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第八章 災厄の民

 

 今までの文中に幾度となく記載されてきた言葉に「禍族」という言葉があります。文中から意味を抽出すると「術者の敵」「悪い奴」「異世界の住人」などが連想されていくと思います。この章では禍族とは何者なのかを述べていきます。

 

● 禍族とは

 冒頭でも述べましたが、禍族は異世界の住人です。では何故異世界の住人が隣りの世界にやって来ているのでしょうか?
 世界と世界の境界は「無形のエネルギー」でできています。「有形のエネルギー(光・化学・運動・熱・電気の5種類と霊的エネルギー)」ではいくらエネルギー量が多くても「無形のエネルギー」である世界の壁に作用を及ぼすことはありません。一方で、世界の壁と同じ「無形のエネルギー」を用いれば、壁に「穴」をあけることも可能なのです。一箇所に「無形のエネルギー」を大量に集中させることができれば世界の壁はひずみ、禍族たちはひずみから生じた小さな穴からやってきます。
 では、「無形のエネルギー」とはどのようなものでしょうか。代表的なもので意思力と天勢力があります(両者は同じものだと主張する魔法物理学者も多いようです)。これらはDOCルールでは『天勢値』や「縁故」として表現されていますが、通常の測定機器では測ることができないものです。また、有形のエネルギーに正と負があるように、無形のエネルギーにも正と負があります。正の無形エネルギーは希望・歓喜・幸運等に伴って上昇し、負の無形エネルギーは絶望・憎悪・嫉妬・恐怖・侮蔑・怠惰・嫌悪・固執・欲望そして不幸と共に高まります。実際のところ、こういった感情が先なのかエネルギーが先なのかははっきりとしていません。ただ正にせよ負にせよ、無形エネルギーが集まると(すなわち感情が高まると)天勢力や世界の壁に影響を及ぼすのです。禍族たちは負の無形エネルギーをまとめて≪闇≫と呼びます。
 禍族に限らず、異世界からの来訪者は「この世界の」法則に従う必要があります。物理法則にも霊的な法則にもです(第7章 第弐幕参照)。この世界には「質量保存則」がありますので、質量のあるものはこの世界に持ち込めません(式術は式の質量に等しい霊的エネルギーを異世界に放出することでこの問題をクリアしています)。よって、この世界にやってきた禍族は質量をもたない「精神体」の形態をしています。精神体の状態の禍族は一部の(妖術の術力リストに「G」印がついている)術力を除いて、術力を使用することができません。一方で、肉体を持たないのでHPにダメージを受けることがありません(「魔物に対して」ダメージを与える術力である火術<聖火>、水術<聖水>、聖術<聖刃><聖光><神槌><神罰>、符術<破魔符>は効果があります)。ですが、術力の2次効果は効力がありますので、2次効果で死を与えることは可能です。
 精神体の状態の禍族は「霊感」+『感覚力』で禍族の『天勢値』を上回れば認識することができます。弱っていると姿を隠すことさえままならないということです。ただし、禍族は自ら姿を見せることも可能です(特定の一人にだけでも可)。また、禍族同士は無条件で認識することができます。

 

