「大空を自由に飛びたい
何処までも 空高く」
大きく採られた窓ガラスから真っ青に澄み渡った空が広がっていた。
振り仰いだ瞳に突き刺さるような空だ。
防衛軍司令本部最上階のカフェテリアで、ぼんやりと僕は時間を潰していた。
休暇中であるにもかかわらず、参謀に呼び出されてしまったのだ。
なのに、出頭した僕に向かって実の兄である先任参謀は事もなげに言い放ってくれた。
「急な仕事が入った、悪いが待機していてくれ。」と。
休暇中の人間を呼び出しておいて、この態度!文句のひとつも言おうと思ったが、そんな暇もなく先任参謀はあっという間に僕の前から姿を消してしまった。
仕方なく、僕はしたくもない時間潰しをする羽目になったのだ。
僕の前のテーブルには、すっかり冷え切った紅茶と煙草と灰皿。
灰皿には、何本かの吸殻。
僕は最近煙草を吸うようになった。地球にいる時間は、なぜか煙草に手が伸びるようになったのだ。
―――吸いこんだ煙を口から吐き出す。少しの苦味が口に残る。
ゆらゆらと揺れる紫煙を見るともなしに見てしまう。
僕の周りを囲みながら、あっという間にかすれ消えて行く煙、微かな匂い。
そこに確かに今あった存在なのに、ほんの少しの時間が経つだけで存在が消えてしまう。
妙な発想かもしれないが、儚くて哀れな存在だと思う。
テーブルに片肘をついたまま、天井まで張られたガラス窓の外に視線を移せば、晴れわたった空が見える。
少しずつ形を変えていく雲の姿が妙にまぶしい。
「…いい天気だよな。」
思わず呟く。
しかし、こころの中は文句で一杯だ。
今日は、休日だった筈なのになんでこんな所で足止めなんだ。
これでタイシタ用件じゃなかったら たたじゃおかないぞ。
頭の中に思い浮かべた顔に向かって心の中で目一杯、毒づく。
苦々しげな表情が思いきり顔に現れているのが、窓ガラスに見事に映っている。
目一杯不機嫌な僕に近づく奴は誰もいない。
………いないはずだったんだが。
背中からポンっと肩を叩かれた。振り返ってみると、見なれた人間が立っていた。
「よう」
短い挨拶をしたあとで、遠慮もなしに、そいつは手にしたコーヒーと共に僕のまん前のイスに腰掛ける。
そしてテーブルの上の物体が目に入ったのだろう。
不思議そうに僕をマジマジと眺めている。
「・・・なんだよ。」
「いつから喫っているんだ?お前 煙草嫌いじゃなかったっけ?」
「いいだろ。別に。」
気心知れた間柄だ。自然と言葉が短くなってしまう。
僕は、テーブルに置きっぱなしだった煙草を、ジャケットのポケットに無造作に押し込んだ。
そして、そのままそっぽをむく。
「艦長代理が、率先して喫煙とはね。」
呆れたように奴は苦笑してコーヒーに口をつけようとする。
が、ふと気づいたように
「ユキは知っているのか?」
「・・・・・・・・・」
「言えないくらいなら、吸わなきゃいいのに。お前もバカだね。」
しょうがない奴、と言いたげに唇がゆがむ。余計なお世話だ。
「それよりお前こそどうしたんだよ。今日はコントロールセンターの方は良いのか?」
「いつもの会議だよ。あっちは太助にまかせてある。」
飄々とした風情で答えると、
「お前こそ、休暇中じゃないのか?今頃またイチャイチャしてるんだろうと思っていたんだがな。」
「先任参謀からの呼び出しだよ。好きでここに居るんじゃない。ついでにユキは、長官に随行して月基地へ出張中だ。」
なぁにが、イチャイチャだ。言われる程イチャついてなんかないぞ。
ぶっきらぼうに言い放った僕を見て、奴がカラカラと笑い出す。
「あいっかわらず単純な奴だなー。ユキがいなくて淋しいんだろっ」
「ばっ 馬鹿言えっ!」
図星を刺されて僕は焦った。いつもながら遠慮のない奴だ。
「だから堂々と煙草吸ってやがんだな。ユキが居たら吸えるわけないもんなー。」
「どういう意味だよ。ユキは関係ないだろうがっ!!」
「あぁ〜、そうですか。
じゃあ、これからすぐに連絡とってバラシテやろうか?
