≪物欲番長北海道旅行第6部≫
7月21日
朝起きると、雨がジャーンジャン降っていた。
もし昨日サロベツでキャンプしていたら、またビショビショの悲惨な状態になっていたことだろう。計画では、利尻島に自転車もって渡るはずだったが、あまりの雨の量に挫折した。宿の横に自転車置かせてもらい、取り敢えず渡ってみよう。たまには自転車無しでもいいか。きっと違う感動が待っているはずだ。
宿のおばちゃんに頼むと、「宗谷岬の宿泊場所確保しなさい。明日は休みだから泊まれないかも知れないよ。」と言われた。この雨ではもうキャンプせずにキャンプ用品は宅急便で送って、身軽な状態になろうと考えていた。いずれにせよ宗谷岬までの30キロちょっとは、利尻島から帰って雨降っていても、走らなければならない。と言う事は、おばちゃんの言うとおりに宿確保しないと泊まれなくなってしまう。さすがおばちゃん目の付け所が違う。
宗谷岬の宿の一覧見せてもらい、一番安い「清水」と言う宿を電話予約する。キャンプ用品も近くの売店で送った。さあ出発だ。
フェリーに乗れば、2時間弱で到着の予定。7時50分のフェリーに乗った。船中は思いの他混んでいて、結構狭い。しかも年齢層も高く、おっさんの我々も若者のようだ。雨もだんだんやんできて、景色を見ながら期待は膨らんだ。何とか天気になってくれ。
利尻島の外周が40キロしかないのだが、利尻山は1700メートル以上あり、その姿は富士山に似ていてとても美しいと言う。是非その姿を我々に見せて欲しい!俺たちを感動させてくれ!
突然ポンチャンが、「金が無い」と言い始めた。そう言えば、こっち来てから銀行に行っていない。ついに手持ちのお金もなくなってきたのだ。俺も少しは持っていたけど、二人分はない。
「どうするか?」
もし銀行利尻島で発見できなかった場合は、稚内で銀行探さなければならない。フェリーの本数の関係もあって、向こうに1時間ぐらいしか居られない計算になる。経験上全国どこでも郵便局はあるけど、都銀扱える銀行はあるとは限らない。
「何しに行くんだー?」
「・・・・・・・・・」
2人でしばらく考えていたが結論は、どっちでもいいやーになっていた。今ここにいられるのも、2人で旅することもとても不幸な境遇からなることとは思えない。新婚旅行でもないのに皆が働く平日含めて5日間使って旅をしているのだ。あまりマイナスな気持ちにはならなかった。利尻島滞在最短記録を作ればよい。それも旅の思い出だ。
もし最後まで銀行見つからなかったら、稚内の全日空ホテルにでも泊まるか?カードはあるけど現金は無い。高いところは行けるけど、安いところは行けない。汚い格好をした自転車旅行の宿泊者は果たして今までも存在するのか?何か不思議な旅になってしまいそうだ。
船乗員に聞くと、銀行あるとの事。良かった。
利尻島に到着!あると聞いていたけど、緊張しながら銀行に向かう。閉まっていたら豪勢な旅に変更になってしまう。どうなるのだ!なんとなく2人の言葉数も減ってきた。
「・・・・・」
「・・・・・」
「あった!!」
急に2人は饒舌になる。金も調達出来て、気持ちも舞い上がってきた。
「昼はうに丼食うぞ!!」
利尻島は、新鮮な馬糞ウニが取れる。北海道でも一番との呼び声の高い利尻のウニに気持ちは傾いた。毎日食うぜ!!ウニーー!!
急に時間も出来て、島一周まわりたくなった。フェリー乗り場に戻ると、〔原付バイク貸します〕との表示。「原チャリだ!」一日4千円との表示に気持ちが傾いた。表示してある会社に電話して調達する。待っていると、雨と風が急に激しくなってきた。風は元々強かったけど、台風のような天気だ。
待ち合わせどおりバイク屋来たけど、天候から貸すの悩んでいるようだ。我々も悩んでいた。
〔レンタカー7千円。〕と書いてあるのを発見。二人合わせれば、こっちの方が安いじゃねーか。レンタカーに決定!!
