
9/18
『清盛』のゲラ届く。とりあえず1章を読む。うまくいっている。
直しはほとんどない。校正担当者もしっかりしている。
1章は状況説明で、まだ主人公が登場しない。しかしこの作品は評伝ふうのリアルな歴史小説というコンセプトで書き始めたので、リアリティーを保証するために、こういう状況説明が必要だ。歴史的事実であるということが作品の世界の存在感を演出することになるので、開巻直後からストーリーが展開するというわけにはいかないが、長大な作品なので、ゆったりとしたペースで進行するのもいいだろう。
ゲラが来たのでしばらくはこれを読む。『星の王子さまの恋愛論』のゲラも届いているが、こちらは引用文の翻訳の問題があってペンディングになっている。
『法華経』はゲラが終わってから本格的にスタートすることになる。
9/20
大学の後期が始まった。今年度で大学の仕事を終えるので、最後のシーズンということになる。来年は仕事の量を増やしたい。
『清盛』の続編、『頼朝』を中心に、ファンタジーを3本、エッセーを3本は書きたい。それに私小説を一つ。
全部やるとオーバーワークになるだろうが、努力はしたい。とりあえず、今年はいまゲラが出ている2冊が出るだけだが、年内に『法華経』と『天神菅原』を書き終えたい。そのために、ゲラはなるべく早く完了させたい。
9/25
『清盛』ゲラ完了。大きな問題は何もなかった。細かい間違いが少しあっただけ。歴史小説なので万全を期したつもりでも間違いがある。校正者に感謝したい。後白河天皇、上皇、法皇と、時代によって地位が変わる。回想シーンなどで混乱が生じる。そういった間違いが随所にある。まあ、一つ一つチェックしていけばいいだけだ。
作品を読み終えて、静かな感動がある。そんな作品にしたかったが、そんな感じになっていると思う。4カ月かかったが、それだけの密度の高い内容になっている。これと同じ密度で『頼朝』を書くのは大変だが。しばらくはファンタジー小説を書いて気晴らしをしたい。ただし当面は『法華経』だ。旅行の疲れがいまごろ出てきて資料を読む気にはならない。今月は文芸家協会の知的所有権委員会と理事会があるのでそれで時間をとられる。仕方がない。10月に入ったらピッチをあげたい。
10/09
『法華経』の執筆を一時中断して、『星の王子さまの恋愛論』のゲラを見ることになった。校正ゲラは9月の半ばに出ていたのだが、問題があって、作業に移れなくなった。この作品は「星の王子さま」論なので、論旨に従って、原典を引用している。出版物の引用に際しては、出典を明記し、引用箇所がはっきりわかるように引用すれば、何の問題もないのだが、今回は少々複雑な事情がある。岩波版の内藤濯氏の訳は、童話として子供向きに翻訳したもので、意訳の部分があり、これを引用したのでは、こちらの論旨が読者に伝わらない。そのため最初は必要な部分だけ原典の直訳を付して説明したのだが、結局、引用部分は全部、自分で訳した方が、作品のトーンが一貫すると判断した。
しかし、かなりの部分を引用しているので、原典のガリマール社と岩波との間の翻訳独占権に抵触するおそれがある。わたしの判断としては、引用箇所を示しておけば問題はないかと思ったのだが、表紙にサン=テグジュペリのあの王子さまの絵を使いたいということもあり、ガリマール社の許諾を得ることにした。そこでもし翻訳独占権の問題でこじれることになれば、引用の文章をやりかえる必要があり、そうするとこちらの論旨にも影響が出てくるので、校正はペンディング状態になっていた。幸い、思ったより早く許諾が得られたので、本日より校正の作業にとりかかる。
とはいえ、このところ、ただごとではない忙しさで、時間がとれない。先週は大学の会議、集英社との校正チェック、コーラス、それに歯医者が加わって、一日中フルに仕事に使える日がなかった。来週も講演が2回、文化庁の著作権審議会、文芸家協会と新聞各社との懇談会などがあり、これに大学の講義と宿題の添削指導が加わるので、仕事に集中できない。ということで、校正には1週間はかかる。
それで『法華経』の方はその間、中断することになるが、何とか半月遅れで十一月の半ばには完成させたい。これまで、1章を導入部と日本文学と『法華経』の関わり、2章で仏教の発生と大乗仏教について述べるつもりだったが、そんなふうに分けてしまうと論旨がつながらないことが判明したので、日本文学との関わりを話しながら、随時、仏教の説明を加えていくことにした。その方が流れがスムーズになる。そうすると1章が膨大なものになるので、『法華経』そのものについての説明もあまり章を分けずに、前半と後半で1章ずつ、というくらいになる。全体が3章、それに短い終章がつくというくらいになるか。そのあたりはフレキシブルに進行したい。
10/11
