初めて仏訳された初期の代表作「巴里に死す」が待望の復刊。芹沢氏の著作としては「神と人間」以来、6年ぶりの新刊となります。

巴里に死す

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徳島新聞 2月29日付 コラム「鳴潮」より

うるう年の今年、桜も芽吹きの準備を1日だけ長く進められるだろう。あすから3月。多くの人の特別な思いがこもった3・11も巡ってくる▼ そんな「東日本震災忌」を前に、作家芹沢光治良さんの代表作「巴里(パリ)に死す」(勉誠出版)が今月復刊された。結核で死期を悟った母親が幼い娘に残した愛と苦悩の手記を柱にした物語。厳しい療養生活で抱くことさえかなわなかったわが娘に、母が託したものは-▼ 戦後、フランス語訳され、国内外でベストセラーに。病に伏してなお精進しようとする若き母の姿は国境をも超えて共感を呼んだ。復刊したこの本には、大江健三郎さんや遠藤周作さんの芹沢文学論、フランスでの書評も収められている▼ 来月23日で没後19年を迎える芹沢さん。その人柄や作品を思慕するように出身地の静岡県沼津市をはじめ、東京、大阪、名古屋、札幌、大分で読書会が開かれている。本県でも愛読者は少なくない▼ 同郷人で旧制高校の後輩でもある詩人の大岡信さんは、こう書いている。<その文学は、一言でいえば「希望に生きる明るさと、知性と、人間性批評(モラリスト)の文学」>(芹沢光治良展・世田谷文学館刊)▼ 「巴里-」で母がわが娘に託したものには「希望」もあった。芹沢文学は癒えない悲しみや今生きている喜び、そんな思いをないまぜに歩を進める被災者にそっと寄り添うに違いない。

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