葉を並べている。それを苦笑しながら黙って聞きつつ、こっそりと考えていた。マスタング大佐は、本当に兄さんの操縦が上手いと。 本人は気付かれていないと思っているようだけど、泣きはらした目でこっそり部屋に戻ってきた事を知っていた。気付かれないと考える所からして間が抜けていると思うんだけど、そんな事を口にしたら拗ねてしまうので言わない。兄思いのいい弟だよ、ボクって。 等価交換とか言われて口止め料を要求されたらしいけど、それを聞いて、大佐は兄さんの事を良く分かっているなと感心してしまった。 この意地っ張りな兄が、泣いているような現場を他人に見られて平気でいられるワケがないのだ。しかもそれが、密かに ─ あからさまにか ─ 対抗心を燃やしている大佐の前でだなんて、悔しくてたまらないに違いない。 でも、そうやって代価を要求される事で、兄さんの心の負担は軽減する。悔しい事は悔しいだろうけれど、面目が立つものね。大義名分っていうのかな、そういうの。 兄さんは、そういう所はちゃっかりしているからな。借りを返せと言われれば、それを返せば調子に乗って、またふんぞり返るタイプだ。多分、大佐に対しては特に。 その辺を知っていてやっているのなら、本当にこの兄の事を良く分かっている。 「ちょっと悔しいかも」 ボクが小さく呟いたのに、兄さんは気付かない。相変わらずぶつぶつと文句を言っている。よっぽど悔しいらしい。まあ、そりゃそうだろうけれど。 ボクやウィンリィや、ほんの少しの人しか知らない兄さんの操縦法を、滅多に会わない大佐が心得ているのはちょっと悔しい気もする。でも、マスタング大佐も兄さんと同じようなタイプな気がするな。 こういうのを類は友を呼ぶっていうのかな。 ─ ちょっと違うかな? 了 (2004.1.28)
おまけ。大佐とエド兄は、類友だそうですヨ? 口止め料は、実はエドを気遣った大佐の粋な計らい…かなあ。純粋に嫌がらせの方に100カノッサ(カノッサの屈辱…とかもう分からないでしょうか(^^;)) |