幻 平成12年9月15日号通算93号    

日本酒を飲む会 ニュース 

落語作家となって

まさか!と思っているうちに

  ご案内のように、9月15日の例会は、「吟醸寄席」と銘打って、私の書き下ろした落語を橘ノ好圓さんに演じてもらうことになりました。だから、当日になれば私は落語作家ということになります。人間、やる気があればなんでもなれるという見本でしょうか。
 私の社会人としての経歴は、大会社社員2年弱、中小企業社員7年、あとは設計事務所自営という簡単なものです。
 そのかたわら、ジャズ演奏、この会の主催と何冊かの著作があります。酒については(やや遅く)18才でスタートし、こんにちまで休みなしです。

 落語は子供のころから好きでした。戦時中「前線へ送る夕べ」というバラエティーラジオ番組があって、その中の落語をよく聞きました。仙台に来た先代三木助(当時は橘ノ圓)や小さんの色紙をもらっています。
 東京へ出てすぐ寄席通いをしました(映画・野球・寄席しか楽しみがなかった)。新宿の酒屋の店先で立ち飲みしていて、隣で飲んでいた春風亭とん橋・三笑亭かつおと知り合ったり。このとん橋さんは、後小柳枝という大看板を継いだのですが、酒ぐせがわるく、何度も大失敗をした後、廃業したという傑物でした。私と飲むときは(当時は合成酒か焼酎)紳士的な酒飲みだったんですが。

 そのころホール落語が流行りだし、志ん生、圓生、三木助、文楽、小さんなど、昭和の名人といわれる落語家が油の乗り切っている時でしたが、三越や東横のホールのは入場料が高く、通うわけにはいきませんでした。
 昭和35年ごろ、NHKが主催で「東京落語会」(これは第何次かの落語研究会に当たるはず)がスタートしました。これは比較的に安かったので年間会員になり、ヤマハホールのいい席を押さえて通いました。後、イイノホールに移り、10年ぐらい通いました。

 いいにくいことですが、名人・上手といわれる落語家の、得意の噺は全部聞いたと思います。「だれがいつ死んでもいい」といったこともありました。志ん生の「大津絵」は2度聞きました。圓生の「鰍沢」、文楽の「船徳」、小文治の「断ち切れ線香」など、震える思いで聞いたものです。いまでも耳に残り目に焼きついています。
 それから第一生命ホールの「若手落語会」(直木賞受賞「巷談本牧亭」に出てくる)で、18才の朝太(志ん朝)が「味噌蔵」をやったのにぶったまげたこともありました。この時はほかに小ゑん(談志)もデビューしたばかりだし、昭蔵(柳朝)、夢楽も出ていました。
 帰りには新橋のお多幸で、おでんで「大関」を2本飲み、茶飯で仕上げるのがコースでした。

 幻の日本酒を飲む会ではたまに落語家を呼びました。柳家さん生さんは会員なので、鳥つねで一席語ってもらったことがあります。一朝さんとは飲み屋で知り合い例会に来てもらったことがあります。でも、例会はいつもギリギリの会費でやっているので、特別にゲストを呼べないんです。

落ちるのを覚悟で

 昨年春、ラジオで国立演芸場20周年記念で大衆芸能脚本を募集することを知りました。ぼんやりと落語を書いてみようかと思いました。小さん師の「試し酒」とロアルド・ダールの「味」を一緒にした酒のきき当てが題材です。
 8月14日、夏休みの一日、ワープロに向かったら作品は一気に書けてしまいました。中身は地酒銘柄が実名でゾロゾロ出てきます。
 NHK・国立演芸場では絶対に落とすことは間違いありません。でも、その世界では日本最高の審査員のだれかが「おもしろい」といってくれれば、臍曲がりの落語家が「やらせてくれ」といってこないかという期待をかけたのです。
 秋になって、その作品が落語脚本になっているのかが心配で、だれかに見てもらおうと思っていたところに現れたのが好圓さんです。
 彼は「まとまっています」といってくれ、さらに「やらせていただけませんか」といいました。
 「今はだめだ、NHK・国立劇場に出して見るから。こち鱈やってもらうよ」とこちらだけが虫の良い約束をしました。
 11月の締め切り前に手を入れて応募しました。3月15日、見事落選しました。そしてめでたく好圓さんの手で初演を迎えることになったのです。
 私の名誉のために書き添えますが、「臍曲がりの落語家からの申し出」は一つもありませんでした。