この前の項に校正は一週間かかると書いたが、実は一日で終わった。内容が充実しているので一気に読めた。もともとの『星の王子さま』という作品が魅力的だからだが、魅力的な作品の魅力を魅力的に語るというのは意外に難しいのではないかと思う。この本の着眼点はユニークで、読者を感動させることができると思う。校正の作業はおわった何か思いつくかもしれないし、前書きをつけるかどうか検討したいので、編集者に渡すのはやはり一週間後にしたいと思う。
本日は午前中著作権審議会があって、昼飯の弁当を半分だけ食べてあたふたと大学へ行き、2コマ講義してから歯医者に行ったから、ものすごく疲れた。しかしこれから明け方までは『法華経』を書かなければならない。
10/21
パソコンを買った。いままで使っていたのは4年前に客員教授になった時に大学が貸与してくれたもの。驚くべきことにウィンドウズ3・1という、当時としても古びたものであったが、ずっとそれを使い続けてきた。大学教員にはその後、新しいパソコンが貸与されたのだが、ミニサイズのモバイルふうのものだったし、退任する時は返さなければならないので、そのまま古いものを使っていた。しかし時折、ファンが異様な音を立てることがあるし、このパソコンにはCDロムドライブがないので、一太郎を入れられず、ワードでデータを打ち込んでいた。プリントする時にはデスクトップのパソコンにフロッピーでデータを移動するなどというややこしいことをやっているが、ワードから一太郎に移動するので、テキスト文書に変換する必要があるなど、いろいろと面倒であった。最近、ファンの音がいよいよ断末魔ふうになってきたので、ついに新しいのかを買うことになった。機種はここには明らかにしないが、ウィンドウズMeの入った最新のものである。
一太郎を入れ、キーボードとツールボックスのアイコンのカスタマイズで半日かかった。まだキーのタッチに慣れていないが、さすがにウィンドウズ3・1に比べれば快適である。あの懐かしいプログラムマネージャーの画面が見られないのが残念だが、3・1ではフリーセルもできなかったのだ。いままでは仕事の合間にソリティアをやっていたのだが。もっともソリティアは絶対勝つ裏技があるので面白くない。フリーセルにも、負けの記録がつかない裏技があるが、やっぱり負ければ悔しい。
で、『法華経』である。全体を3つに分け、第一部が仏教と『法華経』の基本的な解説、第二部が『法華経』の前半(迹門)、第三部が後半(本門)という段取りを考えている。それぞれ100枚ずつ。いまは最初の解説の部分が分量としては100枚程度にはなっているのだが、流れがよくないのでいじっている。仏教について予備知識のない読者を想定しているので、どういう順番で説明していくのかが難しい。早くこの仕事を終えて、『天神/菅原道真』にとりかかりたいのだが。
10/23
新しいパソコンになって3日目。ようやく慣れた。パソコンというものは、機械であるという点で車に似ているが、車というものは乗って動かすという機能があるだけだ。もっとも最近の車はカーナビなどがついていて、いろいろと機能が付加されているようだが。パソコンはいろんな機能をもっている。日々進歩しているので、以前にはなかった機能がついている。今回買ったパソコンは、ビデオの編集ができるらしい。というようなことを、パソコン内のマニュアルで確認したが、この機能は永遠に使わないだろう。
文字どおりラップトップで膝に載せて仕事をするだけのパソコンだから、ワープロとして使うだけだ。プリントはデスクトップのパソコンでやるので、プリンターもつないでいない。もちろん電話線もつないでいないからインターネットとも無縁だ。ひたすらワープロとして使う。そのワープロは古い一太郎を入れたので、機能は全然新しくなっていない。ウィンドウズMeが入っていても一太郎が対応していないから役に立たない。そろそろ一太郎もヴァージョンアップしないといけないかなと思うが、老人なので、なるべく環境を変えたくない。まあ、しばらくはこのままで使うことになるだろう。
ウィンドウズMeで新しいところは、ピンボールと新しいソリティアがついていることだろう。他にもインターネットにつなぐゲームが何種かあるが、これは電話線をつないでいないので使えない。ピンボールは時間の無駄だ。ソリィティアはパソコンを膝に抱いた直後に、画面に目を慣らすために一回くらいやる。あとはプリインストールされているワードも使ってみたが、前のパソコンに入っていたワードとは画面の様子が違っていてどうも調子がよくない。老人とはこういうものだ。ただ古いワードの文書でもちゃんと読めるのはありがたい。一太郎は拡張子も違っていてすぐに読めないことがある。文字化けすることもある。
