幻 平成13年1月1日号通算97号    

日本酒を飲む会 ニュース 

酒行政に史上初の文化的考慮

出てすぐ引っ込んだ大蔵省案・幻にするな(1)

 11月中旬、突如大蔵省から酒税改正案が出てきた。マスコミニュースは「発泡酒増税」と報じた。私は来るものが来たと感じた。かねがね「あれは新規品質開発だったのか、節税商品だったのか」という疑問を抱いていたからである。
 この酒税改正案は、月末に至り、あっけなく引っ込められたが、発泡酒増税のかけ声のうしろに、日本国史上初の文化的志向のある酒税改正案が秘められていた。私は酒税増税に与するものではないが、「取ればいい」の5百年の歴史、戦後の飢餓時代以来の「ミソも□□も同じ税率」という非文化性からようやく抜け出そうという萌芽がみられたことをお知らせしよう。

この最近の酒税改正の跡

 イギリスから鉄の女性宰相サッチャーさんが東京サミットにやってきて、同国の安ウイスキーが日本に来ると最高税率が掛かるのを知って烈火のごとく怒った。それまでの日本の’ウイスキー’は、ウイスキーに多量の混ぜものをしたものであった。それどころではない、一部は全くウイスキーなどの混じらぬもの(読み違えのないようにご注意あれ)であった。だから、ホンマものは最高税率を課せられた。そこで蒸留酒の税率は、ウイスキーも焼酎も同率へと歩んでいる。
 一方、日本酒は平成元年と4年の改正で「級別制度」がなくなった。そこから「いい品質」をつくるものにとっては、高額の税金を払わないで済むようになり、吟醸酒の市民権が広まった。

清酒酒税上の混乱ぶり

 でもである。まだ「ミソも□□も」酒税は同額。メーカーはこぞって□□の酒をつくることに邁進している。メーカーは現行基準によれば混ぜもの率44%が許され、その分を集中的に使うと混ぜもの率はどこまで上がるかわからないのである。
 その混ぜものの中身をちょっと調べてみよう。

 米から取れるアルコールは米の約50%である。安い米を使い、精米歩合を75%にしたとして、
  玄米1俵価格/60×0.75×1.25
これが米からできるアルコール1リットルの原料である(1.25は、アルコールを重量から容量に換算の定数)。
 一方、混ぜものに使うアルコールは、いま、無税自動車用燃料として1リットル88円で売られている。これが□□の主体だ。あなたが蔵元なら、どっちを使っても「清酒」であります。知らないのは消費者だけ。まさか自動車同様、人間も□□をエネルギーにしているなんて。

 街でカタカナ名で呼ばれているアルコール系飲料の中身はこの□□だとごぞんじの方、おられますか?飽食の日本にあって、日本のブロイラーちゃんやブーブーちゃんでさえ、合成食品は食べていません。一部、遺伝子組み替え食品は食っているらしいですが、彼らよりずっと人間は先に進んでいるらしく、工業資材を飲んでエネルギーにしているのが現実です。

混ぜもの清酒酒税は少し高くなる

 出て引っ込んだ改正案では、ごく少量のアルコール添加以外は(詳細は後述)、少しばかりの酒税が高くなる。といっても、わずか6%、1.8リットルで15円である。これでは「ミソも□□」の後者を追放することはとてもできっこない。前述の計算を見ればわかるはず。
 ただ、このように大蔵行政が文化的な方向を示したということで、消費者に選択のヒントを与えたのかもしれない。だから「文化的志向の萌芽」といったのである。

ほんの少しのアル添とは

 出てすぐ引っ込んだ大蔵省案は微妙な言葉遣いをしていた。
 「原料として使用されたアルコールが、当該清酒のアルコール分の10%(果実酒と同程度)未満のもの」(原文のママ)。これは平成4年に制定された本醸造規格でないことをよくお読みください。
 私は昭和49年の本醸造協会、50年の酒造組合制定の本醸造規格誕生にずっと疑問を抱いていた。なぜ白米1トン当たり120リットルなのかがあやふやなまま制定され権威づけられたからです(平成4年の酒税法通達では、内容がちょっと変わっただけ)。だから、本醸造規格には文化性がない。

 だが、今度の大蔵案は本受像規格で「ミソと□□」を区分けするものでないことは間違いない。
 では「原料として使用されたアルコールが、当該清酒アルコール分の10%(果実酒と同様)未満のもの」とはどんなものなのか。これを数値化すると、原料白米に大使35〜40リットルになる。本醸造規格の1/3で、経験的に決まった吟醸づくりのアル添量80〜90リットルの半分である。
 アル添という技術によって、香りを引き出し香味を整える効果があるとするならそれを認めてもいいが、経験上定まった吟醸づくりより少なくしたのは醸造技術の向上を期待したものと理解できる。

 この数値で「いい酒ができるか」といくつかの蔵に問い合わせてみたところ、「純米づくりでも香味のバランスのとれたもの、現代の嗜好に合ったものがつくれるので、これだけアル添があれば、消費者の期待に十分応えうる」との返事であった。
 アル添量を業界常識より少なくしようというのは、本来の日本の酒の形を大事にしよう、そしてわずかでも米の消費を増やそうではないかという意図と思われる。日本固有の文化を重んじたものである。

 読者の中にまさか120リットルのアル添が、元禄時代に行われた「柱焼酎」技法と全く同じだなどと考えている人はいないだろう。あれはアルコール量ではなく、焼酎の量だから1/3から1/4になるのである。
 この点でも大蔵案は柱焼酎技法を正しく理解して、現代の酒に生かそうとしているように見える。文化的といわざるをえない。

「果実酒と同程度」?

 ワインにアル添が許されているのは知っていたが今回それがはっきりした。「アル添10%以下が果実酒、10%以上が甘味果実酒」という区分が酒税法にある。甘味果実酒というものの正体がようやくわかった。○○ポートワインという代物でおばさまたちが泥酔、悪酔いしたのも当然なことだったのだ。
 でもワインづくりにホントにアル添しているのだろうか、知り合いの地ワインメーカーに確認したら、「補糖はしているがアル添はしていない」とのこと。

 とすると「10%以下が果実酒・・・」という現実は日本では空文なのか、それとも実施しているところがあるのか。また、ワインにアル添という技法は日本だけなのか、外国からきたものなのか、国際的常識なのか、その辺のところはまったくわからないので調べてみる必要がありそうだ。
 もし、国際的常識だったら、大蔵案は米で醸される日本酒にブドウ酒の国際スタンダードを持ち込んだというわけになりそうだが、その辺の解釈を断定するのは早計だろう。(つづく)

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