河童の話

 八坂村舟場部落の坂井某の家には次のような話が伝わっている。
 昔某の家の若者が5月わごの田へ代掻きに行き、昼休みの間馬を側の藤塚に繋いで休んでいると、誰か来て手綱を取って馬を犀川へ牽いていく。馬は牽かれるままに川の端まで行くと、無闇に川の中にひっぱり込むので驚いてはねたなり家へ帰った。若者も驚いて来て見ると、馬の手綱の「わなぐり」に手をつき込んだ河童がひきづられている。馬が厩へ飛び込むはずみに河童は見えなくなったので皆でさがしたが見つからない。よく見ると厩の入口に馬舟(まぶね)(馬桶)が伏さっていたので、ここより外に隠れるところはないはずとあげてみるとちゃんと河童ははいつくばっていた。主人は「なぜ馬を川へ牽いて行った」と叱ると、河童は手をすってあやまりながら「命ばかりは助けてください、そのかわりお家で何でも不足な物があったら紙に記して川へ投げ入れてください、必ず取り揃えてあげます」といった。主人は可愛そうに思って命を助けて白砂(地名)の河原へ放してやった。それからは河童のいった通りにすると白砂へ必ずその物を取揃えて出してあった。それがある時借りた椀の花笠が一つ足りなかったのをそのままかえしてからは全く何物も貸せなくなったという。


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