狐の話(切久保1)

 昔八坂村切久保部落の南村仁科某の隣に西という家があった。その家の裏では狐がよく子をはやしてたくさん棲んでいた。暖かい日などには表庭まで出て来て日向ぼっこをしていたものだという。常は大して悪さをするでもないが、時に依ると近所の鶏を捕って食ったり留守の家の勝手へ忍び入って荒らしたりしたという。西の家の人達にはよく馴れて夜になると囲炉裏火にあたったり、年寄の肩をたたいてくれたともいう。

狐の話(切久保2)

 八坂村切久保部落の某が大町へ用達に行っての帰りに大曲(おおまがり)下の唐松林の付近を通った。日没には未だ間がある頃だのに、急にくら闇のようになり、どこへ行っても崖や危険な場所に見えてどうしても危なくて通れない。仕方なく大声を挙げて救いを求めた。通りがかりの人がそれを聞きつけてようやく林の中から見つけ出し助けて帰したという。

狐の話(切久保3)

 八坂村切久保部落の某が近所に用達に出てつい狐に化かされた。しかもそれは日中のことであったが、自分では眼がくらんで一向わからない。どこをどう連れて歩かれたものか、だいぶ歩きまわったが道らしいものもない。さてこれは狐に化かされたではないかと気がついたので、その場に腰をおろして南無八幡大菩薩と念じた。すると闇夜の如く暗かった空が晴れ渡って一点の雲もない夕七つ時で原の芝生の上に居ったということである。


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