恋におちたシエイクスピア

Shakespeare In Love

監督 ジョン・マツデン

主演 グウイネス・パルトワロウ

       ジョセフ・ファインズ

「ロミオとジュリエット」という名作がつくられた時に、シェイクスピアはどんな環境のもとに生きどんな経験をしていたのかという空想がこの映画にはあるのだろう。

勿論、エリザベス女王の時代のイギリスが大英帝国の階段を上っていく時に生きたシェイクスピアの生活環境というのは綿密に考証されているのだろうから、この映画を見る楽しみの一つはそうした舞台背景にもある。

しかし、なんといっても全体を見て中々 楽しめる良い映画に仕上がっているのはやはり、下地に「ロミオとジュリエット」という優れた劇が織り込まれているからだろうと思われる。よくある、有名な小説の映画化とは違う。これがこの映画のアイデアであり、面白い企画だと思う。

つまり、この映画では本物のシェイクスピアが登場する。そして、彼が真剣に愛した女性が登場するのだ。ただ、この女性はどうも架空の人物と考えられる。だいたいシェイクスピアの様な天才がどんな生涯をおくったのか詳しいことは分かっていないと聞くが、それでもあれだけの劇を書ける人にそれ相応の恋愛が実際にあったと空想する方がむしろ自然だ。

1953年のロンドン。芝居熱が花ひらき、二つの芝居小屋がはりあっていた。

一つはシェイクスピアが劇作家として所属していたヘンズロー設立のローズ座。テムズ川の対岸にあった。もう一つは人気役者バーベージのいるカーテン座。ここにはシェイクスピアと才能の上では肩を並べる天才マーロウがいた。彼は若くして死ぬ。一説によると、酒場の喧嘩にまきこまれた不慮の死とも言われる。

ローズ座は資金難で、シェイクスピアの次の作品が期待されていた。この映画に出てくる

シェイクスピアの恋人役 ヴァイオラ嬢は 大商人の娘。芝居好きで、役者になりたいと思う程。ある日 トマス・ケントと男の名を名乗り、観客のいないローズ座に顔を出し、詩を朗読していると、シェイクスピアが影でそれを聞いていて、ケントに声をかける。

ちょうど、役者が不足していた時で、シェイクスピアはケントが少年と思い、後を追いかける。

当時 女は役者になれず 声がわりをしていない少年が女の代わりをした。シェイクスピアは ケントを追いかけて、町からテムズ川に、そして、舟でケントの館つまりヴァイオラ嬢の家にたどりつく。

ヴァイオラ嬢のパーティーに出席してヴァイオラ嬢を見初めて彼女とダンスを踊るところなど ロミオとジュリエットの出合いの場面そっくり。

シェイクスピアはこういう体験をもとにして、あの劇の場面を書いたのだと見る者に想像をかきたてる。シェイクスピアは真剣にヴァイオラ嬢に恋しているのに、彼女を巨大な持参金つきの美しい娘として、ある貴族が父親と勝手に話を進め、女王の許可のもとに妻としてしまう。ここにシエイクスピアの恋の悲劇がある。その貴族にパーティの場面でナイフを首につきつけられて、パーティを追い出される。

私はオリビア・ハッセーがジュリエット役の映画の仮面舞踏会で歌われる歌をふと思い出した。私の心に響いたあの歌は忘れることが出来ない。

歌詞はシェイクスピアのソネットによく出てくるテーマにある若さと無常である。光陰は夢の如く過ぎ去る、若く美しい花はやがて色あせて散っていく。甘い青春の香りが漂う美しい季節がきたら、乙女よ恋をしよう、そこでこそ人のいのちを燃やし、愛の花を開花させることが出来るという様な印象の歌はこの劇の全編を貫く神秘な糸である。

さて、シェイクスピアは 館のバルコニーに出る。あれこそ、有名な名作のバルコニーの場面を再現したのだろう。

ヴァイオラ嬢は「ロミオ、ロミオ」とつぶやき、「ヴェローナの若者」と言い、「シェイクスピアの喜劇」と独り言を言う。{そうだ、最初は喜劇として書かれようとした台本がいつの間に悲劇に変っていく}

