羽根尾貝塚は、大磯丘陵の西端に近い曽我丘陵から東北部に開けた沖積地へと延びる丘陵先端部斜面に立地し、貝塚及び縄文前期遺物包含層は地表下2〜4mの泥炭層中より発見された。

 縄文前期の植物質・動物質自然遺物の夥しい出土状況には圧倒されたと云う。

 羽根尾工業団地の建設に伴う発掘調査は平成5〜11年にかけて継続的に実施され、縄文前期の貝塚を含む縄文・古墳・奈良・平安から近世の各時代にわたる遺構・遺物が検出された。

貝塚現場T 貝塚現場U 貝塚現場V

 貝塚は標高26〜27mに所在し、相模川以西では平塚市の万田貝塚・茅ヶ崎市の西方貝塚に次ぐ3番目の貝塚と云う。

 アカホヤ火山灰層が地表下約5.5mより確認され、その直下よりマガキ・ハイガイなどの自然貝層が検出された。
当地域は地盤の隆起・沈降の激しい地域として知られ、縄文前期前半には標高が現在より20m前後低かったと見られ、入江状の内水面に立地していたと考えられている。

 次に縄文前期の限られた時期を特徴とする多種多様な出土遺物を取上げると、関山式土器や磨石・叩石などをはじめ、泥炭層中に遺物包含層が形成されたため、木製品・編物・縄・骨角器・自然遺物など、保存状態の極めて良好な有機質遺物が多量に検出された。

波状口縁土器

 地の関山式土器で、他に在地の黒浜式土器と合わせ全体の過半を占めるが、東海地方の土器が全体の4割という高率である点が大きな特徴として注目される。
小田原の地域特性から東海地方との文化交流・交易が盛んであったと見られる。

 木製品では黒・赤漆塗り木製容器類・櫂・丸木弓・樹皮巻き飾り弓・建築部材・板材などが検出されている。

朱塗木製容器

 体に黒漆を塗布し、口縁部には幅5cmほどの赤漆を上塗りしている。

 漆塗りの木製容器破片は総数70点以上にのぼり、デザイン・技法など縄文前期文化の最高水準を示していると云う。

弓・櫂など

 量に出土した自然遺物から羽根尾縄文人の採集・狩猟・漁労活動の内容が明らかにされつつある。
シカ・イノシシなどの獣骨は夥しい量が出土しており、同一地点からは大量の石皿・磨石・叩石などが見つかっていることから、水辺での動物解体場と考えられ、又狩猟用の弓8点などの出土例と合わせ、活発な狩猟活動が想像出来る。

 又イルカ・カツオ・メカジキ・サメなどの魚骨は活発な外洋性漁労活動を彷彿させ、十数点を数える櫂の出土は漁労活動に舟を使っていたことが分かる。
樹皮巻き飾り弓も出土している。

 木製品以外では骨角器も良好な状態で出土している。刺突具・ヘアピン・ペンダントなどが多数見つかっている。

ヘアピンなど

 石製ウキ・ヘアピン及びペンダントなど。
軽石製ウキについては、当地は縄文前期海進などにより相模湾入した海面近くに形成された集落であり、大量の魚骨類の出土状況からも、沿岸での漁労活動も外洋漁労と共に盛んであった証左と見られる。

ペアピン・ペンダントなどの骨角製装身具の中でも、先端部に刻みを有する長さ15cmほどのヘアピン(写真左上端)は精巧に作られている。
文化生活レベルの高さを物語る装飾品として注目に値する。
この他にも管玉・赤彩された浅鉢土器・漆塗り土器などの特殊遺物も出土したと云う。又遺物が集中する範囲に重複する形で樹木の集積が検出され、木道など人為的な遺構の可能性があると云われ、今後遺物整理作業が進むにつれて、周辺の自然環境の復元と共に、羽根尾集落の実像が明らかにされていくものと期待したい。

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