幻 平成12年4月21日号通算88号    

日本酒を飲む会 ニュース 

「生貯蔵酒」ってどんなの?
  表示基準は、このようにごまかされた

 前号で「表示基準」が巧みにごまかされてしまう例を「米だけの酒」を引いて解説した。「日本酒業界のモラルにがっかりした」との反響があった。なにも「米だけの・・・」の例だけではない。20年前から表示されている「生貯蔵酒」というのもそれである。

 さてお立ち会い。「生貯蔵酒」とはどんなものかご存知か?

 「生というのだから、何か生でなくなる処理をしない酒のことでしょう」。「では、『貯蔵』とあるのは?」と重ねて聞いてみる。「そうね、生のものを瓶詰めして貯蔵しておいたのかな」と答えるのが日本人の常識だろう。ところがこれが大はずれ。

 話は振り出しに戻る。本来「生」といえば「熱処理」をしていないものをいうのだ。酒はできてから2度熱処理されてわれわれの口に入る。最初は酒ができた春、熱処理(60度加熱)して貯蔵タンクに密閉される。それから瓶詰めのとき、もう一度加熱処理をする。

 生だと、フレッシュな香味があるが、変質しやすい。それで生で蔵の外へ出るのは新春から春にかけての時期と、秋以降に加熱処理してある酒をそのまま瓶詰めするものぐらいであった。小さい蔵で商品が近いところで出荷後すぐ飲まれるケースだけだった。ビールもそうだったのである。

 ビールの世界に高性能濾過技術ができ、それを「生」として売り出しヒットした。日本酒も「生」があるのだから、昭和50年の自主規制の表示基準に「生」を入れた。当然「熱処理をしないもの」とある。
 ところがどこからか「生貯蔵」という表示商品がまかり出た。なぜか「貯蔵」という活字が小さかった。これは明らかに表示違反である。だが、自主基準を作った勧進元の組合はそれを阻止するどころか黙認してしまった。

 聞いてみるとまぁ、落語みたいな話なのさ。
 商品を出す方は「生」という言葉にあやかりたい。だが商品の変質が心配だ。そこでこんな言いわけを言い出した。
 「酒には2度の熱処理があるのだから、その1度を省略したのも生だ。『生で貯蔵・熱処理瓶詰』と『熱処理貯蔵・生詰』だ」という。こういうのを「横車を押す」とか、「盗人にも三分の理」とかいうのじゃないかな。

 大量に出荷される酒は、瓶詰時に加熱処理すれば安心だ。そこで貯蔵に入るときの熱処理を省略できまいか。必要は発明の母である。要は貯蔵しなければいいのである。冷房蔵で酒をつくり、これを熱処理瓶詰する。これが「生貯蔵酒」と名付けられた。

 よーく工程を観察すれば、「貯蔵による熟成」などカケラもなく、「生」ではなく、「加熱瓶詰」にほかならない。消費者の常識をよそに、「生貯蔵」という表示がまかり通ってしまった。だれも文句を言わぬ。
 わからないから文句のつけようもない。文句を言う先は耳を持たない。その間に、この表示は中小蔵の一部まで広がってしまった。こういうのを、かのグレッシャム先生は「悪貨は良貨を駆逐する」とのたもうた。

 あぁ、この記事を書いている方が赤面してしまいそうだ。

耳よりな予告 5月19日例会で出品酒を

於:『グリル峰』

 鑑評会出品酒って知っていますか?本来、これが吟醸酒だったのです。年一回開かれる国の酒の品評会に出品するために、品質志向の蔵は心血を注いで酒づくりをしたのでした。
 吟醸酒が売れるようになり、蔵は吟醸を何本も仕込むようになりましたが、本命はほんのわずかばかりの「出品酒」なのです。でもそのレベルの酒は手に入りません。
 そこを蔵元に、5月19日例会に出してくださるようにお願いしております。何社から何本集まるか、それによって定員を決めます。
 今からその当日を空けておいてください。


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