そして、下で聞いていたシェイクスピアが「ヴァイオラ様」と答える。会話はかなり違うけどあの有名な場面の会話を思い出す人は多い筈。シェイクスピアはヴィオラ嬢の乳母に大声をたてられ、一目散に逃げ、自分の部屋に戻ると一気に筆が進む。「ロミオとジュリエット」の完成に向かって。 {音風祐介}

 

ロミオとジュリエットの有名なバルコニーの場面。この場面はこの「恋におちたシェイクスピア」という映画の様に、もしかしたらシェイクスピアがヴァイオラ嬢との恋を経験して、創作したのかもしれない。

さて、本物のではこうなっている。

Romeo. But soft , what light through yonder window breaks

や、待てよ! あの窓から洩るる光明は?

It is the east and Juliet is the sun!

あれは 東方 なればヂュリェットは太陽じゃ!

Arise fair sun and kill the envious moon

ああ、昇れ、麗しい太陽よ、そして嫉妬深い月を殺せ、

Who is already sick and pale with grief

That thou her maid art far more fair than she.

あいつは腰元の卿の方が美しいのを悔しがって、

あの通り、青ざめている。

Be not her maid since she is envious,

あのやきもち屋に奉公するのはよしゃれ

Her vestal livery is but sick and green

あいつの衣服は青白い嫌な色ぢやゆえ

And none but fools do wear it. Cast it off.

あほの外は誰も着ぬ 脱いでしまや

It is my lady, O it is my love!

おお、 ありゃ 姫じゃ。 恋人ぢや!

O that she knew she were!

ああ この心を知らせたいな

She speks, yet she says nothing . What of that?

何やら言うている。いや、何も言うてはいぬ。 言はいでもかまわぬ

Her eye discourses, I will answer it.

あの目が物を言う あの目に返答しよう

I am too bold. ' Tis not to me she speks.

ああ こりゃあんまり厚かましかった 俺に言うているのではない

Two of the fairest stars in all the heaven,

大空中で最も美しい二つの星が

Having some business, do entreat her eyes

To twinkle in their spheres till they return.

何か用があってよそへ行くとて その間 代わって

光ってくれと姫の眼に頼んだのぢゃな。

What if her eyes were there, they in her head?

もし眼が星の座におり、星が姫の頭に宿ったら、何とあろう!

The brightness of her cheek would shame those stars

姫の頬の美しさには星もはにかまうぞ

As daylight doth a lamp. Her eyes in heaven

日光の前のランプの様に。しかるに天へのぼった姫の眼は

Would through the airy region stream so bright

大空中を残る隈もなく照らそうによって

That birds would sing and think it were not night

鳥どもが昼かと思うて さぞ さえずることであろう

See how she leans her cheek upon her hand.

あれ 頬を掌へもたせている

O that I were a glove upon that hand,

That I might touch that cheek.

おお あの頬に触れようために あの手袋になりたいな

Juliet Ay me.

ああ ああ

Romeo She speaks.

物を言うた。

O speak again bright angel, for thou art

おお、今一度 物言うて下され、天人どの!

As glorious to this night, being o'er my head,

頭上にこの夜 光り輝いておいやる姿は

As is a winged messenger of heaven

羽のある天の使いが

Unto the white -upturned wondering eyes

驚きあやしんで 目を白うして

Of mortals that fall back to gaze on him

後ろへ下がって見上げている人間共の上に

When he bestrides the lazy-puffing clouds

静かに漂う雲に乗って

And sails upon the bosom of the air.

虚空の中心を渡っているよう

Juliet O Romeo,Romeo,wherefore art thou Romeo?

おお、ロミオ、ロミオ! 何故 おまえは ロミオじゃ。

Deny thy father and refuse thy name.

父親をも、自身の名も棄ててしまや。

訳は坪内逍遥から、ただし、ごく一部に読みやすくした所があります}

Charles Lambの書いた「Romeo and Juliet」のバルコニーの場面をお読みになりたい方はクリックして下さい。シェイクスピアのセリフの魅力を生かしながら書いているので

素晴らしい文章になっています。 HOE