幻 平成12年7月21日号通算91号    

日本酒を飲む会 ニュース 

「本醸造」ってな〜に?

「吟醸」と「本醸造」のちがい

 「本醸造酒」ってどんな酒?
 これはあなたへの質問ではありません。あなたが清酒メーカーに問う質問です。メーカーはなんと答えるでしょうか。
 「えーっと、白米1トンにアルコール120リットル以下添加した酒です」と答えるでしょう。
 「それは伝統的にあった方法でしょうか?」と重ねて聞くと、「元禄時代から『柱焼酎』といって、もろみに焼酎を添加する方法がありましたから」と答えるでしょう。まぁ、これだけ答えられればリッパといっていいでしょう。でも、私には納得できない部分があまりにも大きいのです。

 戦後「三倍増醸法」というのが認められました。今、普通酒といわれるジャンルのものは、純米仕込みのもろみにアルコールを添加したものと三倍増醸酒を調合したものです。
 ここでいうアルコール添加酒は白米1トンにアルコールを180リットル添加したものです。

 昭和46年、京都伏見の「黄桜」はすばらしいことに気づきました。三倍増醸酒を混ぜないアルコール添加だけの酒を市販しようと考えました。蔵には調合前のアル添酒があるのですから。しかしそれは辛すぎて商品にはならない。そこでアル添量を150リットルにし、仕込みも変え、スッキリした新製品を造りました。これが「本造り黄桜」です。

 この黄桜の行動は誉められるものと思います。糖類を入れた酒がいいなら、なにも清酒にしなくてもいいのです。合成酒という安価な酒があるのですから。それに黄桜は、蔵に会った180リットルアル添酒に満足せず、150リットル添加という新しい分野、品質を世に問うたのですから。

 この本造りのヒットを、メーカー団体が追随します。そして120リットルアル添の酒を「本醸造」と名付けて世に出しました。これが私にはわからないのです。なぜ「120リットル」なのか?180より150より、少ないから「良心的」なのかという点です。「なぜ?」と問えば「スッキリ味が出るから」と答えるでしょう。それホント?

 私は聞きたい。120に決めるのに、110や100や、さまざまなアル添量のテストをしたのですか?と。どこも、だれもテストをしていなかったのです。アル添量が少なければ「良心的」「高品質」というのでしょうか。それでは、始めに120リットル有りきではありませんか。
 「なぜ120リットルなのか」と私はそれを追いました。答えをつかみました。「米1トンから出るアルコールが360リットル、その1/3の120リットル添加なら」というのが答えでした。

 そこには消費者の嗜好も、酒をつくった本人のテイスティングもなかったのです。「アルコールが全体の1/4ならいいだろう」という算盤だけだたのです。

 ウソだと思うのなら、本醸造酒を造っているメーカーに、「100や110リットル添加の酒を造ったことがあるか、見たことがあるか」と聞いてご覧なさい。答えは間違いなく「ノー」のはずです。
 いわば業界が自分の都合で規格をつくり、消費者は一言もなくそれに諾々と付いていっただけ。つまりモルモットだったのです。あげくのことに「本醸造」という「まぎらわしい名称」さえ付けられてしまったのです。本醸造酒の一斉発売、昭和49年秋だったと思いますが、新聞に「これが本格派」という意味の広告を出しました。「これが本格派」なら、今までのは何だったのでしょう。つまり「ニセモノ」ということなのでしょうが、そうだったら「本格派」を唱えるより、「これまでニセモノを提供し、申し訳なかった」と土下座すべきと思ったものです。

 では「吟醸」は・・・?

 昭和20年代の全国新酒鑑評会には三倍増醸調合酒も出品されていたようです。つまり、何でもアリだったのです。その中から今の吟醸スペックが固まってきました。
 吟醸酒にもアルコールが添加されています。「その量は?」。技術系の蔵元や技術者なら「80〜90リットル」と即答するでしょう。さて、なぜ80〜90リットルなのでしょうか。それは品評会で品質を競っているうちに、この辺がいい風味になることがわかったからです。つまり、「飲む」(実はなめるだけかもしれないが)人の味覚を通してアル添量がここに落ち着いたのです。これなら納得できます。さらに、優れた造り手である杜氏は、もろみのデキを勘案して、アル添量を微妙に調整するのです。でもそれができる杜氏はそう多くない。ほとんどはマニュアルにあるアル添量で済ましてしまう。そこに品質の優劣、安定再現性が生じるのです。

 私が吟醸酒に血道を上げるのはこのような飲み手との試行錯誤があるからなのです。でも、吟醸酒ブーム以降は、精神面での玉石混淆がひどくなりましたがね。
 いいたくないことを書きましたが、吟醸とはそもそも何だったのかを再考して、21世紀の酒を造ってくださいませんか。メーカーさん。

予告『吟醸寄席』

 小説「吟醸酒誕生」からの講談抜き読みと、書き下ろし新作落語「盗み酒」の初演『吟醸寄席』を幻の日本酒を飲む会第326回例会として開くことになりました。

日時:9月15日(金・敬老の日) 午後1時から5時まで
場所:『花ふぶき』(上野松坂屋向かいを入った所) 定員40人プラス
会費:会員8000円、非会員10000円の予定
次号に詳細を発表する予定。スケジュール表に要チェック!

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