 さて、脚本になぜ地酒銘柄を実名で出したかについて申し上げておきます。
 3年ほど前、私のごひいきラジオ番組「日曜喫茶室」(NHK FM日曜0:15〜14:00 はかま満緒司会)に出たときのことです。もう一人のゲスト、小説家の長部日出雄さんが事前打ち合わせをしています。「僕はね、『銘柄』は実名でいうよ」。プロデューサー無言。「酒の銘柄というのは人の名前と同じでそれ自体に人格があるんだから・・・」というのが聞こえました。

 いいことをいってくれたと思いました。そうなんです。「A」だの「B」だのと仮名で銘柄をいって、その内容が相手に伝わりますか?私は以後、悪口をいう以外は銘柄は実名でいおうと思いました。相手が国であろうとNHKであろうと。だから今回の作品「盗み見酒」には実名で銘柄がゾロゾロ出てくるのです。

 これを仮名でやったら?
 あっ、いま気が付いた。これを仮名でやったら、それこそ聞き手は逆立ちして笑うだろうな。

講談 三浦仙三郎

 もう5、6年前、突然女性から電話があり、『吟醸酒誕生』の中の三浦仙三郎のくだりを講談でやらせてください」といってきました。当時プロとして活躍していた宝井琴時さんです。
 広島の支持者からこの作品を請われての事というので、喜んでOKしました。
 例会で一度演じてもらいました。彼女は芸界を退いたので、今回の講座は最後の聴き物になるかもしれません。

吟醸寄席出席者受付中

日時:9月15日(金・敬老の日) 午後12時30分受付開始
会場:花ふぶき(上野松坂屋向かい)
会費:8,000円(非会員10,000円)

申し込み:事務局 電話 03-3818-5803(本村さんまで)

吟醸寄席:午後1時開演
寄席音曲:稲葉千秋
講談:「三浦仙三郎」 永井由美(正会員) 実業之日本社・中公文庫『吟醸酒誕生』より
落語:「盗み見酒」 橘ノ好圓 NHK国立演芸場募集応募落選作・初演

幻の日本酒を飲む会 第326回 午後2時30分開始予定

出品銘柄(盗み見酒登場順)いずれも大吟醸・吟醸クラス
浦霞(宮城県塩釜市)
越乃寒梅(新潟市)
真澄(長野県諏訪市)
梅錦(愛媛県川之江市)
香露(熊本市)

花ふぶき自慢のお料理


心地よい例会ができた

 幻の日本酒を飲む会には規則がありません。せめて「会三則」ぐらいでしょうか。
 7月例会でこの不文律を徹底させました。飲みたい人は自分のペースで飲むのが一番おいしいのです。他人にお酌をしてもらわなければ、自分のグラスに酒が残るはずはありません。
 とても気持ちのいい例会を過ごすことができました。ご協力ありがとう。
 残り少ない例会を大事に、楽しく過ごしましょう。

松崎晴雄さん 幻の日本酒を飲む会を立ち上げ

 12月に、本会会員で日本酒ジャーナリストの松崎さんが「幻の日本酒を飲む会」を立ち上げます。
 本会は11月で終わりますが、松崎さんの会は本会を引き継ぐものではありません。彼の日本酒への思いとコンセプトによる新しい会になると思います。
 その条件に合う人なら、迎え入れてもらえるのではないでしょうか。
 他にもいろんな酒の会がありますので、次号以下でご紹介いたします。

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TEL 03-3818-5803, FAX 03-3818-5814 幻の日本酒を飲む会 篠田次郎