シュウシュウの季節 [天浴(XiuXiu)] 1998アメリカ



主演:ルールー(Lu Lu)、ロプサン(Lopsang)
監督:ジョアン・チェン
原作:ヤン・ゲリン

(あらすじ)中国で起こった「文化大革命」も終わろうとしている時期に四川省の州都成都から隣りのチベットに「下放政策」によって送りこまれた一人の無垢な少女シュウシュウの悲劇のお話。「お国のためなら」という名目で都会の若者を地方や僻地に送りこみ、そんな革命のためにといきがっていたシュウシュウ(ルールー)は家族と離れてチベットの軍のミルク工場に連れて行かれる。1年たって次に「放牧の労働」につくことになり、さらに高地へ連れて行かれる。シュウシュウはここで半年頑張れば戻ったときに女子騎馬隊の「隊長」になれる事を信じて、なれないテント生活をラオジン(ロプサン)とともに暮らしていく。ラオジンは昔の喧嘩のせいで去勢され、ひとりでひっそりと暮らしている男。シュウシュウはラオジンに不満をぶつけながらも高原の生活を送っていく。
 ある日、ラオジンは小高い丘の上に穴を掘り始めた。シュウシュウは「棺おけみたい」といって丘から降りて成都のクラスメートからもらった万華鏡を覗いていた。そうするとラオジンがシュウシュウをこっちにこいと丘の上へ呼んだ。シュウシュウの表情が明るくなった。ラオジンは水浴びの好きなシュウシュウのために池を作っていたのだった。シュウシュウはとてもよろこんで、その後は、ラオジンの仕事を手伝ったりして打ち解けていくようになった。
 放牧の労働が終わり、成都に帰る時が来たにもかかわらず、迎えの軍が来ない。中央では文革に対しての反発を押さえきれなくなって混乱していたためシュウシュウの事は忘れられてしまったのだ。そんなことは全然知らないシュウシュウはじっと迎えのものを待っていた。そんな時、行商の男がラオジンのテントを訪れた際にシュウシュウに話し掛ける。シュウシュウは中央に顔が利くという男の言葉を信じ込み、男に身を委ねてしまう。その後、軍人や高官だと名乗る男達がつぎつぎにラオジンのテントに来て、シュウシュウを凌辱していく。シュウシュウはいつのまにか家に帰れるのなら何でもやるようになっていた。それを目の当たりにしてもシュウシュウの気持ちを考えるとじっと耐えていただけのラオジンがそこにいた。そんな地獄のような日々が続いていてとうとう懸念していたことが起こってしまった。ラオジンは村に下りてその相手を必死に探す。が、やはりそこにはいないようだ。そのまま、シュウシュウを病院に連れて行き、手術・入院させた。ふもとではすっかりシュウシュウは有名人になっていて、売女呼ばわりされるようになっていた。それをじっと耐えて聞いているラオジン…。そんなある日、怪我で入院している男がシュウシュウの病室に押しかけた。中から鍵をかけてしまい、ラオジンは開けろ!とわめき、扉を壊そうとしたが周りの者に取り押さえられてしまう。なんでも、このとき、シュウシュウに「体を壊せば都会に帰れる」ことを吹きこんだようだ。シュウシュウは夜、病室から
抜け出し、体を壊そうとしたようだが、気力なく、倒れてしまう。物音に気づいたラオジンはすぐにシュウシュウを抱えて山に帰った。容態もよくなった頃。シュウシュウは自分の足を銃で打ちぬくと言い出した。ラオジンには止める術もない。しかし、シュウシュウにはやっぱり出来ない。シュウシュウはラオジンに足を打ちぬくようにお願いする。そうすると軍の任務は遂行できず、成都に返されると思ったからだ。いままでもずっとシュウシュウの言うことを無言で聞き入れてきたラオジンは黙って銃を構える。するとシュウシュウは「待って」といい、スカーフを首に巻き、長い髪を、始めてあったときと同じ三つ編みにしてラオジンをじっと見つめる。何を言いたかったのか…ラオジンにはその意味がわかったらしく、銃を構え、シュウシュウの急所を打ちぬいた。そしてラオジンはシュウシュウが水浴びした池にシュウシュウを収めて銃口を自らに向けて引き金を引いた。2人は始めて一緒になれてそこですべてが終わった…

(感想) 泣けます。これは。何がって、そりゃもう、あまりにも悲しすぎるからです。文革という時代の流れに完全に弄ばれた16歳の少女が必死にもがき苦しんでいるのをみていると、何も感じないわけないじゃないですか。とにかく「ちょっと生意気」などこにでもいる女の子がいきなり辺境の地に連れて行かれてしまうだけでも大変なことなのに、そこから「まともに」帰ることすら出来なくなってしまう。孤立無援な状態になり追いこまれると何でもせざるを得ない、それを年端のいかない少女が決断しなければならない現実。そして、それを受け入れなければならない無常。そして、今際の際に知ることが出来た本当の愛…そしてそのときにスカーフを首に巻くしぐさとその意味…今から見に行く機会のある方は、ハンカチは必携です。主演はシュウシュウ演じるルールーは実質の映画デビュー作。少女から女性へと変わっていく役を体当たりの演技でみせてくれます。ラオジン役のロプサンはチベットでは有名な役者らしく、朴訥さが「にじみ出る」いい味出しています。
 文革時に実際2-3000万人の若者が「強制労働」に駆り出されたといわれているため、このような悲劇があちこちであったと考えると恐ろしいことです。それゆえ、中国当局が撮影許可を最後まで下ろさなかったんでしょう。結局、見つからないように撮影され出来あがった、「問題作」ともいえるかも。アメリカ映画だし、台湾では映画祭で賞をほぼ、独占した作品ですから。監督は「ラスト・エンペラー」の女帝役でおなじみのジョアン・チェン。監督処女作のこの作品は、原作を読んで即決で映画にするとしたそうです。監督や原作者の世代はちょうど、文革世代で彼女達の思い入れも相当入っているものと思われます。個人的にはストーリーなんかはデビュー作らしく少々荒っぽくも、作り手の想いが直接伝わってくる、大変いい作品だと思います。



 

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