ついにこの自転車旅行は、飛行機・自転車・電車・船・車とといった乗り物三昧の旅になってしまったのだ!!
「ジャーンジャンまわるぜ!!おまえー!」
急展開の中、何でも受け入れどんどん楽な道に向かうお前らおっさん達にはポリシーは無いのかー。
軽自動車が運ばれてきた。運転は順番にすることにする。さすがにポンチャンは、ちゃんとポイントは調べてあった。「ミルピス」というカルピスに牛乳をたしたような飲み物が、利尻島では有名な店のようだ。俺は全く知らなかったがそこに向かって、ほとんど車の走っていない道を走り始めた。
道中は台風のような天気で、原チャリでも走るのは困難な感じだ。まさかこの旅行でレンタカー借りてまわるとは思いもしなかった。
「何で境野はパット入りのサイクルパンツなんだよー」
ポンチャンは、いやにそのことに受けていた。確かにこの格好ではレスラーみたいだ。俺だって自転車以外乗ることは全く想定しなかった。行く先々の人も不思議な気持ちで見ていたことだろう。
「ミルピス」の店に到着。思っていたような場所ではなく、掘っ立て小屋だった。店内には、テレビの取材の写真や芸能人のサインがたくさん飾ってあり、落書き帳などもあった。なんだか近藤サトの取材の写真が印象に残った。落書き帳の記載も自転車旅行の落書きが多く、うまくて感動したとの記載がかかれている。もし順調に自転車で走ってきたら俺たちもそうだろうナーと、ちょっと羨ましくもあった。それはそれとして、我々も落書き帳に現在の状況を記載した。
ミルピスは、暑い中汗流しながら飲めば、すごくうまいと思う。今は、自分にも甘くなっていたせいか、とても甘く感じた。次ぎ来る時は晴天の中、自転車で汗だくになって飲もう!
その後、風景を見ながら島を周る。利尻富士ももちろん雲をかぶっていて全然見えなかった。「この天気じゃつまんねー」
でもこの天気じゃなかったら車ではない。
こうなったらやはり、うに丼でしょう。レンタカー屋に教えられた〔猟師の店の宝生丸〕という店に入った。
中には巨大なイケスがあって、ウニが沢山いた。こんなの見るの初めてだー。早くうに丼持ってくるのだー!ビールもホタテの刺身もくれー!
うまい!最近毎日食っているけど、この味だけは飽きねーぞ!
気を取り直して走り始めると、天気が良くなってきた。でも利尻富士は雲の中だ。「利尻富士ーー!姿を見せてくれー!」
待っていてもしょうがないので、〔利尻富士温泉〕に向かう。ここは本当に天気がよければ、温泉に入りながら利尻富士が見えるというところだ。温泉はとても気持ちが良かったが、山が見えない。利尻富士が、今度はサボらずに来いと言いたいのだろうか?
