月の輪の宮

 八坂村字切久保の南鷹狩山と北鷹狩山との間に堀切という地籍がある。至って陰気な所で昔ここに大蛇が棲んでいた。今でも北鷹狩山の南側には蛇崩(じゃくずれ)という名の崖がある。その大蛇はめったに姿を見せなかったが、その姿を見たものは大抵発狂するとか、発熱して寝込むとかいうので村人は非常におそれていた。けれどもこの大蛇が姿を見せる年はきまったように豊年だったという。時たま雲にのって高瀬川へ水のみに下るがその時は大暴風雨が必ずあったという。村人はこの大蛇から受ける不安からのがれようと相談して、南鷹狩山の北角に小さな祠をたててこれを祀った。それから後は一度も姿を見せなかった。しかし不思議なことにその後そこで月を見ると、月に輪がかかって見え、又その宮の周りの木を伐ればその人はけがをするといわれている。いつか炭焼がそこの木を伐ってその下になって死んだことがある。今でもそこには栂の大木が茂って小さな古びた祠が残っている。土地の人はこの宮を月の輪の宮といっている。


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