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神尾晴子、観鈴の親子SS劇場! 過去ログ#3 運用2000年4月10日〜2000年4月21日

[73] Fate/valentine fight(仮題)・第6編   </秘密> 投稿者:SIO 投稿日:2006/02/14(Tue) 22:53:30

(‥‥‥・・・・・・)
 呆然と手に持ったそれを見つめている士郎。
 それは前置きで言われてたとおり、プレゼントとしては無骨すぎるもので。
 小瓶に詰められた何か、得体の知れない色合いをした薬品もどきだった。
 その中身は完全に混ざりきってない暗緑色と深茶色とが、毒々しいストライプを醸し出しており。
 瓶に貼られた金色のラベルには、読めない異国語が羅列されてるのはともかく。
 なにか蛇とか蛙とかの不気味なシルエットとかが描いてあるのはなぜ?

「ご心配なく。べつに怪しい代物ではありませんから」
 そう涼しげな表情で言うライダーだが。
 どこからどう見ても怪しさ大爆発であった。
 
「これは、贈り物、なんだよな?」
 恐る恐る聞いてみる士郎。
 さっきの桜の時の失敗から学習したところ、ここで褒め称えたり味見したりしなければいけないのだろうか。

『これはまた毒々しくて、いい色合いだなライダー』
『うん、この苦みばしって舌の痺れるところがまた何とも!』

 ・・・・・・難しそうだった。

「ええ。ですが別に誉めたり味見したりしなくても結構です。今のところは」
 最後の一言が気になったが、とりあえず「今そこにある危機」だけは無くなったようだ。
「ごめん、さっきこれのことを何て説明してたんだっけ」
「ですから栄養剤ですよ。元気ハツラツで24時間頑張れるという、よくテレビで紹介してる類の」
 しれっとそう答えるライダー。  
 だが目の前のそれはそんな、歯が白い芸能人がにこやかに勧めている類とはあきらかに異質なもので。

「―――むしろ強精剤とかに見えるんだけどな」
 つい正直な感想が口に出た。
 だがライダーはその指摘で気を悪くするでもなく。
「まあ、間違いではありません。むしろそういう認識で、然るべき時に服用するのが良策でしょう」
 淡々とそう述べるだけだった。
 
「・・・・・・・・・・・・って」
 はいそうですかと受け取るのは、何か納得できなかった。
 なんか自分の種としての生命力を、あからさまに低いと断定されているような。
「気持ちはありがたいけどさ。俺は」
 そんなものの世話になる必要は全然ありません。
 むしろこの異様にうら若き女性ばかり増えた衛宮邸の中では。
「そういうの」を抑える薬の方がよっぽどありがたかったり。

「気を悪くしたのならすみません。いざという時の保険くらいに考えていただければ良かったのですが」
 ライダーが先手を取って抗議を遮ったため、むっと黙ってしまう士郎。
 まだ納得はいかない様子の彼に、ライダーが改めて向き直る。
「あなたの男性としての能力を低く見ているわけではありませんよ。
 あえて言えばむしろ士郎が、房事において相手に優しくしているかが気がかりですけど」

 って、おい。
「いきなり何を・・・・・・」
「下世話な話題に聞こえるかも知れません。
 ですが桜のサーヴァントとしては安易に看過できない事です。
 士郎くらいの年代では、自分の欲望ばかりが先走ってパートナーに優しくなれない事が多い。
 いままでそういう反省が一度も無かったと言い切れますか?」

 ―――嘘はつけない。でもハイソウデスなんて言えるわけも無い。  
 一人でしどもどしている士郎の様子に、くすりと笑いが漏れる。
「相変わらず素直ですね士郎は。あなたのそういうところは、時に可愛らしいです」

 またしても黙り込んでしまった士郎はやがて。沈黙を破って一言こう漏らず。 
「やめてくれよ」
 なるべく穏やかな声音にしたつもりだった。だがどうしても怒りの色は隠せない。
 いらぬお世話まで焼かれた上に、スーパーモデル並みの長身のライダーから「可愛らしい」と言われて。
 平均よりやや背の低い士郎にとっては、それは相手の意図はともかく侮蔑にしか聞こえなかった。

