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かるたの解像度

8/10発売のちはやふる第35巻の第一七九首で、選手の集中と気持ちが高まっていく状況を
「解像度が上がる」 ⇒ 「音の解像度」「目の解像度」「身体の解像度」 ⇒ 「かるたの解像度」
と解像度という言葉で表現し、そして名人・クイーン戦東日本予選が始まります。

ちはやふる第35巻と同じ太一の表紙のBE LOVE 17号(2017 9/1)の表紙にはキャッチコピーとして
「白熱、千早vs理音!! 0.1秒を競う戦いの行方は!?」と書かれています。
前号のBE LOVE 16号(2017 8/15)の表紙は「理音との音速をも超える勝負に、千早は…!?」でした。
これを見て、16号の時は「音速超えってどんだけ早いねん(笑)」、17号の時は「感じの早い理音と
千早で0.1秒を競うってどんだけ遅いねん(笑)」と思いました。

これでふと思い出したのが、メイツ出版「勝つ!百人一首 競技かるた完全マスター」です。
第59〜61期名人の岸田諭氏が監修しており、競技かるた上達のアプローチについてとても
具体的に書かれているよい本です。この本の中で次のように書かれています。
とてもよい本だけに、競技かるたの実際の数字にマッチしたものだったらもっとよかったと
思います。ちなみに空気中の音速は約340m/sです。
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「伝授06 算数の公式で競技かるたを見直すこともコツ」より抜粋
・たとえば手(人)とA札の距離(道のり)を100mとします。つまり秒速で100mの速さなら1秒で、
 これを秒速200mにできたら0.5秒で着きます。
・しかし、この秒速が300m・400mになろうが、相手が先に「A札」を取ってしまえば負けです。
・決まり字を聞いてからの「時間」がポイント。「時間」と言っても、0.3秒、0.4秒、0.5秒〜など
 0コンマの世界です。
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「伝授08 道のり(手と札の距離)を最短にするコツ」より抜粋
・0.1秒の差を争うわけですから、正確な手の動きというときの「正確」の持つ重みもしっかりと
 受け止めましょう。
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■音の解像度

競技かるたの読みは4-3-1-5方式で読まれます。下の句4秒、余韻3秒、間1秒、上の句5秒余りと
いう読みです。そして上の句の最初の1秒で約4文字を読むリズムです。
第1音が「むすめふさほせ」で始まる札はそれぞれ1枚しかないため1枚札と呼ばれますが、
「む」が読まれた時、1のタイミングで反応するのと、8のタイミングで反応するのでは、すでに
時間差が生じています。いかに早く音を感じて取りに行くかが大切です。
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む......
M..U....
12345678
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■身体の解像度

競技かるたの大会では大石天狗堂「標準百人一首」がよく用いられています。この札のサイズは
縦73mm x 横52mmとなっています。
縦3段は 7.3cm x 3 = 21.9cm となりますので、自陣の縦は 21.9cm + 2cm = 23.9cm、向かい合う
自陣と相手陣の全体で、23.9cm + 23.9cm + 3cm = 50.8cm です。横幅は 87cm です。
自陣の競技線下側の中央から相手陣右下段の一番外側「せ」を払う時、その直線距離は
三平方の定理を用いて、√(50.82 + (87/2 - 5.2)2) = 63.6cm です。



有段者の払い手は約2〜3m/sくらいですので所要時間は、2m/sなら 63.6 / 200 = 0.318秒、
3m/sなら 63.6 / 300 = 0.212秒です。
相手より少しでも早く取るため、音への反応、構え、手の運び、スピード、コントロールなどの
精度を高め、それがムリムラムダがなくなることにつながって、「より早く、より強く、より美しく」
かるたを取ることを目指します。


■目の解像度

競技かるたは基本的に審判がつかず、双方の選手でどちらの取りかを判定します。
したがって相手に自分の取りであることをきちんと認識させるように取ることが肝要です。
押さえ手でなく払い手で明示的に札を動かして取ることは、早さのみならずその意味でも
有効な手段です。
払った時の札の移動距離を考えると、2m/s 0.1秒で 20cm、3m/s 0.1秒で 30cmです。
払い手で 0.1秒も差があると札がもうその場所にないですが、実際には指先のちょっとした差と
いう微妙な判定を選手は見極めています。0.1秒が0.01秒になると、2m/s 0.01秒で 2cm、
3m/s 0.01秒で 3cm ですので、札半分動いた感覚となります。競技かるたは0.01秒以下の
時間で競っているといえます。
札が動いたかどうかの判断のためには、札をきちんと整理整頓して並べることが基本として
大切です。

団野精造(団野朗月)氏は競技大会で初めて払い手を行った選手として知られますが、
その著書に以下のように記しています。
双方の選手が高いレベルでかるたを取り合う時、目の解像度のレベルや誤差が双方による
取りの判定を難しくします(特に押さえ手や軽く触れる手の場合)。それゆえ団野精造氏は、
著書にある見地に至り、また払い手を編み出したのではないかと想像します。

◎国立国会図書館デジタルコレクション
最新歌留多競技秘訣 団野精造(朗月)著 (明治44年11月発行)
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第五章 取り方
札に指先の触れる場所
札のいずれの部分を突きもしくは押さえるのが良いかといいますと、自己の札は
その上端、相手の札は下端すなわち深く手を入れるのがよいので、初心者には
不思議に感じられるでしょうが実際においては余程利益のあるものです。

※読みやすいように現代仮名遣いにしています。
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