『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第2節 《分詞構文》という了解


〔注1−14〕

   「カンマを伴う分詞句」と母節との間に、意味の水準で成立している関係の在り方については、必ずしも慣用的表現と見なされているわけではない語群の場合にも時には、解読してその在り方を闡明すること自体が無用である、即ち、関係の在り方は自ずから定まっている、と言明されることがある。

Being poor, he could not afford to buy books.(貧乏だったので、彼は本を買う余裕がなかった。)
(注)「being[having been]を用いた分詞構文は、原則として『原因・理由』の意味を表すと」と考えてよい。
(清水周裕『現代英文法』、p.356)(下線は引用者)
   別の記述。
(注)beingで始まる分詞構文は原因・理由を表すのがふつう。
(宮川幸久・綿貫陽・須貝猛敏・高松尚弘『ロイヤル英文法』(p.465) 

Being poor, he could not afford a car. (貧乏のため車が買えなかった)/I thought you would know, being a friend of mine.(友だちだもの、君はわかっていると思った)のような、過去分詞をともなわないbeingは略せない。またこのようなbeingは原因(理由)を示し、けっして時を示さず、まただいたい、条件を示さない。」
(清水護『英文法辞典』, Participial Construction (分詞構文)の項, p.429)(下線は引用者)

   次に、Jespersen, Essentials of English Grammarから。
I thought you would know, being a friend of the family. (このように用いられたbeingは時を示すのではなく、常に原因や理由を示すことに注意。)(9.63) (下線は引用者)
   次いで、英語でかかれた学習用文法書、PEG中の文例と記述。
(以下の文例のような)文頭のbeingは「彼は…であるので/であったので」を意味するのが普通であることに注意。
Being a student he was naturally interested in museums = Because/As he was a student etc.〈学生であった彼は当然のことながら博物館に関心があった。=彼は学生であったので…。〉
(PEG, 277)(カンマがないのは原文通り。下線は引用者)
   更にPEUにはこうある。
-ing節では、状態動詞は普通、理由や原因を示唆する。(455)
   以下はCGELに見られる記述と文例。
-ing節では、動作を表わす動詞は時間的つながりを、状態動詞は因果的つながりを示唆する傾向がある。
Reaching the river, we pitched camp for the night. [‘When we reached the river, ….’]
Being a farmer, he is suspicious of all governmental interference. [‘Since he is a farmer, …’]
(15.60,NOTE [b])(下線は引用者)
   ただし、こうした「約定」を無視する受け手もいる。
Being stupid and having no imagination, animals often behave far more sensibly than men.
= Though they are stupid and (they) have no imagination 「動物は愚かで想像力はないけれども」
分詞椰文の中に含まれるThough……という譲歩の意味を汲み取るのが要点である。「……なので」と解すると主節の内容と矛盾してしまう。
〔訳〕『愚かで想像力はないけれども、動物は人間よりずっと賢くふるまうことがしばしばある。』
(山口俊治『全解 英語構文』、pp.149〜150)(下線は引用者)
   ちなみに、名詞句と「それを後置修飾する関係詞節」との関係の場合、意味の水準でその関係を解読してその在り方を特定する〔論理的関係を類推する〕ことは、そうした関係詞節の文法的機能を考える際には無縁な作業である。

   ところで、分詞句が実現する関係の在り方に関して、意味内容にまで踏み込んだ上で解読することを最も求められるのはどんな要素なのか。PEUの、名詞を制限的に後置修飾する分詞句に関する一節(454)中に、「典型的誤り」として、挙げられている次のような例が手掛かりとなる。

*The boy bringing the milk has been ill. (PEU, 454)
   この文については、以下のような注意と文例が付されている。
何かしら「特定の['definite']」もの(特定の人物・事物・集団など)に言及する名詞の後では、分詞節には進行的意味[progressive meaning]があるのが普通である。

I like the girl sitting on the right. (Or: … who is sitting …) 〈ぼくは右側に座っている女の子が気に入った。〉

The men working on the site were in some danger. (Or: … who were working …) 〈その場所で働いている人たちは幾分危険な状態にいた。〉(ibid)(太字体原文通り)

「典型的誤り」として挙げられた文例のいずこが正されるべきなのか。「今牛乳を配達している最中の少年」ではなく、「いつも牛乳を配達してくれる少年」としたいのであれば、
非進行的意味[non-progressive meaning]を表すには関係詞節を用いよ。(ibid) (太字体原文通り)
   とあり、以下の文例が示されている。
The boy who brings the milk has been ill.〈いつも牛乳を配達してくれる少年はこのところ体調を壊している。〉

The man who threw the bomb was arrested. (Not: *… the man throwing …) 〈爆弾を投げた男は逮捕された。〉("*… the man throwing …"は不可。)(ibid)(太字体原文通り)

   -ing分詞が表す「相[aspect]」については更に以下のような記述がある。
ある名詞の意味について、一般性が優っており「特定性」が薄らいでいる場合、分詞節は、進行的意味[progressive meanings]の場合だけではなく「単純時制['simple-tense']」の意味の場合にも、許容される。以下を比較せよ。

Women looking after small children generally get paid about £1.50 an hour. ( = Women who look …) 〈幼い子供たちの世話をする女性たちは約£1.5の時給を受け取るのが普通である。〉(引用者注…"women"は特定の「女性(たち)を指示しているわけではない)

The woman who looks after my small brother gets paid £1.50 an hour, (Not: *The woman looking …)〈私の幼い弟の世話をしてくれている女性は£1.5の時給を受け取っている。〉(引用者注…"The woman"は特定の女性を指示している。)

Note, however, that this is a very complex area of English grammar, which is not yet very clearly understood.〈しかしながら、この点は英文法の中でも非常に込み入った領域であり、未だあまり明確に理解されていないことに注意。〉
(以上、PEU, 454より)(太字体原文通り。下線は引用者)

   解読を要求される要素は、分詞句と母節の関係の在り方だけではない。例えば、
非定動詞節及び無動詞節においては、時制[tense]、相[aspect]、そして法[mood]もまた、文の脈絡から類推される。(CGEL, 15.58 Note [a])
   時制や法を解読する必要性はCurmeでは次のように述べられている。
そもそもの形容詞的性質及び形態によって身動きとれなくなっているこうした分詞は、法[mood]を表すための形態を未だ発展させておらず、動詞ほど数多くの時制を有していない。かくして、同一の分詞が直説法の動詞としても接続法の動詞としても働かねばならないことがよくある。

'This thing, happening (= since it happened ; past indicative) at the right time, has helped our cause' また'This same thing, happening ( = if it should happen ; past subjunctive) in wartime, would amount to disaster.'
(CURME, Syntax, 48-2)(下線は引用者)

   カンマを伴う分詞句の場合、解読の努力をもっとも求められる要素の一つが「相[aspect]」である可能性を指摘しておく。

(〔注1−14〕 了)

目次頁に戻る
 
© Nojima Akira.
All Rights Reserved.