ノ沢遺跡は北上市街地から南へ約3km、和賀川右岸の段丘上に位置する、縄文前期末葉の集落。北上市周辺には縄文前期末葉の遺跡が集中しており、本遺跡の他に樺山・横町・鳩岡崎・煤孫・和光などの各前期遺跡が存在する。

 本遺跡からは扁平な川原石の両端を打ち欠いて作った石錘が約3,300点と異常に多い出土例から、漁場に恵まれた自然環境・食糧事情が多くの北上集落民を支えたと考えられる。

(滝ノ沢遺跡現場)
 業団地造成工事に伴い発見され、集落の北側斜面には捨場が作られ、多量の土器・石器などの遺物が重なり合って出土したと云う。
竪穴住居などハッキリした遺構の発見は少ないが、無数の柱痕・炉址などの存在から大きな集落跡と見られている。

以下前期縄文人の精神世界・生活文化を偲ぶにふさわしい出土遺物を紹介する。

(男根状石器)
 細い石の一端にクビレを切り込んだ写実的な石製品で、男性器を模したと見られる。
成人式に男性器の割礼が行なわれていたのかもしれない。このような男根状石器は秋田県・山形県・北海道など東日本の縄文前期に出土例が多いと云う。

縄文中期以降は男性器を模した石製品は、より細長く抽象的形状になり、出土例の多い“石棒・石剣・石刀”などへと変化して行ったと考えられる。

(土製耳飾り)
 状・臼状の土製品は、耳朶に孔を開け差し込んで使った耳飾りと見られる。
耳飾りを着けている土偶の例や土壙墓から出土した人骨の耳辺りから出てきたことなどから、耳飾りとして裏付けられる。
縄文前期には大いに流行していたと考えられる。

(けつ状耳飾り)
 状に丹念に磨いた扁平な石に、耳朶に装着できるように切れ目が入れられている。
蛇紋岩・滑石など柔らかで加工し易く、見た目にも美しい原石が使われ、北上山地から原石を持ち込んで、専門職人が見事に加工したと見られる。
けつ状耳飾りにあやかれない身分の男女は、せめて土製耳飾りで装っていたのかも知れない。

  耳飾り以外にも円盤状石製品・孔空き石などが出土しており、当時の精神世界の奥深さを象徴していると云える。

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