● <融合>

 こちらの世界にやってきた直後の禍族は精神体で、肉体を持っていません。精神体のままでは禍族は限られた能力しか使うことができません。本来術力は身体に依存する遺伝形質のひとつなのです。そこで、禍族達はヒトの肉体を乗っ取ることを思いつきました。肉体のない精神体の状態でならば宿主の精神体(魂)を追い出せれば、その肉体を使用することができるのです。そして禍族としてもできれば性能の良い肉体を欲していますので、術者の肉体から術者の魂を放逐することを狙います。禍族は精神体の状態でも妖術<力探知>によって術力因子保有者(まだ術力を使えない者も含みます)を探すことができます。
 しかし、ヒトの生存本能はとてつもなく強力でした。そう簡単には本人の魂を追い出すことはできません。全ての禍族は魂を追い出して肉体を自分のものにする術力―<融合>―を心得ています。でも妖術<融合>にはひとつだけ制限があり、生きる力、すなわち『天勢値』が高いものに対しては発動しないのです。
 そこで、禍族はまず対象の『天勢』を下げなければなりません。『天勢』を下げるのは比較的簡単で、精神的に追い詰めていくことでヒトは生きる活力を失い、生存本能が衰えていくのです。特に妖術<災厄>を用いて直接『天勢値』を下げなくとも、幻覚や些細な不幸を対象に与えつづけることでも同様の効果が得られることでしょう。例えば、<幻覚>を見せて交通事故に合わせたり、<騒霊>で不運な落下物を演出したり、睡眠中に<心話>で悪夢を見せたりするのです。このときに<心傷観>と併用すればさらに効果的です。こういった禍族の精神攻撃は対象に生きる気力がなくなり、「対象が自殺したくなるまで」続きます。
 『天勢値』が下がった対象に、禍族は妖術<融合>をかけます。この術力は先ほど述べてあるように、対象の魂を放逐して自分がその肉体に居座るという効果のある術力ですが、対象に生存本能があるうちは成功しません。<融合>を発動させるタイミングをよく考える必要がでてきます。生存本能が消え失せ、かつまだ死んではいない状態のときに発動させなければならないのです。具体的には「自殺を図った瞬間」「心の依りどころを失った瞬間」でなければなりません。さらに前者は「自殺を図りつつも未遂で終わる」必要もあるのです(せっかく肉体を頂いても直後に肉体が壊れて使えなくなっては困ります)。後者は後者で問題があり、対象(標的)が心の依りどころにしている存在を易々と失ってはくれないのです。禍族が<融合>の標的にするのは主に術者ですから、『天勢値』や縁故を駆使して「依りどころ」を死守しようとするのです。結果としてハイリスクハイリターンになってしまうのです。<融合>までのプロセスの比率は前者のタイプが9割近くを占めています。
 <融合>に成功したならば、もう肉体は禍族のものです。放逐した宿主の魂は徐々に意識と記憶を失っていき、7週間で消滅します。もともと生存本能の希薄な魂ですからもっと早く消えてしまうこともありえます。ひとたび禍族と<融合>してしまったならばその肉体は真術<核現>を使わない限り禍族を追い出すことはできません(ただし<核現>でも元の魂を呼び戻すことは不可能です)。
 もしも<融合>した肉体(禍族は『器』と呼びます)が術力因子の保有者であれば、『器』が行使可能な術力系統は禍族の意思で使うことができます。ただしこのとき、術力系統はひとり3つまでです。禍族は妖術を覚えていますので『器』が3種類の術力系統を使えたとしてもそのうちの2種類までしか使うことができません。また、身体を使う技能に関しては(<融合>した直後は)『器』が習得していた技能しか使うことができません(禍族自身の肉体的な技能は使えなくなります)。術力に関してもまず『器』が習得していた術力を自分で使えるようにならないと新しい術力は覚えられません。ルール的に言えば、『器』が習得していた分のPSPを先に消費する必要があることになります。これは各個人によって微妙に術力を発動させる仕組み/発動キーが違うことに原因があります。総じて、禍族が最も望む『器』は以下の4点を満たした者になります。

・ 未覚醒の術者(<融合>の際に抵抗されにくく、PSPの消費もない)
・ 術力系統が1〜2種類の術者(能力値に無駄が出ない)
・ 身寄りのない術者(<融合>した後の生活が楽)
・ 心に深い傷を持つ術者(<融合>するのが楽)

 無事に<融合>を果たした禍族は何をするのかというと、まず最初に『器』の無念を晴らします。決して殊勝な心からではありません。追い出した『器』の魂は『器』の身辺に漂うことが多く、そのまま街を歩いたのでは術者の霊的感覚力を刺激してしまうからです(怨念につきまとわれている被害者のようにも見えますから禍族だという断定はできませんが)。そこで、7週間(放逐した『器』の魂が消滅する期間)も待たないために『器』の願いを叶えてやるのです。いじめを苦に自殺(未遂)した場合はリベンジが。プレッシャーが原因なら下克上が。失恋が原因ならば強引に手に入れるのが良いでしょう。愛する人が殺されたのならば犯人にも死を届けるのがベストです。このようにして『器』の望みを叶えてやると身体が「しっくり」くるそうです。多くの快楽殺人者は類犯を重ねると言われています。禍族においてもまたしかりで、最初の『器』の望みを悪しき方法で叶えると、禍族は類犯を重ねます。
 禍族が類犯を重ねるのは≪闇≫を増やすためです。≪闇≫を増やせば同朋が多く訪れることができ、より快適な世界にすることができます。≪闇≫が禍族を呼び、禍族が≪闇≫を起こす。その無限連鎖が世界の≪闇≫を深めていくのです。

