寿

が男女とも世界一の長寿国である記録は今年も継続されている。
現代医薬や医療機器の恩恵は欧米諸国ほど受けていない日本、又今日の環境汚染問題は先進国として恥ずべき社会問題化して久しい。

 社会的・物理的・医療的に日本人長寿の原因は見当たらない。
そこで日本人長寿の根源は縄文人に遡るという仮説を立ててみたい。

 石器から縄文時代へ移行した環境変化、即ち日本列島には温暖化により落葉樹林が現れて木の実を大量に供給できるようになった。

 又山・野・海に取り囲まれた自然環境は、山菜・キノコ・海藻など植物性食料にも恵まれた。

 このような新しい環境は、人間の生命を支える食生活に深くかかわる歯の構造に偶然にもピッタリだったと云われている。
人間の歯の構造は総数32本のうち臼歯(臼で穀物をつぶすための歯の意)が約60%、切歯(食物を噛み切る、いわば野菜を食べる歯の意)が約25%、犬歯(食肉動物の歯)が約15%と云う。

 縄文人が残した糞石分析から、縄文人は木の実を中心とする炭水化物を総カロリーの60〜70%ほど採っていた云う。

 日本列島総面積の75%ほどが「山」で占められ、木の実・山菜・キノコ等の供給基地として縄文人の食生活を支えた。
植物性食糧を主とした食生活が人間の歯の構造にピッタリ適していたことが分かる。

蜆塚貝塚出土の頭蓋骨

 岡県浜松市の蜆塚貝塚から出土した31体人骨のうち2つの頭蓋骨。
縄文人の抜歯の痕跡が明らかに残る例。
縄文人の人骨から縄文人が抜歯する風習を持っていたことが知られている。

 特に上下の犬歯を抜いていたことは、何らかの呪術的意味合い或いは自己表現(出自を現わす)の姿を現わしたとも考えられている。
食肉用として揃えられた上下4本の犬歯をあえて抜いていたことは、食生活と深くかかわっていたのではないだろうか?

 抜歯の風習は狩猟が山野を駆け巡る生命のリスクと多大な労力を要したことに対する敬意・畏敬の念等を表現したと考えられる。

 間の唾液の中で一番多い酵素・アミラーゼは澱粉分解消化酵素であり、穀物がアミラーゼを十分活かしうる健康食糧でありことは知られている。
炭水化物中心の食生活が縄文人の健康を守り、長寿に大いに役立ったと云える。

 しかし現実には縄文時代当時天変地変・疫病等が平均寿命を押し下げ、天寿をまっとう出来なかったことは云うまでもない。

 文人が常食としていた木の実のうち、クルミにはビタミンEが含まれ老化を防ぐ効果がある。
ビタミンEには体内の脂肪が酸化して心臓病・癌・動脈硬化などの原因となる活性酸素を除去する効用があると云われている。

 木の実が健康食糧と云われる由縁である。

南方前池遺跡出土の木の実

 山県山陽町の南方前池遺跡から出土したトチ・ドングリなどの木の実。
縄文時代晩期の貯蔵穴からは、2,500年ほど前のままの状態で大量の木の実が出現したと云う。

本列島に緑の多いきれいな空気をもたらし、森林に囲まれた生活環境はストレスから開放し、又山のフィルターを通して伝わる、土壌中のミネラルを豊富に含んだ湧き水は活性酸素を消去し、縄文人の生命体を活性化したと見られる。

以上のように緑の樹林に囲まれた環境が活性酸素の発生を抑える役割を果たした。

一方活性酸素を消去する成分の多い穀物を中心とした食生活が健康を支えた。

このように縄文人の自然との共存・共生が、今なお日本人の体内に生き続ける日本人長寿の真因と考えられる。

 であればこそ今日の人為的環境汚染問題に対して、縄文人の悲鳴が聞こえてくるような気がしてならない!!
 21世紀に向け、自然との共存・共生が世界規模で求められている人類存命のキーワードであることは間違いないと云える。

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