化物の話1

 昔仁科の観音堂(八坂村切久保)に坊さんが居った。ある時切久保の村の人が死んだのでこの堂の傍らに埋めた。その夜のこと堂の坊さんが起きて外へ出てみると向こうの方から狐の来るのが見える。狐は新しい墓の前まで来ると三度それを廻って墓の上にのせてあった石の上へ前足をあげると見る間に美しい女に化けた。これを見ていた坊さんは青くなってふるえあがったが静かにお経を取り出して読み始めた。するとその女は堂の縁側へ上がって毬を突き始めたので坊さんは大声でどなりつけた。狐は驚いて逃げていったが、坊さんはその後重い病気になって苦しんだということである。

化物の話2

 八坂村切久保部落のある人が山仕事をすませて暮れてら帰って来ると、後から草履をはき手拭いを被った女が足音をばたばたさせながらついて来る。よけようと思って道端に立ち止まっているとその女も止まって来ない。歩き出すとまたついて来る。止まると女も止まって決して通り過ぎない。しばらくそうして行くと女の足音が聞こえなくなったのでどうしたことかと思い振りかえって見ると、女の姿は見えず恐ろしい顔をした大きな獣が立って笑っている。その人はおどろいて家へ飛びかえるなり「ああおっかなかった」といったまま気を失ってしまった。その人はそれから病気になってとうとう死んでしまった。


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