6/10
この作品の基本コンセプト。
タイトルの「恋する」の「こい」の語源は、「請う」であり、「他者を求める」
というのが、もともとの意味だ。
この作品では、四人の家族が、それぞれの人生の中で、「他者を求め」ながら生きていく姿を描くことになる。
「他者を求める」というのはまた「人生の意味を求める」ことにもつながる。
ただしあまり深刻にならないように、まずヒロインの女の子を中心に、明るいラブコメディーふうに物語を展開してきたい。
ヒロインを大学四年生に設定した理由は、物語に社会的な背景を加味したいからであり、実際に現代社会を生きる若者たちにとって切実なテーマである「就職」の問題を、リアルにとらえたいからだ。
幸い筆者は大学の先生をしているので、教え子たちからナマの情報を集めることができる。
新聞小説ということもあり、できる限りリアルタイムで、ナマの情報を折り込みながら物語を展開したい。
6/16
ヒロインの友人。
明日香……かわいい顔立ちだが理屈っぽい。
里紗………背の高い美人。
美麗………おっとりとした芯の強い女の子
この三人とヒロインの亜紀を中心に物語が進行する。
とりあえず四人の女の子の名前を考えただけで、まだ個性は見えてこない。
連載のスタート時点で、一ヶ月ぶんのストックがほしい。
早急に半月ぶんを書いて、挿し絵のやまだ紫さんに渡さないといけない。
いま8回目を書いたところ。とりあえず明日香を中心に過去のエピソードを紹介する。
そうやって、四人の女の子を一人ずつ紹介していく。
6/17
この作品の本当の主人公は父親である。
家族というものの出発点は、いうまでもなく結婚にある。
従って、父と母の出会いから結婚に至るまでの物語が、重要な意味をもつ。
父親には、妻とは別に、青春の日々のあこがれの女性がいる。
その女性がいずれ登場することになるのだが、作品の前半は、女の子だけで展開したい。
いつ父親を登場させるか。タイミングが難しい。
6/30
読売新聞尾崎真理子記者に最初の原稿を渡す。
とりあえず2週間ぶん12回。
まだ人物紹介だけで、物語は始まっていない。
紹介が済んだら、一気にストーリーを展開しないといけない。
7/10
やまだ紫さんの挿し絵、最初の3回ぶんがFAXで届く。すばらしいイメージ。
三田誠広の書くユーモア小説は人物のデフォルメが強すぎて、絵でいえば手塚治虫の三頭身の人物みたいになってしまう。
やまだ紫さんの絵は、リアルだけれども、どことなくはかなさの漂った、あわいけれども個性的なフィギュアだ。
小説のもっている欠点を挿し絵が補ってくれると思う。
何よりも、やまだ紫さんの絵は、存在感があるので、アルヘリッチのピアノ伴奏みたいに、ソロ楽器が頑張らないと伴奏に負けてしまう。
小説の方は、父親が登場するまでは、ヒロイン亜紀を中心にストーリーで引っぱっていく。
ここで新たな登場人物の紹介。
亜紀をめぐる男たち。
君原卓三……通称キミタク。ハンサムでオシャレだけれども背が低い、やさしい青年。
柿崎俊幸……明日香の恋人
吉永稲次郎…美麗が好きになったミュージシャン
丸森留吉……美麗が演奏しているピアノバーのオーナー
立花カオル…コンピュータおたくの美少年
現在30回を少し越えたところ。一ヶ月ぶんのストックがある。
まだ父親は出てこない。コンピュータ少年のカオルくんが出てきて、付随的に兄の洋一が出てきた。
錦織一郎が出てきたところで、母親は少し出てきたので、これで家族のうち三人は読者の前に登場した。
父親が登場するとこの作品は過去にさかのぼっていくので、もう少し我慢をして父親の登場を先にのばしたい。
ただし、一回くらい、ごく短く父親を登場させて、読者がイメージを結べるようにしておく。
36回までが、物語の状況設定として、導入部の役割をもっている。
次の大きな流れは、父親の回想を中心に家族の歴史を描いていくことになる。
美麗がピアノバーの演奏のあとでアルバイトしているスナック「ローザ」のママさんは、父親のかつての恋人。
ここから過去のドラマが提示されることになる。
なお並行して、明日香の現在の状況が提示されることになる。