結局残念だが最後まで、見れずに利尻島を後にすることになった。予定では、稚内に午後6時ごろに着く。それからは、30キロ強の宗谷岬までのツーリングだ。宿には7時頃着くといっておいた。ホントにつくのかよー。
宿に戻りおばちゃんに挨拶して、走りはじめた。7時に着くと言っていたので、ポンチャンとは別に走ることにした。
キャンプ道具無くとても軽い自転車に変っていた。雨も降っていない。しかも風は追い風。好条件の中、走り始めたけど残り30分ぐらいでは、さすがに着かない。チャリンコでは、平地を時速60キロ以上で走ることは出来ないのだ。
でもずっと33キロ以上で巡航して走れた。「日が沈む前に宗谷岬が見たい!」
頭の中ではこれだけで走っていた。「宗谷岬ー!夕日に沈むモニュメントをバックに写真とりてーよー!」
しかし、この距離はそんなには甘くない。ややあきらめ気味に途中で携帯から「7時半までに絶対行きます。」と電話する。
だんだん近づいてきた。あと少し。暗くてモニュメント見えないのかナー?近づくにつれてドキドキしながら走った。
「あれー?」
「なんだー光ってるぞー?」
「・・・・・・・」
「モニュメントだー!!」
「すげーぞー!!」
感動した。あたりは薄暗くなっていて、真っ暗な中に建っていると思ったモニュメントが、ライトアップして俺の目の前に飛び込んできた。まさに歓迎のセレモニーを受けているようだった。「あと30分ぐらいかかります」あまりの感動に宿にそのまま行くのをやめ、また電話を入れた。
人はほとんどいなかった。海の波の音だけが響いている。しかもモニュメントが俺だけのために七色に輝いて見えた。
「ありがとう北海道!」
心の中で叫んでいた。ポンチャンもあとから来てどう思うのだろう。彼もきっと感動するはずだ。良かったナー北海道に来て。
宿に着くと、夫婦で笑顔とともに出迎えてくれた。
「良く来たねー。夕飯ちゃんと用意してありますよ。」
途中小雨や水溜りがあったため、着ている物から荷物までものすごく汚かった。
「すみません。汚いけど良いんですか?」
「全然問題ないですよ。新聞敷くから部屋の隅に置いておいてね。」
何か申し訳なくなってきた。来るまで食事も片付けられずに迷惑したはずだ。
「宿帳はどこですか?すぐ書きます。」
「うちはそんな面倒なこと入らないよ。早くお風呂に入りなさい。それから食事してね。」
何かメチャクチャ優しい夫婦だ。最後の夜も良い宿に恵まれた。部屋に行き窓を開けると、光ったモニュメントが見えた。「すげー良い部屋だなー。」
しばらくするとポンチャンも到着。「モニュメントの写真撮りに行ったら、カップルにまたデジカメだ。と言われたからSはもう着いていると思った。」と言っていた。
なんとなく、今の状況にすごく満足だ。「風呂入って、食事したらまたモニュメント見に行こう!」
満足しながら汗を流して食事を取りに行く。さあメシ食うぞー!
「えーーーー」
食堂に入り二人ともびっくりした。毛蟹だ!なんとそこには毛蟹が用意されていたのだ!ウニ・いくら・ラーメン・メロン。これで満足してはいけなかった。北海道はカニだー!!でもこの宿は、5500円のはず。朝晩飯ついて、この値段なので、特に料理には期待していなかった。あまりの驚きに2人はボーゼンとした。しかも他にも食いきれないほどの食事が並んでいる。御礼を言いに行くと、さらに海老までメニューに追加された。
「この宿儲かんのかよー。」
恐るべし北海道。恐るべし宗谷岬!恐るべし旅館清水!!採算度外視の接待を受け、宿の中ではこの夫婦に会うたび2人ともぺこぺこしていた。
食事を終えて、2人でモニュメントに向かう。今日で最後だと思うととても惜しい気持ちだ。今回は、もう少し時間があれば全部走破して、ここに立っていたんだろう。でも、これだけの時間でこれだけの内容なら満足だ。なにしろ、日常考えられる乗り物には全部乗ったし、こんな食道楽の旅行が、自転車を起点として出来るなんてとても幸せだ。俺だけだったら、辛い走破目的中心の旅行になったことは間違いない。こんな想像のつかない旅行が出来たことに、ポンチャンに感謝したい。
「一枚も2人で取った写真が無い。皆に仲悪かったと思われる。2人で最後は取ろう。」ポンチャンが提案してきた。確かにそうだった。2人で写真をモニュメントの前で撮った。でも写真は不自然に七色に輝いていて、何か変なおっさん達の写真になった。
