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上野原遺跡は南に錦江湾・桜島、北に霧島連山を望む、国分市東部の標高約260mの上野原台地に位置し、平成9年工業団地の造成工事に伴う発掘調査により縄文早期のムラが甦った。

 同遺跡からは約9,500年前の竪穴住居跡をはじめ、調理施設と考えられる集石遺構・連穴土壙や狩猟・水汲みなどに利用したと見られる“道の跡”などの遺構のほか、多量の土器・石器など、縄文時代の早い段階から個性豊かで多彩な文化を擁し、定住生活を裏付ける大発見として注目を浴びた。

 この一大発見は縄文時代の定住生活が南九州から広がったことを意味し、従来の定説を覆す結果となった。
又約7,500年前頃の縄文早期後葉の地層からは、祀り・儀式の場と見られる広場が出現した。

台地南側の最も高い所には丸と四角の口を持つ2つの壷形土器が埋めてあり、又土器が倒れないように大きな穴に小さな穴を掘り、それぞれ立てて入れられていたと云う。

 一方その周りには壷形・鉢形土器を埋めた土器埋納遺構や、石斧を数本まとめて埋めた石斧埋納遺構などが取り囲むように配置されていた。
この祀り広場からは多種多様な道具が見つかっており、気候の温暖化による環境の変化の中で、上野原台地の縄文人は豊かな生活をエンジョイしていたと思われる。

 縄文早期以降、上野原台地には縄文前期から晩期、弥生・古墳時代から現代に至るまで延々と人々が住み着き、繁栄を築き上げた。
ここでは縄文時代早期の「上野原縄文の森」を取上げる。

縄文ムラ 現場望遠T 現場望遠U

真左側から復元元された縄文ムラ、台地から望む錦江湾と桜島及び祭祀広場に望む霧島連山。

 36haの広大な「上野原縄文の森」公園は国史跡として保存・活用され、「展示館」をはじめ、「遺跡保存管」・「体験学習館」などのふれあい施設が整備されている。

 当台地北側には、2条の道筋に沿って52軒の竪穴住居群・65基の集石遺構・16基の連穴土壙などムラ跡が発見され、全国的にも最大規模の定住化初期の大集落と云える。

以下文字列にポインタをおくと、発掘・復元されたいろいろな遺構をご覧になれますよ!

 火山灰の衣に被せられ・保存されていた竪穴住居址

 調理用の集石遺構

 同じく燻製調理用の連穴土壙

 集落内の生活道筋を復元

から9,500年ほど前の桜島噴火に伴う火山灰の衣に被せられて、保存されていた竪穴住居址・集石遺構・連穴土壙・道筋跡などが姿を現した。

 火山灰が地層にカバーをかけるように遺構・遺物を保存し、年代判別の手がかりを残していた。
火山灰土壌は強い酸性のため、人骨などは溶けてしまい残っていないが、当時の生活痕跡を生生しく残してくれた。

 52軒の竪穴住居跡は重なり合ったり、埋まり方に違いが見られることから、建てられた時期に差があり、ムラの存在は長期間にわたっていたと考えられる。

カルデラ地層 軽石土層

 良カルデラ・桜島カルデラ・鬼界カルデラなど九州南部にある火山の噴出物から各時代の生活痕跡を窺い知ることができる。

 幾たびの大爆発を繰り返し降り積もった火山噴出物の地層は、その色や含まれる軽石の大きさなどそれぞれに特徴があり、いつ頃の噴火によるものか教えてくれる。

 桜島噴火が残した膨大な噴出物に封印されていた生活痕跡が全貌を現し、今までの常識・学説を覆す衝撃的な物証が真実を物語っていると云える。
火山噴出物に覆われ不毛の地と化した土地も、やがて豊かな自然が広がるというサイクルを繰り返し、その都度生活痕跡を地中に封印してきた南九州地方のドラマが色濃く残され、ようやく現出したと云える。

次に上野原縄文人のオシャレ感覚・精神世界を耳飾り、石製垂飾り、異形石器、異形土製品そして土偶の順番で紹介する。

 飾りはピアスのように耳朶に孔を空けて装着したもので、ベンガラで赤く彩色し、渦巻き文様を付けたり、上野原縄文人のオシャレ感覚・精神世界が窺える。

 石製垂飾りは小石に孔を空けて、ペンダントのように仕上げた飾り石。
異形石器と異形土製品は大変珍しい道具で、使途がハッキリしないが、祀りごとに使われたと考えられる。
土偶は頭と両腕を簡略化し、乳房を小突起、肋骨を横細い線で表現した九州最古の土偶。

約7,500年前の上野原台地は気候の温暖化と共に、シイ・カシなど照葉樹林が広がり、動植物にも恵まれ、上野原縄文人の生活を豊かにしていった。

生活が豊かになると共に、多種多様な道具を生み出し、ゆとりある多彩な精神文化が開花したと云える。

耳飾り・首飾りなどアクセサリー作り、複雑な文様入りの土製品など縄文時代早期に既にこれだけの高レベルの文化を育んでいたことは、驚異に値する。

これらは日常使われた装身具というより、神聖な祀りの広場で使われた道具であったと考えられる。

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