複数のドラマが同時並行的に進行していくのが、この種のポリフォニー的作品の醍醐味だから、各人物のデッサンをしっかりして、それぞれの場面で主人公としてイメージを確立させていく。
主人公の移動とともに、作品の視点が移動することになるので、その転換点をスムーズに通過しないといけない。
連載の第一回の冒頭を、描写で始めずに、作者らしき人物の語りで始めたのも、いずれ視点が移動することへの伏線といえる。
視点の移動がうまくいかない時は、作者が登場して、作者の特権によって場面転換させたり、作者の解説みたいなものを挿入することによって、場面転換の間のクッションとする。
これまでの30回でも、錦織一郎が母花絵のマンションを訪ねるシーンは、視点がヒロインの亜紀から離れている。
章ごとに小さなタイトルを付けることにしたので、章の変わり目では、視点を一挙に変えることができる。
いずれにしても、リアリズムで小説を書く場合、視点というのは重要な技法になるし、視点が不用意に揺れてしまうと、小説のスタイルが崩れ、リアリティーも維持できなくなる。
この夏は集中して、大学の後期が始まるまでに、ストックを貯めておきたい。
ただし、実際に連載が始まって、反響が聞こえてきた時に、作品にフィードバックさせることが、ストックを貯めすぎるとできなくなる。
多少の修正はできるとして、とりあえず連載が始まって、読者の声を聞きたいと思う。
現在の時点でも、前任者の小説がいつ終わるか、連絡がない。それでも、やまだ紫さんの挿し絵が送られてきたのはありがたい。
このすばらしく豊かで深いイメージは、ごく自然に、これから書く小説にフィードバックされるだろう。
7/18
今週の火曜日(7/15)に尾崎さんに36回までの原稿を渡した。同時に、「次の夕刊小説」という社告に掲載する「作者の言葉」も渡した。
明るく楽しく、少しドキッとする小説を書きます。大学四年生の女の子をヒロインに設定し、就職問題を通じて、「いかに生きるべきか」という古典的テーマに迫ります。もう一つのテーマは「家族」とは何か、という問題です。半ば崩壊しつつある家族が、お互いを「請い」求め、家族の絆を「乞い」、さらに「恋」に迷う姿を描きます。父、母、兄、妹という四人家族の全員が同時並行的に「恋」をします。当然、「不倫」といった現代的な場面も扱いますが、悲劇にならないようにユーモラスに。挿絵に負けないように、イメージ豊かな作品をめざします。
さて原稿の方は、今週は雑用があってまだ6回ぶんしか進んでいない。
ヒロイン亜紀と父の月に一度のデートの場面。ここで初めて、父親が登場する。
このシーンは、亜紀の視点で描いているので、娘の目に映った父親像ということになる。
大学で創作の指導をしていると、自由を求める女子学生と、無理解な父親、という構図の作品によく出会う。
そこに出てくる父親像は、きわめてワンパターンで、実在感に乏しい。
そこで学生たちには、きみたちの父親にも青春があったはずだ、父親に対して思いやりを、といった提案をしている。
もっと具体的には、きみの父親が田村正和だったら、と思って書いてごらん、と指導している。
頭の禿げた、腹が出っぱった、ビールを飲みながら野球中継を見ているだけの、知性のカケラもない父親像ではなく、豊かで魅力的な父親のイメージ。
この作品では、「僕って何」の主人公が五十歳になったら、という想定で書く、と尾崎さんには言ったのだが、作者自身の姿がこの父親像に投影されているといってもいい。その意味で、この父親こそが、この作品の本当の主人公なのだ。
7/21
47回目まで完了。これまで一つの章は12回でまとめてきたが、第4章は11回で終わった。
2週間単位で章が変わるということを念頭においてきた。
新聞への連載が8月1日からと決まったので、金曜からのスタートとなる。
週末に新しい章が始まる、というのを一つのリズムとしたい。
9月に入ると祝日が2日ある。祝日は夕刊が休みなので、1週間が5日になる。
4章を1回ぶん縮めたので、次の章は土曜から始まる。できればこの章も11回でいきたい。
10月も祝日があるので、それでもまだその次の章は土曜から始まる。まあ、こういうことにこだわってましようがないのだが。