『法華経』は最初から書き直すことにした。どうも文章の調子が気に入らない。ワープロだからたいした手間ではない。簡単にいうと、少しセンチメンタルに書くことにした。前に『般若心経の謎を解く』を書いた時は、冷静な解説に徹したのだが、般若経典は純粋な存在論だから、知的に理解すればいい。『法華経』はいかに生きるべきかの実践論を含んでいるので、読者の感性に訴える必要がある。そこで最初から少し暗いトーンで書くことにした。単に解説しただけでは読者は乗れないだろう。いかに生きるべきか。そのことを真剣に考えているというムードが必要だ。
10月いっぱいで完成させたかったが、第一部だけで月末になるので、完成は11月末になる。来年のスケジュールをいま考えている。長男の結婚式にまつわる私小説。『清盛』の続きの『頼朝』、それにファンタジーを2本。これにエッセーを3冊書きたい。大学を辞めるのでそれくらい書かないと仕事にならない。とにかく年内に『法華経』と『天神』を仕上げたい。
日経新聞から連絡があり、『星の王子さまの恋愛論』の最終校正が終わったとのこと。これで完全に手が離れた。よかった。これは自分でもなかなかいい本が書けたと思っている。多くの読者と出会いたいと思う。
11/09
ようやく第1部終わる。聖徳太子から宮沢賢治まで、テンポよく語れたと思う。あとは『法華経』の内容を「序品第一」から順次28章まで語っていけばいい。最後にまとめとして、『法華経』の現代的な意義について何か語った方がいいだろう。
11/24
しばらく腰を痛めていてパソコンに向かえなかった。仕事は背もたれの傾いた椅子の上で、ノートパソコンを膝に抱いてキーを打っているので支障はないが、これは電話線をつないでいないのでインターネットにつなげない。ホームページへの書き込みはデスクトップのパソコンを使うのだが、この椅子に座るときついので、このノートにも書き込めなかった。まだ本調子ではないが、本日、第二部が終わったのでそのことを書いておく。
この「三田誠広の法華経入門」という本は三部構成で、第一部は『法華経』と大乗仏教についての概略の説明。第二部と第三部は『法華経』の説明になっている。『法華経』は28章あり、前半14章までと、後半の15章以後とに大きく分けられるので、説明の方も二つに分けることにした。本日はこの前半部の説明が終わった。ここまでが導入部で、いよいよ本格的な『法華経』のスペクタクルが始まるのだが、この本の難しいところは第一章の部分で、現物の『法華経』の説明をあとまわしにして解説しているようなところがあって、語るのが困難だった。しかし概略の説明なしに本文の解説に入るわけにもいかず、本体なしにいかにして説明するかがこの本の最大のポイントだった。その部分を切り抜けたので、あとは本文の流れに従って各章を説明していけばいい。9日に第一部が終わって、本日第二部が終わったわけだから、半月しかかかっていない。ということは、あと半月で完成ということになる。学生の宿題がどっと出ることも予想されるところだが、何とかそこを乗り越えて、来月半ばには次の仕事に取り組みたい。
11/30
ついに『法華経』全28章が終わった。あとは「まとめ」が必要で、それからプリントして読み返す作業に入る。大きな直しはない。文字のチェックだけだ。まだ作業は続くが、この創作ノートは、本日で終わりにする。11月がここで終わるので、新たなノートを始める。ノートのタイトルは「天神」の創作ノートということになる。菅原道真の物語。詳細はそちらで。
ここでは、『法華経』の感想を書いておこう。この本は出版社からの依頼で書いたもので、出だしは乗りがよくなかったが、仏教についての基本的な説明が難しかったからで、『法華経』の説明に入ってからは調子が出てきた。やはり『法華経』そのものが面白いからだろう。あらゆる仏典の中でも最高レベルの作品だろうと思う。これに匹敵するのは『華厳経』と『維摩経』くらいだろう。来年は『維摩経』に取り組む。
『法華経』の面白いところは、スペクタクルが鮮やかであること、非常に孤立した思想を展開していること、そのために「経典についての経典」という、メタフィクションになっている点だろう。その意味では現代的な問題をはらんでいる。22章まではほぼ一貫してストーリーが流れているが、そこから先はオムニバスの付録になる。これがあるため、全体が百科事典のような総合的なもの、というよりも羅列した幕の内弁当になっている。そこが面白い。
「まとめ」に何を書くかはこれから考えるが、いまは、とにかくこの仕事をやってよかったという気持ちでいる。いまこの時期に改めて『法華経』を熟読できたのが何よりだ。ちゃんと読んだのは高校生の時以来だと思うが、いま読んでも昂奮するような作品だ。多くの読者に『法華経』のすごさを伝えられる機会が与えられたことに感謝したい。
12/03
このノートは11月で終わりにしたのだが、とにかくここに書き込んでおく。本日、草稿完成。あとはプリントして読み返すことになるが、そのあたりは「天神」のノートに書く。