喫煙中の彼氏を発見しましたが、どういたしましょうかってな。
当分、大事な大事な、お姫様にキスできなくなるぜ。」
面白げに揶揄してくる。
僕は言葉に詰まってしまった。そうユキは煙草が大嫌いなのだ。
健康に良くないって言うのが最大の理由らしいが、煙の匂いが嫌だとも言ってたっけ。
その彼女にバレたら確かにキスどころか、近寄らせてもくれないかもしれない。
「―――大した理由がないなら、煙草はやめけとけよ。古代」
いきなり、それまでのからかう口調から、やや諭すような口調に変わった。
その口調の変化に思わず島の顔を凝視してしまった。それでも、何か言い返さないと気が済まないのが僕だ。
「俺には喫煙の権利はないってか?」
「好きで吸っている奴には言わないけどな、お前は、そうじゃないだろ。」
「……なんでそう思う?」
「顔にかいてある。」
こともなげに言い放ちニヤリと笑う。
・・・・こいつに思いっきり見透かされている、と思った。こうなると、僕はお手上げだ。
確かに煙草が旨いと思ったことはなかった。
ただ、ため息を隠したかっただけなのだから。煙草を吸っているとおおっぴらに息が吐きだせる。
――――理由は ただそれだけで吸っていた。全く情けない話だが。
それを奴はお見透しだ。まったく付き合いが長いのも良し悪しだ。
もう一度 静な口調で
「やめとけよ。お前には似合わない。」
はっきりと、そして、重ねて言われてしまった。いろんな意味にとれてしまう言葉だと思った。
そして、僕には言い返す言葉が見当たらず、ただ口を引き結んだ。
それっきり黙りこんでしまった僕を見て、やれやれ手のかかる奴だ、言いたげな顔をしていたが、ひとつため息を吐くと
「いつも言っているだろう。悩みがあるなら俺達に相談しろって。
一人で抱え込むなって何遍言ったら理解できるんだ?お前、学習能力はどこに捨ててきたんだ?」
ただ黙りながら、顔を歪ませる僕に重ねて奴は言い放つ。
「少しは俺達を信用しろよ。」
はっとする僕を尻目に腕時計をチラリと見やると、島は立ち上がり「じゃあな」 と、手を振りながら行ってしまった。
ひとり取り残されて僕は考える。
“悩みがあるなら話せ 一人で何もかも抱え込むな”
この言葉を実際何度言われただろうか?でも、何度言われても結局この癖は治らない。
いつも、いつも、ひとりで悩んでしまう。そして、周りの仲間に心配を掛けてしまう。
いい加減にしなければ、と思うのだがどうにも改まらない。
僕は、いつまでもこのままなのだろうか?向上も成長もしないのか?
この堂々巡りをいつまで僕は続けてしまうのだろうか。
・……でも、やっぱり相談なんてできない。ホントに損な性分だ。
僕はもう一度 青空を見上げた。
抜けるような青空とは、こういう空のことを指すのだろう。
どこまでも、青い空 白い雲がアクセントのように浮かんだ本当に青い空。
どこまで続いているのか境がわからない。
たまには、この空のように晴れ晴れとした気分になってみたいものだ。
僕は、ジャケットにしまった煙草を再び取り出した。しばらく見つめて一本取り出す。
口に咥え、火をつけ深く吸い込む、視線は紫煙の行方を追っていく。
テーブルに肘をついたまま煙を視線だけで追って行く。
「お前には似合わない。か……」
ついさっき言われた言葉を繰り返す。
指先の煙る煙草をマジマジと見つめ、灰皿に煙草を押し付けた、そして僕は残っていた煙草を手の中で握りつぶす。
何が似合わないのかよくわからないが、たまには、素直になってみようか。
多分それが僕にとっても、良いことなのだろう。
「少々悔しいが、忠告に従うとするか。」
大きな窓に広がる青空を仰ぎ見る。
綺麗な青空だが、酷な青さだとも思えた。こんな思いを抱えるのなら、まだ宇宙を飛んでいた方が良いのに。
そのほうが余計なことを考えずにすむのに……。
両腕を伸ばしてそのまま頭を支える。
さっき言われたばかりの言葉を思いかえす。
素直に仲間達の好意を受けいれられる日はやってくるのだろうか?