大事件が起きて小説が休載になることもあるらしい。月曜から始まってもかまわないわけだが、月曜で章が終わるとというのは好ましくないので、なるべく11回で終わらせよう。
第4章では、父親のイメージが鮮明になった。これで主要登場人物が出そろった。
あと一人、父親の事務所で働いているアズサという女の子が、まだ顔を見せていないが、亜紀の回想の中にはチラッと出てきているので、これでいいだろう。
全体を150+*と考えると、47回というのは、ほぼ1/3にあたる。
ここまでが人物紹介の長いイントロダクションと考えると、次章からは、ただちに展開部に入らないといけない。
ストーリーの速度をさらに上げる。同時に、すべての登場人物が同時進行で動き出さないといけない。
当初から考えていたことだが、この作品は多くの登場人物が同時並行的に動いていくポリフォニーなので、
視点を一つに定めることができない。そのために、冒頭に作者の語り出しておいた。
4章までは、錦織が花絵の部屋に行くシーンを除いては、おおむねヒロイン亜紀の視点で書いてきたが、
展開部に入ると大胆に視点を移動することになる。新聞小説という性格上、視点の移動は好ましくないのだが、これまでもストーリーを展開してきたので、このままの勢いで乗り切りたい。
視点がとぶといっても、亜紀の家族と親友3人だけに限定する。
錦織と花絵のシーンは、どちらの視点でもない、「神の視点」と呼ばれる客観描写で描いた。
冒頭に作者の視点を置いたので、今後もこういう視点は出てくることになるが、
客観描写は作品の世界と読者の距離が離れすぎるので、できれば登場人物の主観で描写を展開したい。
そこで第5章は、ヒロイン亜紀を離れて、明日香の視点で描く。たぶんうまくいくと思うけれども、ダメだったらやり直す。
いままでは書いた原稿はそのつど尾崎さんに渡してきたが、この章と次の章は渡さずにストックしておく。
47回までは渡すが、これだけでほぼ二ヶ月ぶんあるわけだから、挿絵の方も大丈夫だろう。
やまだ紫さんには、今後の展開を手紙かメールで伝えておく。
さて、連載開始の8月1日まであと1週間。
読売新聞は日本一(ということは世界一?)の販売部数だから、反響が楽しみ。
7/28
第5章「明日香の恋」完了。
今回も11回。これで58回まで来た。
この章はヒロインの明日香の視点を離れて、明日香の視点で押し切った。
ポリフォニーで描く一種の全体小説なので、視点の移動は避けがたいが、うまくいったと思う。
明日香の恋人、柿崎俊幸は暗い人物なので、この章全体が暗くなってしまったが、
明るいばかりでもアホみたいなので、これくらいの暗さがあってもいいだろう。
2週間だけがまんしてもらえば、また亜紀の視点になって、テンポがよくなる。
逆に、この章がふと目にとまって、ここから読み始める読者もいるだろう。
この章の文体がふつうの小説のスタイルで、それ以前の導入部は、少し軽すぎる。
若者が主人公だし、いままでの新聞小説のスタイルを壊したかったので、テンポを重視して軽めに展開したのだが、
ところどころで要所を押さえて、文学としても深みのあるものであることを、読者に伝えたい。
明るく楽しいだけでは、文学ではない。楽しい娯楽はほかにもいっぱいある時代だから、
小説というものの深さと怖さを読者に伝えたい。
わたしの青春小説のうち、たとえば、「いちご同盟」「春のソナタ」は、
いずれも、人の死を、ストーリーの中心に据えている。小説として、人が死ぬというのは、わりあい簡単に盛り上がりをつくることができので、ラクであるということはいえる。
すなわち、人が死ぬ小説は、小説の作り方としては安易である、といってもいい。
「恋する家族」では、なるべく人が死なないように、と自分に言い聞かせていたのだが、
読者の皆さま、ごめんなさい。一人だけ、人が死にます。
柿崎俊幸の昔の恋人、ヤス子。このひとだけは、死んでもらいます。
明日香にまつわるエピソードの山場になります。
今回は、そのエビソードのイントロです。
といっても、ヒロインは亜紀だから、たぶんあと1回だけ、明日香の視点で書く章を設け、そこで一挙に、カタストロフを設定します。
この小説は亜紀が中心ですが、明日香、里紗、美麗も、それぞれに主役級の扱いをします。
