『カンマを伴う分詞句について』(野島明 著)
第一章 「カンマを伴う分詞句」をめぐる一般的形勢、及び基礎的作業

第6節 「脈絡内照応性」と世界の揺らぎ


〔注1−54〕

   発話(1−10)に至るまでの脈絡に通じ、それゆえ、「物語の話者」の身分を分かち持ち、半ば超越的視点から《話者=老商人》や《受け手=屋台の亭主》を見つめている《半ば神的》な「物語の受け手」は既に次のように語り得るのである。

   "a woman"とは「堀のそばでうずくまり激しく泣いていた、身なりの整った、良家の娘風の髪型の、ほっそりとして上品そうな、老商人が幾度も『お女中』と声をかけもしたが、背を向け、袖で顔をおおったまま、すすり泣くことを止めなかったが、ついには老商人の方を振りむき顔を覆っていた袖をのけ、片手でその顔をなでると、そこには目も鼻も口もなかった」である、と。

(〔注1−54〕 了)

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