僕はそんなことを思って空の一点を見つめ続けた。
窓外を眺め続ける僕の側に、ひとりの士官が立ち止まる。
「 ? 」
怪訝に思い、目で問うと、敬礼をしながら
「先任参謀がお待ちです。」
愛想のない口調で、言い放つ。
「了解しました。」そう僕が答えると、さっさとそいつは踵を返し立ち去っていった。
―――やっぱり今日は厄日のようだ。先任参謀の用件とやらもロクなことではなさそうだ。
嘆息しながら立ちあがった。
テーブルの上に、握り潰したタバコを残したまま…。
先程の兄の態度を思い出し少々不満な気持ちを隠しながら僕は、先任参謀の執務室の前に立った。
どうせロクな用件じゃないのは想像がついている、このまま無視してしまいたい気分だった。
しかし、そうもいかない。覚悟を決めながらもドアを睨みつけ声を掛けた。
すぐに「入れ」とあの聞きなれた声が返ってくる。
入室をすると、執務机ではなく参謀は応接ソファの方に腰掛けていた。
相対する形でひとりのスーツ姿の男性が、参謀の前に座っていたが、僕の姿を認めると、すかさず立ち上がり丁寧に頭を下げる。
僕は会釈を返しながら参謀の前に立つ。
敬礼をしながら「古代、参りました。」と告げると、答礼をしながら僕に座るようにと視線で促してくる。
一体何だ?と訝りながらもそのまま腰を下ろす。
僕が、腰を落ち着けるなり先任参謀が口を開いた。
「待たせて悪かった。古代艇長、こちらは南部重工の岡沢さんだ。」
南部重工の名に、僕はピクリと眉を上げた。
南部の顔が一瞬浮かんで消えた。そして、益々嫌な予感が強くなる。
あの南部自身が絡んでいることは、まずありえないけれど・・・。
紹介された男性が、「岡沢です、よろしくお願いします。」と手を差し伸べてきた。
挨拶を返しながら、僕はその人物を観察していた。
年は兄と同じくらいだろうか?少し神経質そうな表情が浮かんでいる。
どちらかというと、研究者のようだ。
なんとなく融通の効かないタイプかもしれない、なんて思う。
「実は、協力して欲しいことがあったので今日は来てもらったんだ。」
どこか楽しげな声が参謀から発せられた。どうも、この人物は僕に難題を吹っかけては楽しんでいる部分があるんだ。昔から。
「どういう協力でしょうか?」
どうせロクなことじゃないだろう、といった表情が浮かんでいたのだろう。益々楽しげな表情が拡がった。
「それについては、私から説明させていただきます。」
僕は、先任参謀から視線を外して横から声を掛けてきた彼を眺めた。
「古代艇長に、わが社の開発した新型戦闘機のテスト全般をお願いできないかと思いまして。」
僕は、その思わぬ依頼に驚いてしまった。
防衛軍の中の一軍人である僕に何故こんな話が来るのか理解できない。
テストパイロットなんて、当然自分の所に抱えているだろうに。
僕が思いっきり不審な顔をしてしまったのだろう。彼は慌てて言葉を繋いでくる。
「勿論、南部重工としましてもテスト全般は終了してあります。ですが、この機体は非常にクセがありまして・・・、」
「コスモゼロの操縦を得意にしている人間の意見が聞きたいそうなんだ。・・・得意だろう。」
言葉に詰まった相手を助けるかのような言葉を紡いでくる。
「・・・・そんなにクセが強いのでしたら、汎用機には不向きではないでしょうか?」
確かにコスモゼロが特殊な機体だというのは、重々承知している。
だが、それに準ずる機体なら扱い憎さは折り紙つきだ。
そんな機体は実戦配備には向かない。一体何を考えているんだ。
「仰っしゃることはもっともです。ですが、どうしてもこの機体の実戦能力を確かめたいのです。私どものパイロットでは、とてもそこまで出来ないのです。」
