大姥山


大姥山南斜面。ここに山姥が金時を育てたといわれる岩穴がある。(1987年5月撮影)


 口碑伝説篇第2冊に出ている大姥山(八坂村)の山姥については次のような話もある。
 山姥が金時を産んだとき大町の市野屋へ酒つぎに行った。一合もはいりそうにない徳利を出して三斗ついでくれといったので、酒屋の者は「お前さんこんな小さな徳利へ三斗なんてはいるもんか」というと、「まあ入れてみてくれ」というので入れてみたところ、いった通り三斗はいったら一ぱいになった。酒屋の者は驚いてこれは神様にちがいないと思ったはずみに山姥の姿は消えてしまったという。

 大姥様が金時を生んだとき岩屋の前へ金襴の帯や色々な物がかかった。上籠(あげろう)の女の人たちが何事かと思って見に行くと、不思議にも血の雨を降らしたという。それから大姥様へ女の人が行くと荒れるという噂が出た。

 また更級郡の大岡村にある聖山に猫股という化物がいて付近の人を食ったり作物を荒らして困ったので、これを退治するため大姥様の夫が行ったが、かえって猫股に食われてしまった。そこで大姥様は女の身ながらこれを退治して夫の仇を取り、大姥山に居を構えて金時を育てたという。

 上籠の切産川(つぶらか)には山姥がお産をしたとき初産湯を使った池だというのがある。これを初産池(うぶいけ)といっている。今でも月やくの女がこの池の水を汲むと濁るといわれている。

 また大姥山の北面左右(そう)地籍(八坂村)にも金時の初産池があって、誕生のときに用いた池だといわれている。

 山姥の住んだ穴は二つあって、一つは大姥山に一つは戸隠にあるといわれ、大姥山の岩穴は南向きで冬穴、戸隠のは北向きで夏穴だといっている。

 今大姥様にはたくさんの鎌が上がっているが、これをお借りして来ると子供の蟲(むし)除けになるといい、なおると鎌を二提にしておかえしすることになっている。


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