 

● 禍族の死

 『器』と<融合>した禍族は人間の中に潜んで生活します。人間はとても脆い生き物ですが、禍族はどうなのでしょうか。
 禍族はヒトと<融合>した場合、『器』はどんどん老いていきます。『器』の老いを止めるには妖術<不老>を用いるしかありません。『器』が老衰によって死んだ場合、禍族はその『器』から分離し、精神体の状態に戻ります。『器』が老衰以外の方法で死んだ場合(デスチャートの結果等)は『器』に加わったショックで禍族自体も死んでしまいます。ちなみに、禍族はデスチャート・術力の結果により能力値が0以下になってしまっても戦闘不能に陥ることがありません。禍族が戦闘不能になるのはデスチャートの結果「気絶」となったとき・「点撃」技能を組み込んだ気絶攻撃を受けたとき・術力の2次効果で戦闘不能になったときだけです。
 精神体の状態の禍族を殺すには術力の2次効果を適用させるしかありません。地術<地獄門>、霊術<滅魔光>、聖術<滅魔><封魔符>は精神体の状態であろうとも死を与えることができます(<封魔符>だけは封印してから焼き払う必要がありますが)。
 余談ですが、禍族か否かを判断することは非常に困難です。<融合>してから7週間は『器』の魂がつきまとうと記しましたが、悪霊に取り憑かれているのと見分けがつきません。妖術を使ったら確実に禍族だと分かりますが、その他の術力だけを使えば術者なのか禍族なのかは判断できないのです。対象に真偽を確かめる術力である光術<浄玻璃>や神に質問する聖術<天啓>、虚術<虚言>で誘導尋問したり、質問しながらの霊術<心眼>真術<浄眼>でも分かりますが、いずれも対象に直接接触したり質問をしたりしなければなりません。術者は外見からでは禍族かヒトかは判別できないのです。禍族同士は「なんとなく」分かるそうですが。
 禍族は自主的に『器』から出ることはできません。できれば『器』がとどめを刺される直前に精神体になって難を逃れることもできるのでしょうが、そう上手くはいきません。禍族の魂を『器』から引き剥がすためには水術<黄泉>か妖術<冥行>または真術<核現>を用いなければなりません。<黄泉>と<冥行>は人間に対しても使える術力で、ただ身体から魂を引き離すだけの効果しかありません。結果として浮遊霊が生じます。禍族であれば精神体の状況でもある程度の活動はできますが、人間であったなら「ゆかり」のある場所を漂うしかできず、いずれ意識と記憶を失って消えて逝きます。<核現>は究極のコンディション直しで、人間にかけても怪我・病気・持続中の術力がすべて消えるくらいですみますが、禍族は<融合>も解除されてしまうので『器』に居座ることができません(つまりとても高コストな禍族チェックでもあるのです)。霊術<中和><浄化>、虚術<削術>等の持続術力を解除する術力では、禍族の魂と『器』をひとつのものにし終わった<融合>は解除できません。
 禍族の死も含めて、禍族が『器』から離れたら『器』は「本来の時間」に戻ります。つまり、『器』は<融合>した時点で自分の肉体から追い出される=死んでいると言えます。禍族は『器』の死体と結合し、維持・管理をしながら有効利用していたに過ぎず、本質的には『器』とは死体なのです。『器』を管理していた禍族が死に、<融合>が解除されてしまうと、『器』は仮初めの時の流れを外れます。<融合>が解除されるとそこには<融合>が行われた時に死んだ肉体が残ることになります。<融合>が3ヶ月前ならば死後3ヶ月ほどが経過した死体に、10年前なら死後10年ほど経過した死体に『器』は変貌をとげます。場合によっては年月が経ちすぎて何も残らないかもしれません。また、この現象は前述の術力によって禍族が『器』から引き剥がされたときにも発生します。
 少々長くなってしまいましたのでまとめますと、

