『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第1節 戦国乱世


〔注1−5〕

   本稿では、「副詞的句」によって機能的範疇を示し、「副詞句」〔副詞を主要語とする句、時には副詞一語〕によって形態的範疇を示すことにする。従って、前置詞句や名詞句(時には名詞一語)(形態的範疇)は、「副詞的句」や「形容詞的句」の機能を発揮することがある。「形容詞的句」と「形容詞句」についても同じような区別を認めている。

   「副詞要素」という機能的範疇を用いることがある。「副詞的句」や「副詞節」は「副詞要素」である。CGEL中の用語"adverbial"には「副詞的要素」という語を充てた。 また、「形容詞要素」によって機能的範疇を示す。従って、例えば前置詞句が「形容詞要素」の機能を発揮する場合もある。「形容詞的句」や「形容詞節」は「形容詞要素」である。

   また、あえて「副詞的句」という耳障りな表現を用いるのは、節〔文の一部を構成し、「主辞+定動詞」という形態を備えた意味単位〕と句〔文の一部を構成し、「主辞+定動詞」という形態を欠いた意味単位〕を区別したいためである。

   現在分詞、過去分詞の代わりに、-ing分詞、-ed分詞と記述する。-ing分詞は現在時を示すわけではないし、-ed分詞は過去時を示すわけではないからである。

動詞的ing[verbal ing]は時に関しては中立的であり、文の他の部分に応じて、過去時、現在時あるいは未来時に言及する。
(KRUISINGA & ERADES, An English Grammar, 251.2)
   本稿で用いる主辞(S)、動詞辞(V)、目的辞(O)、補辞(C)などの「文の要素を表す用語」について述べておく。英語でも日本語でも、verb[動詞]は「述語動詞」(時には「述語動詞部」の主要語)でもあり、「品詞としての動詞」でもあるという点で紛らわしさをのがれない(CGEL, 2.13,Note[c]参照)。学生にとって「主語」という用語もつまらぬ躓きのもととなっている。主辞は多くの場合、語というより語群である。

   例えば、

"the big dog that my brother bought yesterday in London barked furiously at the butcher"では最初の10語(斜字体)が主辞[subject]であり、残る部分が述辞[predicate]である。(Otto Jespersen, Essentials of English Grammar, 10-1-1)
      「主辞」は「主辞の中心語[あるいは主要語"head"]」ではない。そのため、敢えて「主辞」(主部としても同じである)という表現を用いる。「目的辞」と「補辞」についても同じである。例えば、「目的辞」や「補辞」としての統語的機能を発揮している「節」を「目的語」や「補語」と呼ぶことには不具合を感じるのである。本稿で副詞要素を「副詞辞」と表記しないのは、「(前置詞とは異なり)目的語に直接言及せずに、空間または時間内の、移動または位置を指し示す」語である「副詞辞[adverbial participle]」(R.A.クロース、齊藤俊雄訳『クロース 現代英語文法』p.209)との区別の必要性を考慮したからである。

   ちなみに、藤堂明保・松本昭・竹田晃編『漢字源』では、「辞」の@に「ことば。単語をつらねたことば。細かい表現」とある。「語」のDには「意味をあらわしことばの最小単位になるもの。単語」とある。

   CGELの用語"adverbials"について言えば、同書では、「副詞的要素(A)」は主辞(S)、動詞辞(V)、目的辞(O)、補辞(C)などと並ぶ文の要素の一つである。

節の諸要素(SVOCA)の中で、A要素[adverbial element]はSVに次いで最も頻繁に出現する要素である。従位的であれ独立したものであれ、節の大多数は、少なくとも一つの副詞的要素を含んでいる。英語用法言語資料では、口頭英語も文字英語も同じように、資料100語ごとに平均して15の副詞的要素がある。(8.1,Note)
   CGELでは「副詞句[adverb phrase]」(形態的範疇)と「副詞的要素」は区別されている。
副詞句、前置詞句、あるいはそれ以外の語群が、節の要素の外で機能している〔即ち、文法的に節の要素とは別個である〕か、それとも節の要素内で機能している〔即ち、文法的に節の要素の一部である〕かに応じて、明確で原理的な区別を行っている。(8.1)
   従って、以下の文例[1][2][3]の下線部は副詞的要素である。しかし、文例[4][5][6]の下線部は、それぞれ副詞句、形容詞句、副詞である。文例[4][5][6]中の語(群)("very beautifully", "in the garage", "really")は、
文例[4][5]では目的辞を、文例[6]では補辞を全体として実現している語句の一部として働いている。

The girl was dressed very beautifully. [1]

I keep a spare bicycle in the garage. [2]

She really is an intelligent child. [3]

I saw a very beautifully dressed girl. [4]

I keep the bicycle in the garage well oiled. [5]

She is a really intelligent child. [6]

(CGEL, 8.1)(下線と太字体は引用者)

(〔注1−5〕 了)

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