「・・・・・・・・・・・・」
 今度はライダーが黙り込んだ。意外な反応に少々戸惑っているのか。
 やがてゆっくりと士郎に近づき、正面からそっと肩に手を置いて話しかけた。
「すみませんでした‥‥‥今のは正直な賛美だったのですが。
 しかし殿方にとっては時に、こう言われるのは心外だった事を忘れてました。謝ります」
「ああ、わかったよ」
 士郎の声音が元に戻っていた。  
「俺もライダーのことをよく「カッコいい」って言って怒られるもんな。
 それはその背丈が羨ましいからなんだけど、結局同じような事を言ってたんだ。
 だから、もう怒ってないよ」
 ライダーの固かった表情が徐々にほころんできた。
「では仲直りですね、士郎」
「ああ」
 そう言って士郎はそっと、ライダーの肩にかけられた手を放そうとしたが。
「だから・・・・・・」
 もうこの場は退場したいと思ったのだが。ライダーは士郎を離そうとしない。
「そう急がなくてもよいではないですか。
 ―――せっかくの仲直りですから、もう少し親密を深めましょう」
 そう言って士郎の肩にあった手を、ゆっくりと首の後ろにまで回してきた。
 つう、と蛇が這うような感触が首筋を走り。士郎の全身の肌が泡立った。
 
 思わずのけぞって逃がれようとしたが。
 直ぐに後ろの本の山にぶつかって。上の本がガサッと崩れ落ちた。
 その拍子で士郎はバランスを崩し、仰向け寸前にまで身体を倒してしまい。
 その上にのしかかる形になったライダーの長い髪が。一瞬士郎の視界を覆う。

「――――――!」
 慌てて首を振って、それを払うと。妖艶な表情のライダーが間近に現れた。
 視界にはライダーの顔と長い髪ばかりで。罠にかかった小動物のように固まる士郎。
「そんなに避けないでください。
 あなたにはインナーを見立てて貰ったり、髪まで洗っていただいた仲ではないですか。
 今さら私との秘め事が一つくらい増えようと、それは些細な事でしょう?」
 その言葉と甘い吐息とが、包み込むように流れてきて。
 ここがどこなのかも見失いそうになって、視線が泳ぐ。
 獲物を狙う女豹のように、しなやかに顔を寄せて来るライダー。
「力を抜いてください。これは私とあなたとの、そう、ちょっとしたトレーニングですから。
 私がリードしますから、あなたはただ自分の身体を好きなように動かせばいい・・・・・・」

                    (to be continued)

[72] Fate/valentine fight(仮題)・第5編   </譴責> 投稿者:SIO 投稿日:2006/02/10(Fri) 22:17:15

「どうぞ適当にお座りください。ちらかっていてすみませんが」
 慇懃な態度で士郎を招き入れるライダー。
 言うほどではないがその部屋の中は。
 相変わらずジャンルを問わない本の山が、あちこちに積まれていた。
「ああ・・・・・・」
 士郎が促されるままに腰を下ろすと。
 ライダーは何故か座ろうとせず、立ったまま手を腰に当てて言った。
「さて。答えは予想がつきますが、一応聞いてみます。
 士郎、あなたは何故わたしに呼ばれたのか分かって無いようですね」
「―――ごめん。確かにわからない」
 その素直な返答に、軽くため息をついてみせるライダー。
「では別の質問をします。あなたは桜のプレゼントを、あの後どうするつもりだったのですか?」