一体、どんなパイロットを使っているんだ? テストパイロットなら、現役の戦闘機パイロット以上の能力はあるだろうに。
僕は、心の中でうそぶきながら、それでも興味を惹かれずにいられない自分を認識していた。
何だかんだと言っても新しい機体、それも扱い憎い機体というのは決して嫌いではない。
だが、目の前の先任参謀は、僕が断るわけ無いだろうと横柄な態度を崩さない。
それが癪に障る、
「これは、命令と受け取るべきでしょうか?」
皮肉を込めて確認する。だが、目の前の人物は平然とした顔を少しも崩さない。
「命令ではないし、無論、断ることも出来る。しかし、やってもらいたい」
しれっとした口調で簡単に答えてくれる。
―――― 結局、命令じゃないか、何考えてやがるんだ。この馬鹿兄貴。
神経を逆なでされ腹を立ててしまったが、言いたいことは山程あるけれど、参謀に第三者がいる前であからさまに文句を言うわけにもいかない。
せめてもの抵抗として、僕はたっぷりと時間を掛けて、二人の表情を観察した。
面白げで楽しそうな顔と、懇願する顔が並んでいる。
・・・・・あぁ、やっぱり今日はロクな日じゃない。
「・・・了解しました。」
心の中で大きな溜め息をつく。
だが複雑な僕の気持ちなど微塵も気づきもせず、岡沢の顔が途端に喜色に輝いた。
「ありがとうございます。古代さん」
「いいえ。」
飛び上るように立ち上がり右手を差し伸べてくる。
僕は差し出された手を握り返しながら
「それで、いつからでしょう。」
「詳細は、改めてお知らせいたします。ですが、時期は5日後からお願いしたいのですが、場所は、南十字島から60キロほど離れた南部重工の専門施設があるノースロップ島になります。」
「―――日本じゃないんですか?」
僕は再び驚いた。以前日本のどこかにそういった専門施設があると、南部から聞いたことがあったのだけれど。
「ええ、ご不便をおかけますがよろしくお願いします。」
驚いている僕をよそに、彼は深々と頭を下げると、準備を急ぎますから、と早々に退出して行った。
その後ろ姿を見送りながら見掛けに寄らず、フットワークは軽い人物らしいな。なんてひとりごちる。
そして、広い部屋には僕と先任参謀の二人だけが取り残された。
僕は、クルリとニヤついている参謀の前に立った。ついでに腕組みをして。
「本当の目的は。」
「目的?そんなものはない。ただ、お前にうってつけだと思ったんでな。それで指名した、それだけだ。」
横柄にソファに身体を預け足組んだまま僕を見上げる。
「嘘つけよ。大体、先任参謀がしゃしゃり出てくるような問題じゃないだろう。」
しれっとした態度が癪に障ったのと、二人きりということで、自分の立場を放り出しついつい言葉遣いが乱暴になる。
「岡沢は、俺の昔からの友人だからな。それで頼みを聞いただけだ。何を勘ぐっている。
休暇半分、仕事半分でやってきてくれ。南の島だ、きっと居心地はいいぞ。」「――――ますます怪しい。兄さんが、そんなこと言うなんて変じゃないか。」
僕が尚も言い募ろうとした時、執務机の電話が鳴った。
「おっと、呼び出しだ。悪いがはずしてくれ。休暇中呼び出してすまなかったな。進。」
タイミングよく鳴った電話に向かう兄の背を見ながら舌打ちせずにはいられない。
呼び出し直後と同じように、僕を追い出しにかける気だな。まったく。
それでも内容を聞くわけにもいかない。再びチッと舌打ちしながら僕はしぶしぶ退出した。振り返った僕の目に、閉まるドアの隙間から楽しげな兄貴が片手を挙げている姿が見えた。
僕は、どっと疲れながら車を官舎へと向けた。