そのため、今後も視点が、彼女たちに移動する章が出てくるでしょう。
それからもちろん、亜紀の父、母がストーリーの中心に出てくる章もあります。
でもそれは、少し先です。次の章では、再び視点を亜紀に戻して、周囲の女の子たちの就職活動のエビソードもまじえて、明るく楽しく展開します。
さて、いま書いているところが新聞に実際に掲載されるのはいつのことか。
予定表によると、10月の半ばになっているわけですね。
とにかくどんどん書いていきます。父親の不倫のシーンを書くのが楽しみです。
8/21
第7章「父の青春」完了。81回まで。
だいたいこれで、6カ月の連載の半分くらいだ。
この章は、ものすごく重くなってしまった。
ヒロインの父親の守夫が、かつての恋人のハルミ(ローザ)のスナックを訪ね、再会する場面。
ここまで軽い文体で書いてきたし、テーマが女子学生の就職問題なので、
若い読者もいるだろうと思う。そういう読者に「全共闘」といっても、何のことかわからないだろう。
そこで若干の説明が必要になる。この種のテンポを重視した小説で、説明がくどくなると、テンポが損なわれる。
どんなふうに説明を挿入するか難しいところだ。
結局、1章、11回ぶんが全部、説明になってしまった。
これを回想シーンを折り込んで、会話と描写で展開すると、それだけで本1冊になってしまう。
そこで、守夫とハルミの関係を、「僕って何」の主人公とレイ子の関係に重ねて、極力、説明を省くことにした。
これだけでは説明不十分なのだが、何となく、二人の関係のムードは伝わると思う。
この章の最後に、美麗が登場する。次の章は、守夫と美麗のアバンチュールになるはずである。
ヒロインの亜紀がしばらく出てこないので心配だが、「恋する家族」というタイトルにもあるように、
家族四人の恋、というのがプロットの中心なので、しばらくは父親が活躍することになる。
実際の連載は、まだピアノバーあたりをうろうろしている。守夫とローザが活躍する伏線として、亜紀がローザの店に行くシーンは重要なところ。
段取りはうまくいっているし、紫さんの絵も快調だ。
8/27
きのうまで3日間、軽井沢にいた。48回〜70回の原稿をプリントしたものをもっていって、友人の別荘のテラスで読み返した。
明日香、および里紗の恋について。
二人の女の子の個性を出すために苦心したが、まだうまくいっていないので、赤字を入れ、三宿に帰ってきてパソコンで入力。
プリントしようとするとプリンターが動かなくなった。
単にインクがなくなっただけと判明
これはオートバイでとりにきてもらう。
71回〜81回もすでに草稿はできている。この父親の青春時代の回顧は、もう少しあたためておきたい。
エッセーなどの仕事が少したまっているので整理したい。
9/21
「熱帯夜」の章が終わり、次の章は「スクランブル」
ここまで、ヒロインの水上亜紀を中心に、時々、明日香、里紗の視点で、また、かなり長い部分を父親の視点で書いてきた。
この章では、スクランブル状態になる。亜紀、父親の視点だけでなく、母親と兄が出てくるところを客観描写で書く。
タイトルにあるとおり、この作品は「家族」を描くのがテーマだから、ここでは入れ替わり立ち替わり、家族のメンバーが出てきて、
総合的に、家族というものを浮き彫りにする。新聞小説の場合、こういうふうに頻繁に視点が変わるのは、やや危険なのだが、
ここまではなるべく一つの視点で長く引っぱるようにしてきたので、読者もそのペースに慣れているだろう。
ここに至ってスクランブル状態になるのは、一種のスラップスティク的な効果を狙っている。
だからわざと視点をコロコロ変えて、ドタバタ喜劇のトーンを出す。
この章の次には、トーンを落としたしんみりとした章を置く。長い連載なので、変化を出すくふうをしている。
さて、大学の後期が始まった。わたしの担当は週二回だが、今月は総合講座「聖書の文化史」という、リレー講座の担当月なので、週に三回、大学に行かなければならない。
週に三回も大学に行くと、学校の先生をやっているという実感がある。
日経新聞の日曜日のエッセー連載が今月と終わるのだが、来月からは朝日新聞の日曜日のエッセーが始まる。