 どうするって。
 士郎にとってはあれを受け取った事で「桜のプレゼント進呈」は終わっていて、
 あとは腕によりをかけた夕食でお返しをしようと思っていた矢先なわけで。
「後で食べる、いや、頂くつもりだったんだけど」
「‥‥‥でしょうね。それがあなたにとっては自然な行為でしょうが」
 ライダーの瞳が冷たく光る。
「どこが悪かったのか、教えてくれないかな」
「聞く前に、想像してみて下さい。
 桜は今日のために、どんなケーキにしようかと思いを巡らせてました。
 そしていくつもの候補の中から厳選して一つを選択して。
 材料も慎重に選びながら、心を込めてケーキ作りに励んでました。
 ナッツとフルーツで最後の仕上げにかかっている時の桜は、なんと楽しそうだったことか」
「・・・・・・・・・・・・」
 士郎は真剣にその想像に励んでみた。一生懸命な桜。
 自宅のキッチンで楽しそうに、ケーキのデコレートに勤しんでいる桜を。
「あ」
 思わず顔をあげる士郎。
 正面にはいつのまにか、しゃがみこんでいたライダーのアップ。
 今度は士郎もひるまず、お互い真剣な目つきで見詰め合う。
「そうか・・・・・・」
「そうです。その成果をあなたはろくに見ようともせず、お歳暮の詰め合わせのごとくつれない受け取り方をしたのです」
 しまった、と思わず顔に手をあてる。
 だがライダーは容赦なく叱責を続けてきた。

「あの桜が、心を込めて作ったケーキですよ。
 なぜ一目見てその出来上がりを褒め称えようともしなかったのですか?
 一口の味見さえしないなど、あまりに失礼ではありませんかっ!
 そのケーキは彼女の心のように華麗で、私でさえ食指が動いたほどです。
 どこかの大食いサーヴァントならともかく、食の細い私でさえ、です。
 ええ。もし目の前にアヤコの白い首筋があっても、どちらを取るか悩むであろうほどにっ」

 ―――美綴の首をケーキの例えに出すのはどうかと思ったが。
 士郎もやっと、ライダーの怒りを理解した。そして桜を落胆させてしまった事も。
「ごめん。俺が無神経だった」
「私に謝っても仕方ありません」
「そうだな。じゃあ、すぐ桜に」
 そう言って慌てて立とうとしたら。はっしとその肩を抑えられた。
「だから、頭を下げられても桜が困るだけでしょう!」
 う、とそのまま腰を落とす士郎。
「あなたの心根が素直なのはわかりました。ですがそれは、時に残酷と紙一重ですよ。 
 とりあえず今は気付かなかったふりをして、後で改めて桜の目の前で喜べばいいんです」
「‥‥‥わかった。そうするよ。ありがとうな、ライダー」
 沈みがちな表情ながら、どこか腹を据えた様子でそう言って座り込んだ。

 自分の気持ちだけが治まっても仕方が無い。
 今はライダーの言うとおり、桜の気持ちにどう応えるかが大事なのであって。
 なら今はまだ無神経なふりを続けていたほうがよいのだと。

 そんな士郎の殊勝な様子は、ライダーにも少し予想外だったようで。
 しばらくの沈黙の後。ぽつりとこう言った。

「ではこの件はこれで終わりにします。
 ところで私からも一応、プレゼントがあるのですが」

                        (続く)

[71] Fate/valentine fight(仮題)・第4編   </prelude> 投稿者:SIO 投稿日:2006/02/09(Thu) 20:43:40

 そして凛と入れ替わるようにして桜たちが入ってきた。 
「先輩、今日が何の日なのかは知ってますよね?」
 ぴょんと一歩前に出ながら、目をキラキラ輝かせて士郎を見つめる桜。
 姉の遠坂と違って、直球ど真ん中ストレートな態度であった。
 なんと言うか、こう、もし桜に尻尾が生えていたら。
 嬉しいときの犬みたいに。後ろでピコピコと振ってるんじゃないかってくらい。

(って、なに想像してるんだよ!)
 頭の中に浮かんだ妙な絵を、士郎は慌てて消去した。
「ええっと・・・・・・」
 素直に答えたものか、知らないふりがいいのか。さっきの遠坂の逆鱗ぶりを考えたらやはり―――
 