急な命令なんて珍しいことじゃないが、何がなんだか、という感じだ。
でも、まぁいいか。新しい機体に乗れるなら楽しいかもしれない。
思い直して、僕はその新しい機体に思いを馳せた。コスモゼロに準ずる機体なんて面白いじゃないか。
兄貴が見たら、「やっぱりな」なんて笑われそうだが、新しいおもちゃを与えられた子供のようにワクワクした気分になってしまった。
翌日の夜遅く、ユキが出張から帰ってきた。
玄関に迎えに出た僕に、嬉しそうに笑いかけてくる彼女が、とても可愛いい。
そして正式な命令でもないし、予定が変わったことを知らせないといけないので、僕はこれからの予定を彼女に説明した。
最初は、やはり彼女も驚いたようだった。
そうだよな、どう考えても妙な話なんだから。
中間色の落ち着いた照明に照らされた部屋の中、ソファに二人並んでお茶をすすりながら
「本当に、テストパイロットを引き受けたの?」
「ああ。」
「妙な話だってわかっているんなら、断ればよかったじゃないの。本当に物好きねぇ。」
「いいじゃないか。それに、ちょっと興味あるしさ。」
僕の顔を一瞬凝視した後、ユキはわざとらしくガックリと肩を落とした。
呆れた、なんて心の声が聞こえてきそうだ。
「・・・結局、そこに行っちゃうんだ。男の人ってどうしてこうなのかしら。」
理解できない、なんて顔に書いたまま口をとんがらせる彼女の顔を覗き込む。
僕はチョンとユキの白い頬を指でつっつきながら
「まぁ、そういうことなんで。また留守をよろしく。」
「もう・・・。」
僕は、そのままユキの肩に手を回してグイッと抱き寄せた。自然、彼女の重みが僕にかかってくる。
そして、ユキの方もそのまま凭れ掛かってくる。
「3日後の早朝に出発するけど、それまでは姫君のお相手をさせていただきますから、ご機嫌を治していただけませんかね。」
少々からかいを含めたまま、僕は彼女の髪に顔を埋めた。甘い匂いが僕の鼻をくすぐる。
「じゃぁ、明日はお買い物ね。なぁに買ってもらおうかしら。」
僕の言い様が面白かったのか彼女はクスクス笑いながら僕の空いた右手を取った。
そのままお互いに指を絡ませる。
彼女の言葉に内心、(しまった!)と叫びながら
「・・・何、欲しいんだよ?」
「別に無いけど、行くのが楽しいんじゃない。」
女性のこういう行動は、まったく男には理解不能だ。
何が楽しくて目的もないのにブラブラしなきゃいけないんだろう。面倒なだけじゃないか、買い物なんて。
でも・・・・。
「けど、そういうのって、お互い様かもな。」
ふと気づいた僕は呟いた。
「???」
聞き咎めながらも意味がわからなかったのだろう、もたれていたままだった体を起し、彼女は僕の顔をキョトンと見上げた。
そんなユキの頬を両手で挟みながら
「男の興味と、女の興味の違いのこと」
そう言うと理解できたのだろう。楽しそうにコロコロと笑い始める。
「そうね。そうかもしれないわね。」
笑う彼女の顔が、とても可愛い。
そのまま顔を近づけて、頬に軽くキスをする。
「で、明日のことは、明日にして、今夜は二人共通の興味を満たしませんか。」
息がかかる位顔を近づけたまま言うと、彼女はますます笑い出した。
「もうっ、最近妙なこと言うようになったわね。何処で勉強してきたのか教えてくれる?」
「――企業秘密につき、教えられません。」
澄まして言うと、そのまま彼女を抱き上げて歩き出す。
首にしっかりと彼女の腕がまわされ、そのままユキは僕にしがみついてきた。
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