1、禍族は能力値が0以下になっても戦闘不能にならない
2、禍族はデスチャートで殺せるが、精神体のときは2次効果に限る
3、禍族は禍族と人間の見分けがつく
4、『器』は禍族が離れると<融合>時に死んだ死体となる

となります。禍族は世界に≪闇≫を蒔く存在です。そして人間の感情をもてあそび、人間を喰らう存在です。もしも心に≪闇≫が渦巻いていれば禍族はきっと見つけ出すでしょう。そして殺さぬように、生かさぬように、じわじわと心を蝕んでいき、最期には命をも・・・。そうならないようにするには常に心から≪闇≫を祓う必要があります。しかし、その行いのなんと難しいことか。永きに渡る人間の歴史の中で≪闇≫の全くない時間はあったでしょうか。答えは否。人間が人間である限り彼らは常に傍にあるのです。

 

第八章番外 「汝、闇を識れ」

悪 魔

 では始めましょうか。・・・って恭弥君はどうしたんですか?

由香理

 恭ちゃんならまだフテ寝してますよ。事務所から出てこないんです。

悪 魔

 やはりそうですか。前の章でいじめ過ぎましたかねぇ?

由香理

 いじめられてない時がありましたっけ?

悪 魔

 また触れてはいけないことを。大体、由香理さんだっていじめる側の人間じゃないですか。

由香理

 まあ、なんてことを。私のいじめには愛がこもってるから良いんです(断言)。

悪 魔

 ・・・・・・。ときに由香理さん。こちらを紹介しますね。速水汐莉さんです。貴女と同い年の高校生ですね。

由香理

 はじめまして〜。神山由香理です。

汐 莉

 こちらこそ初めまして(ペコリ)。今日はよろしくお願いします。

由香理

 む〜。

汐 莉

 あ、あの・・・何か・・・。

悪 魔

 大方「こんな恭ちゃん好みな日本美人を合わせてしまって良いのだろうか」といったところでしょう。

由香理

 当たり。

悪 魔

 その点なら心配いらないと思いますよ。

汐 莉

 そうですね。

由香理

 なんで? 恭ちゃんの好みは「物腰たおやかな薄幸美人」よ。条件に合うじゃない。

悪 魔

 あのですねえ、最近お忘れかも知れませんが、各章の番外は各章の内容に合わせてお送りしてるんですよ。

由香理

 ・・・ということは・・・。

汐 莉

 私、禍族ですよ(キッパリ)。

由香理

 な、なるほどね。こんな形でカミングアウトされるとは思わなかったわ。

汐 莉

 まあ、隠しても仕方のないことですしね。

由香理

 普通隠して生活するんじゃないの?

汐 莉

 ええと、まあ、ちょっと事情がありまして・・・。

悪 魔

 色恋沙汰ですよ。

由香理

 え? そうなの?

悪 魔

 えらく嬉しそうですね。

由香理

 そりゃあもう! で? どんな人? 高校生?

汐 莉

 も、もういいじゃないですか!

悪 魔

 同学年です。

汐 莉

 ああもう! 本題はどうしたんですか!

悪 魔

 『客いじり』も重要かと思ったのですが、ここら辺にしておきましょうか。由香理さんもいいですか?

由香理

 ええ。とりあえず「最悪の事態」にはならないことが分かったから。

汐 莉

 (・・・『客いじり』・・・)

悪 魔

 そういえば、由香理さんはどうしてここ(恭弥の探偵事務所の前)が分かったのですか?

由香理

 どうして? だって恭ちゃんは篭城中で、それでも番外のお仕事は待ってくれなくて、担当が悪魔さんなんでしょ? なら解決策はひとつしか導き出されないと思うんですよ。

汐 莉

 え? 解決策って何ですか?