 そこでふと視線を感じた。
 なにか蛙を狙う蛇のような、穏やかならぬ気配。

 気が付くとライダーが。桜から少し後の方で、妖しい目つきで静かに立っていた。
 顔をあげて長身の彼女と眼が合うと。「それ」が脳内に強く伝わってくる。

(本当はわかってるんでしょう? 勿体ぶるのはいけませんよ、士郎)

 ライダーの眼から発せられた無言のプレッシャーは、言葉よりも鋭く雄弁に突き刺さる。
 その眼に射すくめられた士郎は立っているのがやっとだった。背中に何か冷たい汗が流れた。

「バ、バレンタインデーだよな」
「そうですよ! やっぱり覚えてましたよねっ」
 軽く飛んでみせて大げさに喜ぶ桜。
「酷いんですよ、ライダーったら。
『士郎はああいう人ですから忘れてるでしょう』なんて言うんだから」

 それはついさっきまで当たっていたのだが、知らぬが仏である。
 ライダーもさすがサーヴァントらしく、桜を立てて小芝居を始めた。
「ほう、承知してましたか。士郎を少し見くびっていたようですね」
 そういって感心したように驚いてみせる。
 その様子が、見せかけとはいえ少し安心を与えて。
「そりゃ知ってたさ」と士郎も調子を合わせる。
 
 そして桜は手元の箱を、そっと両手で差し出した。
「あまり自信が無いですけど、受け取ってください。バレンタインのプレゼント第一弾です」
 そう言って彼女が浮かべた、その暖かい笑顔は。
 まるで周囲に花を咲かせているかのように華やかだった。

 殺気さえ感じさせた凛の時とは、姉妹でありながらまさに真逆である。
 
 受けとった箱の形と重さから、手造りのケーキといったところか。
「ありがとうな、桜」
 士郎はにっこりと微笑んでそう言った。
 桜はその短い言葉が、本当に嬉しそうで。
 後ではライダーが何故か、ビッと親指を突き立てていた。
 
「じゃあ、今日の夕食は腕によりをかけなきゃなっ」
 そう言ってその箱を抱えたまま、踵を返し台所へと向かいかけた士郎。

 ――――――違和感があった。

 それまでの和やかな雰囲気に、無意識で冷や水をかけてしまったかのような。
 その足を止めてそっと振り返ると。
 桜はきょとんとした顔で、まだ何が起きたのか把握できないようで。 
 隣のライダーの方が状況把握が早く。その眉が徐々に険しくつり上がっていた。

「士郎! あなたはっ」
 そう言ってドン、と前に踏み込んで来ようとしたライダーの前を。
 体型的にハンデのある桜が、器用に遮って言った。
「そうですね、もう夕御飯の前ですものね!」
 自分とライダーに言い聞かせるように、少し高い声を出す桜。

 ライダーは出鼻をくじかれ、士郎は相変わらず分かっていない。
 だからここは桜が先を進めるしかないわけで。
「でも今日の御飯は私に決めさせて下さい。これもバレンタインの、そう、第二弾ですから」
 にっこりとそう言って、桜は台所へと歩いていった。
 士郎に気取られないように、軽く「よっし」と自分に気合を入れながら。

 残された二人の間に 微妙な空気が流れた。
「士郎、用を思い出したので顔を貸してもらえますか。すみませんが、私の部屋へ」
 静かな口調でライダーがそう言って、自分の部屋へと歩を進める。
 ふと振り返ったその眼は、笑っていなかった。 
 むしろここで士郎が断りや躊躇を見せたら。
 鎖でふん縛って家中引きずり回しますよとでも言いたげな顔つきで。

                 (続きます)

[70] Fate/valentine fight(仮題)・第3編   </先陣> 投稿者:SIO 投稿日:2006/02/09(Thu) 20:42:19

※お詫びとお知らせ

第3編の作成・UPについては、一時保留とさせていただきます。
遅筆ながらも14日までにラストシーンを書き出したいため、この選択となりました。
第3編</先陣>(設定・2月14日午後衛宮邸。遠坂凛の話)は本編が完結した後に
あらためて補完する予定です。どうかご了承下さいm(_ _)m

