幻 平成12年11月17日号通算95号    

日本酒を飲む会 ニュース 

初めは1行の予告で、終りも静かに

25年は何だったのか、長く回数を重ねればいいというものではない

 かねがね予告していたように、幻の日本酒を飲む会の例会を今月で終りにします。
 「なにかやるんですか」というお問い合わせも多くありました。普通の例会をやって終りにするつもりです。ただし、この数年、「吟功績賞」表彰をしてきましたので、恒例によってこれはやるつもりでおります。

 25年前の12月3日、当時神楽坂にあった「サロン集」のサロン誌12月号には、「幻の酒を求めて」と1行の予告が載っただけでした。会の名前もなく、ただ、当時はだれにもほとんど知られていない吟醸酒を5銘柄集めて飲む、それだけのことだったのです。「集」の田中栄治さんとは「12月はだれも忘年会で忙しいだろうから、月の初めなら物好きが集まるかも知れない」なんて話し合ったのを覚えています。
 アシスタントには、吟醸酒の権威、池見元宏先生、もしご存命なら「吟醸酒の神様」になっていただろうに、惜しくも昭和59年、秋田県醸造試験場場長現役で53才で他界してしまいましたが。彼は公務員だったので、記録には「I先生」とされています。私は匿名評論のペンネーム「醸児」を名乗っていました。まさか篠田次郎の名で、後に吟醸酒関連の本を書くようになろうとは、思ってもみませんでした。

 25年を振り返ると、「吟醸酒」という世界にも誇ることができるような美酒がそれを生んだ日本という国に定着できるのか?を実験していたように思えます。
 私は50年間、酒に親しんできましたが、日本の全酒類業界は、ほとんど消費者教育ということをしませんでした。消費者は、つくり手から優れた情報を送られ、それによって優れた消費者に育つのです。ところがテレビから常時流れ出る酒類の情報は、我田引水の市場分捕り合戦に過ぎないのです。
 優れた情報で優れた消費者に育ったものは、優れた商品を期待します。そこへつくり手が優れた商品を提供すれば、つくり手にも経済的な恩恵が返ってくる。これが自由経済下の文化向上の構造でしょう。

 これまでの酒類業界は、消費者に優れた情報を送ってないから、競争は価格条件だけになります。その結果、どの酒類も、品質低下、安価商品に傾斜しているではありませんか。
 5兆6千億円といわれる酒類産業のすべてが優れた情報禁輸体質だから、優れた情報を求める市民運動の幻の日本酒を飲む会は、彼らから見れば「猿の惑星」の星人か猿人だったのでしょう。おもしろいことにこの会は、いわゆる、「業界人」とのおつき合いはありませんでした。
 酒類業界がこぞって消費者を情報飢餓にするのは、生産国では車の燃料にしている液体を日本人の常用飲料にするためではないかと思います。なにか仮想被害妄想のようですが、いま、日本人の飲みアルコールの主要原料が何かをご存知ですか?米でも麦でも、ぶどうでも蕎麦でもないということをご存知ですか?
 経済社会において、商品を何からどうやってつくったかを知らせない商法は、利益を容易に手にすることができます。

 そんなとき、幻の日本酒を飲む会は25年に亘って、業界に対して聞かれたくないことを根掘り葉掘り聞き続けたのでした。だから、会の存在は、酒類業界共通の敵だったのです。

 でも、うまいものはうまい、おいしく飲めるモノはおいしい。幻の日本酒を飲む会の例会はなくなっても、あなたのベロは謀略にだまされまい。
 会を閉じるに当たって、こんな幻影が浮かんできました。

吟醸寄席での義援金ありがとう

 9月15日の吟醸寄席で「酒せんべい、酒まんじゅう、ラムネ」の売り子に寄せられた義援金は、計45,050円に上りました。
 上記は「東京都島しょ災害義援金」の口座に振り込ませていただきました。ご協力くださいました皆さま、誠にありがとうございました。

新しい酒の会の動き

 いい酒を楽しめる会の形に新しい動きが起きています。高瀬斉さんを委員長とする「純米酒フェスティバル2000」です。
 これまで、いい酒を楽しめる会というと、昭和48年から続く「純米酒を楽しむ会」と、昭和60年にスタートした「吟醸酒を味わう会」でした。
 これはそれぞれ純粋日本酒協会、日本吟醸酒協会の業界ボランタリーグループが開いているものです。この二つより歴史があるのが、一企業の主催する「月の桂にごり酒の会」です。
 高い品質の商品は、消費者にその内容を知られてこそ市場で流通する「商品」になるのです。酒という商品は、瓶詰めされていますから、われわれ消費者は中身の品質を味見することはできません。それなのに、業界は消費者のきき酒チャンスの道をふさいできました。あのデパートなどの試飲では味がわかるはずはありません。

 優れた情報を求める消費者は、有料でいいから、じっくり試飲できるチャンスを望んでいたのでした。それに対して、上記三者の催事は、消費者の意向を先に汲んだものといえます。
 これに刺激されて、県単位の酒の会が続きました。また消費喚起には何もしていない酒販卸も、一部の業者は小売店に対する試飲会に、一般消費者の参加も呼びかけているのですが、その声はあまりにも小さく、やっていないも同様です。

 しかし社会は、消費者は「有料でいいからいい酒を試飲したい」と望んでいます。それに対して、前記三者や業界団体が催す会に制度疲労がみられ、消費者の間に不満が高まりつつあります。参加者が固定化し老齢化し、主催側の自己満足が消費者にスリルを与えていないのです。主催側はそれに気付かないのか打つ手がないのか、こういうのを「制度疲労」というのです。

 そこへ現れたのがプロダクションが音頭を取った酒の会です。
 内容が盛り上がらねばプロダクションはやって行けない。この経済原理が新鮮な酒の会をつくりました。雰囲気はいいのですが、酒を説明するメーカー側が相変わらず「YK35]の連呼に終っているのが残念なところ。
 10月24日に椿山荘で開かれる「純米酒フェスティバル2000」に参加してみてはいかが。問い合わせ先・フルネット 3543-0141(2000年は終りました)

「吟醸寄席」VTRができました

 1本2000円でお分けします。送料は別です。お申込は事務局まで。

その他 秋の酒の会のご案内(すでに終了しています)

※「秋の吟醸酒を味わう会」
日時:10月20日(金)17時30分〜
場所:赤坂プリンスホテル
参加費:4000円
お問合せ:日本吟醸酒協会 03-3378-1231

※栗原信平さん主催の「酒楽会」最終回
日時:10月21日15時〜17時30分
場所:有楽町・日本外国特派員協会
会費:1万円
お問合せ:さかや栗原 3408-5379

※「静岡県地酒まつり2000」
日時:10月22日14時〜16時
場所:如水会館
会費:3000円
お問合せ:静岡県酒造組合 054-255-3082

〒113-0034 東京都文京区湯島4-6-12湯島ハイタウンB-1308
TEL 03-3818-5803, FAX 03-3818-5814 幻の日本酒を飲む会 篠田次郎