由香理&悪魔

 強襲。

悪 魔

 うーん。少し安直過ぎましたか。

由香理

 RPGは分かりやすいくらいでいいんです。さ、行きましょ。

―― 2分18秒後 ――

由香理

 さ、観念しなさい。

恭 弥

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

由香理

 合鍵はいつも持ってるし、赤外線センサーは使い捨てカイロの中身で無効化。扉を内側から押さえていた棚は隙間から送り込んだ(符に入れていた)式が破壊。警備会社の警報装置は侵入した式が解除完了。近隣の住人には大掃除と断ってあるし、通報用の電話回線は切断済み。携帯電話は持参したECMスクランブラーがジャミングしているわ。

悪 魔

 いつもながら結構なお手前で。

汐 莉

 ・・・ここまでしないといけないとは・・・。

由香理

 恭ちゃん、他に質問は?

恭 弥

 ・・・質問はないが・・・棚と電話回線を破壊するな! それから俺の知らないうちに勝手に近所づきあいするな!

由香理

 いいじゃない。いずれ恭ちゃんともどもお世話になるんだから。

恭 弥

 ・・・俺の人生は俺に決めさせてくれ・・・。

由香理

 私の人生は私が決めてるわよ。その結果として恭ちゃんの人生も決まっちゃっただけよ。

悪 魔

 さてと、おふたりともいい加減本題に入りたいんですけどよろしいでしょうか?

恭 弥

 頼むから本題に入ってくださいよ。本題に入れば聞くだけですむから。

由香理

 なんでよ。

恭 弥

 禍族の章の番外なんてやることないじゃん。・・・って、いつかも言ったようなセリフだな。

悪 魔

 そうですね。それでもその言い分は通らなかった上に秘密の暴露までされてしまったんですよね。

由香理

 そうそう。歴史は繰り返すものよ。

恭 弥

 ま、まさか俺に<融合>しろなんて・・・。

悪 魔

 それもいい案だとは思いますが、それでは利用価値が減ってしまうので、今回は話を聞くだけにしましょう。

恭 弥

 で? 誰が話をするんだ?

汐 莉

 おそらくは私の仕事でしょうね。

由香理

 やっぱり現役の禍族の話が聞きたいよね(笑)。

恭 弥

 現役の禍族って一体・・・。

悪 魔

 できればあまり本編に書かれてない話が聞きたいですね。

汐 莉

 難しい注文ですね。じゃあ、まずは禍族キャラの作り方から始めましょうか。

由香理

 GMさん向けですね。

汐 莉

 そうですね。やることは簡単なんですけど。禍族は前提として<融合>を習得しなければなりませんので、PSP1点消費して、術力系統を1つ妖術に費やさないといけません。

悪 魔

 <融合>すると、『器』の持っている術力系統が使用できなくなる可能性がありますね。

汐 莉

 その通りです。オプションルールの「純血化(第一章追記)」を使っているか否かによっても代わってきますが、妖術を余り使わない禍族は能力値3点分損しているとも言えますね。

由香理

 例えば?

汐 莉

 例えば・・・そうですねぇ・・・、私の『器』である速水汐莉は【水、+3、+3】だったんですよ。そこに禍族の私が融合することで【水、妖、+3】になってしまうんです。特に私は妖術を2つしか使えませんから・・・結果として能力値3点が無駄になっているとも言えますね。

悪 魔

 『器』として最も無駄が多くなるのは恭弥君のような人物です。

由香理

 恭ちゃんが?

汐 莉

 恭弥さんの場合、【水、凍、空】ですので必ず一つは術力系統が使えなくなるんです。例えば水術を妖術に置き換えた場合(【妖、凍、空】)、まずは彼の習得した<融合>その他を習得したら水術・凍術・空術を習得しなければなりません。

由香理

 水術の分も?

汐 莉

 はい。3系統の術力をまんべんなく習得している恭弥さんは無駄になるPSPも大きくなってしまうんです。だから『器』として狙われにくいんでしょうね。

由香理

 良かったねぇ、恭ちゃん。

恭 弥

 ・・・・・・・・・。

悪 魔

 すでに『器』のデータが決まっている場合は、行使術力種の組み合わせによって、能力値を3点減らさなければならないときがあるんですよね。

汐 莉

 私の場合がそうでした。きっと他人から見ると少し動きがぎこちなかったりしたんじゃないでしょうか。

由香理

 よくバレないね。

汐 莉

 それはそうですよ。大抵の場合、自殺未遂をした直後になるわけですから、周囲は「まだショックで・・・」とか思うんでしょうね。

悪 魔

 そして、その大半は心配してくれる人すらいない場合なんですがね。

由香理

 見も蓋もないなぁ。ええと、そうなると、『器』の方の汐莉さんはどうだったの? 誰も心配してくれなかったの?