[69] 特別企画 Fate/valentine fight(仮題)・第2編   </試練> 投稿者:SIO 投稿日:2006/02/05(Sun) 22:17:17

 ―――数日後。
 今度はあえて士郎の不在時を狙って、台所に立っている大河とセイバー。

「なんか久しぶりよね、こういうのって。学生時代を思い出すわー」
 楽しそうにそう言いながら、チョコを細かく刻んでゆく大河だったが。
「はい・・・・・・」
 隣で神妙にその手順を観察していたセイバーは、何となく不安そうな表情だ。

「でも何故かあげるより貰うことも多かったりしてね。後は友達に頼まれて」
「タイガ、ちょっとよろしいでしょうか」
 たまらず口を挟んでしまうセイバー。

「でもその友達がまた・・・・・・ってごめん、何か言った?」
「手を止めさせてすみません。これからの手順の概略について、一応ご説明いただきたいのですが」
「へ?」
「私たちはその、これからチョコレートを作るのだと思ってました」
「そうだよ? だから材料も道具も揃えてきたんじゃない」
「しかしその中に既に市販のチョコレートがあるというのが納得いきません。
 手作りというからには、まずカカオ豆の入手から始めるべきではないでしょうか」
「――――――」
 大河はフリーズした。またしても目が点になっていた。


          ***


 それから数十分程が経過して。
 一般家庭におけるカカオ豆からのチョコレート製造の困難さの説明や
 現代の日本のバレンタインデーにおけるチョコの大まかな位置づけとか
 なぜか大河の学生時代の淡い思い出話まで加わった末に。

「納得はできませんが理解はしました。
 戦場で議論に時間を費やしていては命取りですから、私の抱いた疑問についてはとりあえず留保します」
 言葉の意味はよく分からないが、セイバーはようやく質問を鞘に納めてくれたようだった。

 そこでようやく湯せんを済ませ、型に流し込んだ辺りで電話がなった。
 家主がいないのでとりあえず保護者代わりの大河が受話器を取る。
「もしもし、衛宮ですが・・・・・・なんだ、桜ちゃんか。
 え、弓道部で? ―――それで怪我は? 骨とかは大丈夫だったの?」
 タイガの表情が、教師のそれへと変わっていた。

 なんでも弓道部で新しい部員が、先輩の目を盗んでふざけていて足を痛めたらしい。
 大したことは無いようだが部長の桜から顧問の藤村先生への連絡は必須だったわけで。
 それを聞いた顧問の大河としては、現場に出向かないわけには行かなかった。

「ごめんね、終わったらすぐ戻ってくるから!」
 後は適当にデコレートしておくようにと言い残して、大河は学校へと走っていった。 

 要するに後はナッツをのせたり、ホワイトチョコレートで線描きをしたりすればよいわけで。
 大河が残していった二、三の見本をセイバーは大真面目に観察していた。 

 正直言って、まだよく分かっていなかった。
 チョコレートを贈る風習というのは理解したが、ここまで手間をかけても
 所詮は口に入れば風味が変わるものでも無いだろうにと。  
 もっともこの見本は確かに、可愛らしくて人目を引くものではあった。

(たしかに、魅力は感じますが‥‥‥)

 そう思って一つ、手にとって見る。
 それは確かにさっきの板チョコが形を変え、いくつかのパーツが加わっただけのもの。
 練成されたものではないし魔術を加えたわけでもない。

 だが大河のあのよもやま話を聞いた後では。
 気のせいか、これが全く別の代物に見えてきた。
 思わず一つ口に含んでみる。
 
(甘い―――)

 心を融かすような甘さが口いっぱいに広がった。
 小粒のハート型のそれが。口の中でやさしく自らを転がせ、ゆっくり溶けてゆく。
 
 ‥‥‥少しそれが分かった気がした。 
 糖分を補給するだけならばそれは甘草であれシロップであれ、ただ口に入れられれば十分だと考えていた。

 だが今は平時であり、バレンタインデーのいう独特の行事の最中であって。
 ここには糖分の補給だけでない、確かな付加価値が。
 相手へのおもてなしの気持ちが込められている。
 だからこそこの、何となくホッとさせるこの味わいなのだと。