昨年まで、季刊の『文芸』に「迷宮のラビア」を連載していたほかは、締切のある仕事をしてこなかった。
今年は新聞連載が重なって、「締切」のプレッシャーがある。
幸い、大学の夏休み中に、読売新聞の方は、二ヶ月ぶんのストックがある。
大学が始まって、いろいろと多忙だが、この貯金をくずさないようにしたい。
9/28
ゲラは一ヶ月先までしか出ない。現在手元にあるのは、69回目まで。「乙女の悩み」という章の11回目。あと1回でこの章は終わる。
読売の尾崎さんに渡したストックは70回まで。しかし手元には3章ぶんのストックがある。
「父の青春」「熱帯夜」「スクランブル」の3章。本日、この「スクランブル」の章が終わって、パソコンでプリントした。
「スクランブル」の章では、四人の家族が入れ替わりで登場する。
美麗と不倫状態になった父親。愛人の錦織が娘の亜紀を誘惑しようとしたので動揺する母親。
美少年と共同生活を始めたパソコンおたくの兄。そしてヒロインの亜紀は、美麗の愛人のロック歌手・吉永稲次郎とホテルのラウンジで飲んで酔っぱらう。
登場人物の関係がしだいに緊密になってきた。
とりあえずこの3章を読み返してチェックを入れる。
次の章は、父親が彼岸で里帰りするシーンが中心になるが、スクランブル状態で他の家族も登場する。
故郷に帰った父親が、結婚した直後のことを回想する。「家族」をテーマにしてきたこの作品の、隠された過去の物語が、ここで明かされる。
どのような家族にも、ルーツがある。父と母の出会い、結婚、出産、子育て。
そのプロセスの中で、何らかの問題が生じ、それが現在につながっている。
だから家庭の問題を掘り下げるためには、ルーツを語らないといけない。
このプロットは最初から用意してあるので大丈夫だ。こういう設定は最初に準備しておかないといけない。
語るべき過去を用意した上で、現在のプロットの進行は、筆の運びである程度、自由に展開していけるフレキシビリティーのある状況設定が必要で、この作品の場合は、書き始める前に用意した設定と、書きながら思いついたプロットが、うまくかみあっていると思う。
大学の先生をしているので、後期の授業が始まると、忙しくなる。
9月は、何人かの先生と交代で講義する「総合講座」の担当の月なので、週に3日、大学に行かなければならない。
それだけでも大変なのに、妻が旅行でいなくなった。長男がベルギーに留学するので、様子を見にいったのだ。
そこでこれからの一週間は、大学院の試験を終えたばかりの次男との二人暮らしだ。
まあ、子供といっても、赤ん坊ではなく、もう大人だから、手間はかからないが、妻がいないとさまざな雑用を自分でしないといけないので、けっこう大変だ。
ともあれ、毎日のノルマを果たしてこの難局をしのぎたいと思う。
「恋する家族」主な登場人物
水上守夫……50歳。全共闘世代。広告プロダクションの社長。W大出身
水上花絵……守夫の妻。翻訳家。現在、別居中。W大出身
水上洋一……長男。W大4年に留年中。コンピュータおたく
水上亜紀……本編のヒロイン。22歳。W大学4年生
堀米明日香……亜紀の仲間。父母離婚。スーパーでバイト。可愛い顔立ち
権藤里紗……亜紀の仲間。裏日本出身。背の高い美人
並河美麗……亜紀の仲間。関西出身。父母離婚。ピアノバーと「ローザみ」でバイト
君原卓三……亜紀の友だち。カッコイイ青年だがやや背が低い
立花カオル……洋一の通信友だち。美少年
錦織一郎……出版社の編集者。水上花絵の担当
柿崎俊幸……明日香がバイトするスーパーの店長。やや暗い
鈴村ヤス子……柿崎の昔の恋人。この小説における唯一の死人
春山明……里紗の高校時代のボーイフレンド
草野哲也……里紗が内定をもらった編集部のデスク
吉永稲次郎……美麗の憧れのロック歌手
柏原ハルミ……「ローザ」のママ。水上守夫のかつての恋人
高千穂アズサ……水上守夫のプロダクションの社員
岡田健次……水上守夫のプロダクションの社員
丸森留吉……ピアノバーのオーナー
佐伯正樹……水上守夫の大学時代の友人
山田…………名前はない。「ローザ」にいる客。「僕って何」の登場人物がゲスト出演。
松村武………水上守夫の義兄
松村美代子…水上守夫の姉
松村新一郎…水上守夫の甥