悪 魔

 まず「『器』の方の汐莉」から訂正するべきですね。

汐 莉

 うーん。もともと、速水汐莉という名前は『器』の名前であって、禍族の私の名前ではありません。

由香理

 え、そうなの? すごく少女漫画チックで術力とマッチした名前だから、後から付けた名前だと思った。

汐 莉

 もともと日本人の場合は苗字に術力系統が絡んでいやすいんですが、「少女漫画チック」は某有名演劇漫画からですか?

由香理

 そうそう(笑)。まんまじゃない。

悪 魔

 偶然らしいですけどね。まぁ、それはさておき、禍族としての名前はあるんですか?

汐 莉

 こっちの言葉で「清らかな淵」っていう意味の名前です。略してセイエンって呼ばれてますけどね。私と<融合>するきっかけになったのは受験なんですよ。親御さんの過度の圧力に耐え切れなかったみたいですね。

悪 魔

 何を他人事のように。どうせ仕組んだんでしょう?

汐 莉

 めっそうもない。私は<融合>と<時空翔>しか妖術が使えないので、自然の成り行きにまかせましたよ。

由香理

 そういえば、妖術は使い方の難しい術力が多いよね。

汐 莉

 そうですね。まぁ、1〜2個も習得すれば十分にヒトを追い込む効果があると思います。

悪 魔

 妖術は「シナリオのネタにどうぞ」というコンセプトがあったらしいですよ。<凶魂(まがたまと読む)>や<蟲毒>なんかはそれだけで十分ですからね。

汐 莉

 他にもヒトを操作する術力はあれば便利ですね。

由香理

 そうね! 私も恭ちゃんを操作した〜い。

悪 魔

 それ以上コントロールしてどうするんですか?

由香理

 それはもうあんなことやこんなことを・・・。

汐 莉

 愛を力で奪っちゃいけませんよ。

悪 魔

 汐莉さんが言うと説得力ありますね。

汐 莉

 また話をそっちに持っていかないで下さいよ。

由香理

 なに? なに? 何があったの?

汐 莉

 ・・・眼が輝いてる・・・。いや、まぁ、「好きになってはいけない人を好きになった」というか・・・。

由香理

 禁断の愛!!? だれ? 同じ学年ということは双子の兄弟か何か?

汐 莉

 ・・・普通の・・・ひとでした・・・。

由香理

 それがどうして禁断なの?

悪 魔

 気づきませんか? 普通の『人間』だったんですよ。

由香理

 あ。

汐 莉

 決して相容れない2つの種族ですからね。結末は「推して知るべし」ですよ。

悪 魔

 そういうことです。ちなみに、現段階において禍族と人間との間に2代目が産まれたという報告はありません。どうなるのかは神のみぞ知るといったところでしょうか。

由香理

 ・・・ふ・・・。

汐 莉

 符?

由香理

 ふっふっふっふっふ・・・。

汐 莉

 ゆ、由香理ちゃん? どうしたの?

由香理

 それよそれ! そういうのがロマンスなのよ! 破ってこその禁忌よ!

悪 魔

 あぁ、また悪い発作が。

汐 莉

 でも、もうすんだ事ですから。奇跡に期待するのにも疲れましたし・・・。

由香理

 存在しないものに名前は付かないわ。起きるから奇跡なのよ! 起きなければ起こせばいいのよ! Let's奇跡! 『命短し恋せよ乙女』! 

悪 魔

 その辺はある意味達成してると思いますがね。

由香理

 目指せ『奇跡の人』! ううん、障害のあるイバラの愛を選んだその日から、すでにあなたは『奇跡の人』だわ!

汐 莉

 『奇跡の人』はまたあの漫画からですか?