 タイガの気持ち。シロウへの気持ち。
 ならば自分なりの気持ちを込めて、この加工作業を行なってみよう。
 無意識のうちにもう一つ、それを口に放り込む。

(やはり、いいものですね)  

 できることなら、彼らにも味合わせてみたい。
 かつて共に剣を携えた、名も無き勇士たちの顔を思い浮かべながら。
 セイバーは静かにその甘さを噛みしめる。

 噛みしめる・・・・・・


          ***


「ただいまっ。あー、参ったわよ。ただの捻挫で済んでよかったけどさ。
 セイバーちゃん、出来上がりはどうだったか、な‥‥‥?」

 慌てて台所に目をやるとそこには、隅の方でorz状態になっているセイバーが。

「・・・・・・です」
 何かブツブツつぶやいているので思わずそのそばに駆け寄った。
「え? 何ていったの?」

「私は、民を治め兵を率いる者として失格です‥‥‥王の器ではありません。
 騎士としての誇りさえ失いました。いっそふがいない自分を毀してしまいたい―――」
 自虐の海に、首までどっぷりと浸かっていた。

 わけの分からない大河がふと辺りを見回すと。その異変に気が付いた。
 アルミケースなどの道具はしっかり残っていたが。それ以外の食材が全て消え失せていた。 
 完成品のチョコレートをどこかにしまった形跡は無い。
 ならばその行き先は、目の前でしおれている彼女の小さなお腹しか考えられないわけで。

「あの、もしかしたら・・・・・・」
「弁解はしません。ですが私は自分のこの失態が許せない。
 せめて今後の自分にチョコレートを一切禁じる事で、戒めとします」
 はらはらと落涙するセイバー。
 それはあたかも戦で己が兵を失ったかのような悲嘆ぶりであった。

 実際には単に、チョコのつまみ食いに過ぎなかったのだが。


                   (まだ続く) 

[68] 特別企画 (企画倒れの可能性アリ) 投稿者:SIO 投稿日:2006/02/02(Thu) 22:15:11

  Fate/valentine fight (仮題)


 衛宮家の食卓。
 いつもどおりのにぎやかな食事風景が、ふと一段落しかけた時。
「タイガ、ひとつ教えて欲しいのですが」
 珍しくおかわり二杯で済ませたセイバーが、問いかけた。
「ん、なに? セイバーちゃん」
 食後(おかわり三杯)のお茶を啜りながら、腹の満ちた獅子の穏やかさで応える大河。
 
「バレンタインデーとはどういうものですか?」

 ――――――すべてはこの一言から始まった。


          ***


「ぶっ!」
 大河は思わずお茶を吹き出しそうになったが。
 彼女を気にする物は誰もおらず。その場の空気は一気に、張り詰めたものとなっていた。

(――――――っ!)
(‥‥‥・・・・・・。)

 桜は片付けかけた食器を落としそうになり、
 凛の箸は時を止めたかのように静止したまま。

 ライダーは落ち着いているように見えたが、その眼鏡の奥の瞳は。
 険しささえ感じるような異様な光を湛えていた。
  
大河はしばらくコホコホとむせた後、目を点にして向き直る。
「セ、セイバーちゃん、今まで知らなかったの?」
「‥‥‥聖バレンタインの言伝えについては承知してます。
 ですがこの国における「バレンタイン・デー」という行事について私は、詳しい知識を持たないのです。
 シロウに質問したら「そういうのは藤ねえにでも聞いてくれ」との答えだったのですが」