「・・・・・・」
「まあいいか。どうせ変な2人だから。」
その後またちゃんとした写真撮りなおせば良いのに2人の写真はこれ1枚だけとなった。
戻ってから、富良野で知り合ったTさんにメールする。「いい人たちにたくさん会ったナー。」しばらくするとメール返ってくる。
「今大雪山を周っています。帰りお気をつけてください。またどこか出会いましょう。」
何かジーンとした。すばらしい旅行だった。明日は、稚内空港までの20キロ余りを残すのみ。今日も色々あったナー。
7月21日
朝起きてまたモニュメントに2人で向かった。風がすごかったけど、コーヒーを沸かして飲む。ここが日本の最北端だ。何もしないけどいつまでも飽きないでいられた。楽しかったナー。今度は旭川から道を結びに来るか。利尻富士にも会っていないし、宿題を残すと言うことは、またここに来るということ。それはそれで楽しみだ。その日はいつなんだろうか?でも必ず戻ってくるぜー!心の中で誓った。
朝食を食べ、ちょっとしたお土産を買って「清水」の夫婦に丁寧に挨拶した。またいつか来ます。
強風の中稚内空港に向かって出発!今度は、思いっきり向かい風。こがないと後ろに走り出しそうだ。すげー大変だー。
しばらく走っていると、ゆっくり走っているテレビ局の車とともに小学生らしき少年が風に向かって一生懸命走っている。車には〔日本縦断中〕と書かれている。きっと夏休み利用しての小学生の縦断旅の撮影だろう。ここ何年かこういう企画が続いている。俺にもそんな話が来ないかナー。横に並ぶと苦しそうだったので、「頑張れよー!」と声をかけた。彼は弱々しくうなずいていた。
もしかしたら、彼はこれを書いている8月27日現在もまだ走っているのかもしれない。弱々しく見えた彼もきっと逞しくなっている事だろう。心の中では、ひそかに俺も放送されないかナーと期待した。スカウトしてくれー!!
相変わらず風はずっと向かい風。道の反対を走るライダーも挨拶しながら走ってくる。みんなでまた来いよーと、言われているみたいで嬉しかった。走りずらい。リヤタイヤのホイールバランスずれていたままなので、振動でネジが緩み、この旅行中自転車の部品が落ちることがあった。今回はいきなりライトが落ちる。直しながら走り、心の中で「あと少しだ頑張ってくれ。」と自転車に声をかけていた。
あと1キロをきった。ほとんどたちこぎでなければ走れなかった。するといきなり、リアのキャリヤが外れてしまった。もうネジもなくなっていた。リヤキャリヤを引っ掛けて、荷物を抱えたまま到着。
「ご苦労様。良く頑張ってくれて、ありがとう。今回は整備不足ですまなかった。」
自転車が最後まで頑張ってくれたことにとても愛着を感じた。確かにポンチャンの自転車のような新しいのも良いが、俺にとってはこの自転車が一番だ。買いかえる事は今まで一度も思ったことは無い。まだまだこの自転車には俺の歴史を刻んでもらうつもりだ。「帰ったら直してやるぜ。」
しばらくするとポンチャンも無事到着。「いい旅行だったナー。北海道ありがとう!!」2人とも満足だった。
さあ羽田に向かって出発!!
≪エピローグ≫
最後まで長い文に付き合ってくれてありがとう。最近元気の無い人たちが多く、何とか元気になってもらいたいという気持ちが働いていた。よく年だからナーと、年のせいにして何もしなかったり諦めている人がいて、残念に思っている。年のせいじゃなくて、何もしないからそうなっているだけなのだ。疲れやすくなったら運動し、物忘れが多くなったら勉強しろ。とよく思っている。サボっている自分を甘やかすから年になってしまうのだ。いつもそう思いながら今でも生活している。だから皆にも是非そうなって欲しいと強く思ったときは挑発的に文中でも書いたりした。せっかく読んでくれたので、是非読んでくれた人には元気になって欲しい。そして行動に移して欲しい。いつも偉そうだけど、いつも自分自身にも同時に言い聞かせている部分もあるのです。
描写には出来るだけ読んでいる人が自分が体験しているよう感じる努力したつもりです。文章力不足からどこまで伝えたかわから無いけど、北海道に行ったつもりになったり、行きたいと思ってくれたらよかったと思います。