悪 魔

 その辺もある意味達成してると思いますがね。

由香理

 ?

汐 莉

 ま、まぁ、とにかく、私個人の話は置いておいて、禍族の基本方針はヒトを追い込んで≪闇≫を増幅させることなんです。≪闇≫を増幅させれば仲間を多く「こっち」に呼びやすいですしね。

由香理

 なんで禍族は「こっち」の世界にやって来るの?

汐 莉

 うーん。種としての目的ははっきりしていないんですよね。人間が個人個人生きる目的が異なるように禍族も来る理由が違うんじゃないでしょうか?

悪 魔

 その論議はαステージの時代から議題にされてきましたが、答えは出ていません。一説によると彼らの世界が崩壊寸前だからとか、偶発的に「こっち」の世界に迷い込んでくるのだとか言われています。

由香理

 禍族の世界はどんなところなの?

汐 莉

 それは秘密です。

由香理

 禍族はどうやって産まれてくるの?

汐 莉

 それも秘密です。

悪 魔

 その辺もよくは分かっていませんが、世界の法則は「こっち」の世界とほとんど同じであることは確かです。だから術者と同じように『天勢値』や伝承点を使用することができるのですから。

由香理

 そうですね。もっと遠い世界の住人である式は『天勢値』も伝承点も使えませんからね。

汐 莉

 禍族は精神活動によって『天勢値』を獲得することもできますよ。

由香理

 じゃあ、ほとんど人間と変わらないんだ。

汐 莉

 そうですね。特にβでは見分けがつかないので苦心していると思います。禍族同士は一目見れば同族だと分かるのですが、ヒトは見ただけでは分かりませんからね。

悪 魔

 確実に言えるのは妖術を使ったら禍族だというだけですね。

由香理

 でも悪役はちょっとつつけば大抵自分から白状するけどね(笑)。

悪 魔

 そういうものです。

汐 莉

 禍族はどこにいるか分かりません。そして、分からないからこそ心に≪闇≫を植え付けることができるんですよ。

悪 魔

 そうですね。汐莉さんも今日はありがとうございました。

汐 莉

 いえ、少しでもお役に立てれば光栄です。

由香理

 もう行っちゃうの? ゆっくりしていけばいいのに。

汐 莉

 でももう迎えが来ますから。今日はこれで失礼しますね。(退室する)

悪 魔

 お疲れ様でした。

由香理

 うーん。それにしても美人さんだったねぇ。

悪 魔

 恭弥君好みでしたね。

由香理

 そういえば恭ちゃんは?

恭 弥

 ・・・・・・・・・。忘れてるかもしれないがここは俺の事務所だ。

由香理

 別に忘れてないよ。ただ、部屋の主なのに異常に黙りこくってたよね。

恭 弥

 ついでにいうとここは探偵事務所であってメンタルクリニックではない。

由香理

 ? 当然じゃない。私が聞きたいのはどうして発言しないでいたのか? ってことよ。

恭 弥

 そうは言われても、空に向かってひとりでしゃべり続けるような奴に話し掛ける度胸は持ってなくてね。

由香理

 は?

悪 魔

 ああ、やっぱり。

由香理

 え?

恭 弥

 悪魔さんだって同じだけど、激情していない分普通に見えたね。

悪 魔

 それはどうも。今日で四十九日だったんですよね。

由香理

 な、何が・・・ですか?

悪 魔

 由香理さんに見えて恭弥君に見えないのは彼女が精神体だからです。それもかつて人間と<融合>していたことがあるね。

恭 弥

 俺も詳しい方じゃないが、ごく一部の術力以外では一旦<融合>した禍族は引き剥がすことができないから・・・。

悪 魔

 そう。彼女は死後の精神体ですよ(キッパリ)。

由香理

 ・・・・・・・・・え?

恭 弥

 『命短し恋せよ乙女』ねえ、よく言ったもんだ。

悪 魔

 ええ、私はてっきり由香理さんもご存知なんだと思ってましたよ。

由香理

 分かるわけないじゃないですか! 私が死者に対する態度で接してました?

悪 魔

 ええ。「あなたはすでに『鬼籍の人』だ!」って。

恭 弥

 お後がよろしいようで。

 

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