名古屋から平壌へ

 

エア・コリョで連れてって!

 北朝鮮の航空会社はエア・コリョ(高麗航空)である。今回利用したのは名古屋発平壌行きのチャーター便、13時発のJS812便である。国際線ターミナルビルから見ると、ノースウエスト、コンチネンタル、アシアナの機材と少し離れた端の方でエア・コリョのツポレフ154Bが駐機していた。

 12時45分頃、ターミナルビルからバスに乗り、タラップを登って搭乗する。入り口で紺色のダブルのブレザーにスカート姿のスチュワーデスが搭乗券を見て席を案内している。美しい彼女たちの表情は硬く(あとでニコニコしている人もいた)、黒い眉と黒いアイラインがレトロで、機内がまさに北朝鮮であることを感じ、緊張する。機材はかなり古いようだが、掃除が行き届き、よくメンテナンスされている。全ての席のシートベルトがきっちりとたたんであった。客室には軽くガソリン臭が漂っている。内装は木目調の壁にベージュ基調とシック、椅子のカバーは紺色で決して安っぽくはない。じゅうたんの毛足も飛行機にしては長めだ。座席の前のポケットには「衛生袋」と非常口説明の小さなパンフレットが入っており、機内誌や機内食メニューはない。また、機内テレビやイヤフォンのサービスもない。アナウンスは朝鮮語と日本語で、内容はごくごく普通である。離陸に先立ち、おしぼりとキャンディーが配られた。離陸後、救命胴衣の説明があり、「朝鮮」というグラビア写真誌と労働新聞が配られた。

 しばらくすると、ワゴンで飲み物が運ばれてきた。ミネラルウォーター、スプライト、「ペサイダ(梨の炭酸飲料)」、人参酒、ビールがある。またしばらくすると、機内食が配られた。機内食は1種類のみで、メインディッシュ(?)は温められている。おかずの種類は豊富で、見た目も味も良かったと思う(帰りの機内食にはシュークリームもついていた)。食後はコーヒーやお茶のサービスがあった。

 飛行機が朝鮮半島にさしかかったと思われる頃、機内販売が始まり、朝鮮の酒、たばこ、民芸品をワゴンで運んで売っていた。

 

客室

機内食。フライドチキン、まいたけナムル、チャーハン、白身魚のフリッタ、野菜の醤油漬、卵巻き、キュウリの甘酢漬け、ハム、ハムサンド、パイナップル。

エア・コリョ ツポレフ154B


平壌空港〜市内へ

 平壌空港着陸の40分前になると、シートベルト着用のサインが点灯した。日本と朝鮮の間に時差はない。眼下に荒れた山地や丘陵が広がる。緑が少なく、赤土が露出して痛々しい。15時10分頃、平壌のスナン(順安)空港に到着。歩いてターミナルビルへ向かう。折しもEUの代表団が訪朝中で、スウェーデン空軍の小さな飛行機が2機、駐機している。ターミナルビルは中国の地方都市と同じくらいだろうか。中は暗く、とても古びているが、きれいに掃除されている。団体ビザの順番に並んで入国審査を受け、荷物をX線検査にかける。税関申告書に時計、カメラ、外貨の持ち込み数を記入して用意していたが、提出を求められなかった。携帯電話は持ち込み禁止なので、ツアー客の持っている電話をまとめて税関に預けた。デジカメを調べられら人や、荷物を開けさせられた人が2〜3名いたが、無事通関することができた。

順安空港ターミナルビル。金日成氏の肖像が。

 空港から出ると、早速バスに乗り込む。ガイドのLさんがマイクを持ち、挨拶を始める体勢にになった。Lさんはダブルの紺のスーツにダークなワイシャツとネクタイ、セカンドバッグを持ち、金縁のめがねをかけている。緩いパーマっ気のある髪がもわっと立っている。年の頃は30〜32歳という感じだ。はじめて聞く北朝鮮のガイドさんの第一声は何だろうと息をのんで待ち受ける。

 

バスは富士重工製、車内のドアの上に「秋田市交通局」と書かれていた。外側は「朝鮮国際旅行社」の字とマーク。

 Lさんは久しぶりの日本語に緊張したのだろうか。マイクを握りしめ、しきりにエクボをくぼませ、「んっ・・・・んっ・・・・」と声にならない小さな声を出すばかりで、話が始まらない。10秒ほど喉の調子を整えてから、ようやく今回の同行者の紹介が始まった。今回同行するのはLさんと、もう一人のガイドがKさん、こちらは40代前半の恰幅の良いコワモテだ。やはり紺のダブルのスーツだ。そしてベテランの運転手さん。もう一人、私たちの席の隣にやはり40代くらいの白いジャンパーを着た、屈強そうな男が座った。Lさんはこの人のことには触れない。公安の人だろうか。それにしても、この人たちはみな異様に日焼けしている。

 空港から平壌市内までは約20分、道中のどかな田園風景(と言っても農閑期なのでまだ何も植わっていない)が続く。時折道路沿いを人が歩いていたり、たまに乗用車とすれ違ったりする。Lさんから旅行中の注意事項を告げられる。個別行動はダメ。ホテルの外に出るときは、ガイドと一緒に行くこと。対日感情が悪いし、夜の街は暗いからだ。朝鮮の人は外国人やカメラに慣れていないので、写真は断ってからとること。兵士や軍の車両を撮影してはいけない。バスの中から写真を撮ってはいけない、等である。


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