 ちなみに「生徒会(一成)からの急な手伝い依頼」という名目で、家主の士郎は不在。
 この日の台所は桜と凛の二人に任されていた。 

「ええとね。その、女の人が、男の人に贈り物をする日、かな」
 大河らしい大雑把な説明に、すかさずセイバーの質問が入る。
「それは『特定の関係の相手』という意味でしょうか?」
「う、いや、意外とそうも言い切れないような。義理とか本命とかいろいろ‥‥‥(むにゃむにゃ)」
「ギリですか! やはりこの国に特有の価値観に基づいた行事なのですね。
 私は衛宮の家に寄宿していますから、シロウに対してギリがあると思う。
 商店街で見聞きした限りではやはり、チョコレートを贈るのが妥当なのでしょうか」

 セイバーなりに、それなりの情報は得ていた様子であった。
(どこか本質的な所が抜けていたが) 

「んー、まあそうだけど。せっかくだから手作りとかもいいんじゃないかな。
 まあ士郎は手作りでも市販品でも、気にしないで黙々と食べそうだけどねー」
「相手への誠意が伝わる方法が良いという事ですね。わかりました。
 もしよろしければタイガの都合の良いときに、具体的な作りかたなどご指導いただけませんか」
「いいけど、別に指導するほどのものじゃ」
「ありがとうございます。・・・・・・すみませんが、今日はこの後用事がありますのでこれで」

 隙の無い動きでセイバーは席を立っていった。
 
「そっか、セイバーちゃんから見れば日本だけの変な行事に見えるわよねえ」
 何の気なしにそう口にする大河に、トーンの低い答えが二つ。

「・・・・・・そうですね」
「そうよね」

 桜と凛の声は虚ろで、そのくせ妙に緊張感に満ちていた。
 その異様な雰囲気に大河が「?」と頭の上に疑問符を浮かべていると。

「でも彼女は知ってしまいました。ですからこの件は、この家で遂に周知されたというわけです」
 ライダーが淡々とした口調でそう述べた。

「え、あの。どういう意味? もしかしてバレンタインのことって」
「大河が気にすることではありません。
 ただセイバーが無知だったためにあえて無視されていたこの行事が
『知られざる行事』ではなくなったということだけは事実です。
 ―――さて。わたしも少し用がありますので、お先に」

 ライダーが静かに退場。
「ええと‥‥‥私もそういえば、テストの採点が残ってたんだよねっ」
 妙に重苦しい空気に圧倒されて、大河はすたこらと衛宮邸を後にした。

 どうやら何か、触れてはいけないことだったらしい。
 大河と士郎、それに桜だけだった頃は何て事の無いことだったはずが。
 どこかのラブコメ漫画のようなハーレム状態となった衛宮家ではいつの間にか
 暗黙のルールが出来上がっていて、大河がそれを破ってしまったようだ。
 後に残った桜と凛の間の妙な緊張感がそれを表していた。

(そういえば、他にも誰か座ってたっけ)

 最近の食卓は加速度的に人口が増していて、もはや大河の知らない人が交じっていても気が付かない程なのだ。 


 かくして暗黙の了解は打ち消され、戦士たちの友好協定は破棄されたのだ。 
 衛宮士郎というターゲットをめぐっての攻防がここに開始されたのである。
 
                                   (たぶん続く)

[67] 業務連絡 投稿者: 投稿日:2006/01/30(Mon) 22:23:10

「お、おかあさん、お母さんとわたしの投稿掲示板が、なんでもありになっちゃったよ‥‥‥が、がお‥‥‥」
ぽかっ。
「お母さん、痛いよ‥‥‥」
「それいったら、あかんゆうたやろ‥‥‥って、なんかこんなやりとりも懐かしいな」
「それを言ったら、確か、「お姉さん」と言わないと叩くという設定もあったよ」
「そなここ限定の設定なんか覚えてるやつおらへん」
「20世紀も遠くなったってことだね、お母さん」
「そやな。そやかて、ウチと観鈴は永遠に親子やで〜」
「うん!」

というわけで、時代の流れに合わせてスコープが変わりました。
‥‥‥って、合わせるって今頃ですが。
といいますか、昨日まですっかりここのことも忘れてましたが‥‥‥。

‥‥‥ごめん。晴子さん、観鈴ちん‥‥‥。


「そんなわけで、これからもよろしくだよ。にはは☆」

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