2009年
チェコ,ポーランド-2.チェスキ−・クロムロフ

 
   9月27日(日)晴れ
今日は列車で移動する.スーツケースを持って,線路わきの近道を行く.列車の時間と行き先を見て,ホーム番号を確認し,地下を通ってホームに上がった.改札がないので多少不安ではあるがホームにも列車番号,時間,行き先が表示されている.列車はコンパートメントに分かれていた.向かい合わせの8人掛け.年配の女性が「ドブリーデン」と言って入ってきたので「ドブリーデン」と返す.すぐに車掌が検札に入ってきてやっとホッとした.間もなく,まさにハリーポッターのホグワーツ特急のようにワゴンを押して,陽気なおじさんが飲み物を売りにきた.正さんがカプチーノを買う.おじさんは袋を開けてポットのお湯を注いで,それはインスタントのカプチーノだった.
乗り換えの前に車内でサンドイッチを食べる.乗り換え駅のホームでは駅員が切符をチェックして,ホームの端っこに止まっている列車を指さして教えてくれた.車両は3両で,3両目には自転車も乗せられる.ここからチェスキークロムロフまでは単線だった.大きな窓にカーテンはなく,半袖になっても日が射してとても暑い.英語圏の観光客がとても多い.ガイドブックにはチェスキークロムロフは世界一美しい村の1つと書かれている.駅ではちょうどバスが待っていてみんなそれに乗り込んだ.バスは曲がりくねった坂道をどんどん下って行き,すぐに,赤い屋根の家々と蛇行する川が見えてきた.川ではボートで遊ぶ人の姿も見える.ペンションはバス停からすぐの所にあった.カメラを持って外に出たが,日が傾いて日陰に入ると,思った以上に涼しく,服を一枚取りに戻った.
まさにここは観光地だった.ホテルとペンションとレストランとみやげ物屋が並んでいる.曲がりくねって流れる川には木製やゴム製のボートが浮かび,急流下りに挑戦している.泡立つ急流を乗り越えられずに転覆するボートも数多い.広場はウインナなどの食べ物を売る店が出てにぎやかだ.プラハもここも観光客が多く,少しがっかりした.正さんは夕食にビールと白ワイン2杯を飲んでご機嫌に酔っ払って早くに寝てしまった.昼は暑かったが夜は涼しい.窓の外では音楽がうるさく聞こえている.
 9月28日(月)晴れ
朝,昨日は日曜日だから観光客が一杯だったのだと気付いた.昨日は川も通りも人で込み合っていて賑やかだったけれど,今日はとても静かで広場には店1つ出ていない.
チェスキー・クロムロフ城へ行く.城の外壁にはきれいに絵が描かれている.スグラフィット方式で装飾されたものだ.木炭などで黒く色づけした漆喰を塗り,その上に石灰などで作られた白い塗料を塗る.乾いたらその白い塗料を削って装飾するのだそうだ.人物などの絵の他,まるで建物が石を積み上げて造られているように見える装飾も施されていたりする.だまし絵だ.これは16世紀にボヘミア全土に広がった装飾技術らしい.
城内部はガイド付きでないと入れない.迷った末,料金は高いが英語ガイドで回ることにした.
10時10分チェコ語ガイドで周る人が30人近くドアを入って行く.次の10時20分出発は私たち2人だけだった.若い男性のガイドが一室ずつ鍵を開けて入り,すぐに鍵を閉めてから説明に入る.意外に分かり易い説明だった.城の礼拝堂に始まり,この城ゆかりの人の肖像画,壁絵の中に描かれた画家本人,壺の上の彼のサイン,等々.前のグループの人数が多いので少し待ちながら進んだが,そのうち前のグループの人はいなくなり,私たちの前は中国人のグループになった.紹介されるコースが違うのだろうか.ローマ法王に献上した立派な金の馬車は後にイタリアから買い戻したものらしい.ダンスフロア,公式会議の室,ダイニングルーム,キッチン,食事を温める大きなオーブン,リビングルーム,王女の室,友人の室,壁に大きなくまの敷物が飾られている.「ところでこの城に熊が飼われているのだけれど見なかった?じゃあ後で見たらいいよ」とガイドのお兄さん.「うん」と返事をしたものの,だんだんガイドのジョークのような気がしてきた.ところが翌日訪ねたら城と外壁の間で本当に熊が飼われていた.ガイドは熱心にこの城に関係する3つの家柄の名前とその家紋の象徴的な図柄を説明してくれる.紅薔薇,トルコを倒した黒い鳥など.何度もその3つの家の名前を聞いたのに,書き留めなかったのですっかり忘れてしまった.絵もタペストリーも調度もすばらしく,生のガイドで聞く説明もなかなか良かった.

 
チェスキー・クロムロフ城


城の中庭のスグラフィット装飾
   城の地下室に降りたが,こんな空間を利用して現代アートが展示されている.城を見に来た者にはちょっとそぐわない気がするが,プラハ城の土産物屋とか教会のコンサートなど,どこでも有効利用しようとしているのかなとも思う.城の広大な庭園はフランス式の刈り込み庭園だった.
再び街を歩き回り,道端に座り込んで,美しい4人の女性がバイオリンとギターで奏でる音楽を聞き,川辺のベンチで休憩した.
エゴン・シーレの美術館に入る.名前は全く知らなかった.ウィーンで活躍した画家で,母親がこのチェスキークロムロフの生まれらしい.28歳の若さで亡くなっており,作品数は少なかったが,ペンションに帰ってから部屋に飾ってある絵が彼の絵であることに気がついた.部屋でもう一度眺めてみると,独特で,なかなかいい絵だと思った.
夜中に正さんの携帯が鳴ってもめる.安眠妨害の上,謝りもしないなんて.携帯を私の荷物の中に隠してから再びベッドにもぐり込む.
 9月29日(火)晴れのち曇り
朝,携帯を隠したまま昼食用のパンを買いに一人で街に出るが,パンを売っているようなお店は一軒もなかった.私が外出している間に正さんは携帯を見つけた様子.謝ってきたので矛を納めることにした.
タクシーを呼んでもらって駅に着くと,来た時には気づかなかった小さなレストランを駅の真横に見つけた.サンドイッチはないと言われたが,安くて美味しいチェコ料理にここではじめて巡り合えた.ステーキや野菜たっぷりのスープにクネドリーキというチェコの蒸しパンが添えられている.
来た時と同じチェスケー・ブディエヨビツェまで戻り,乗り換えて東に進む.コンパートメントの列車が長距離用らしい.今回は私たちのコンパートメントには誰も入って来なかった.検札に来た車掌が私たちの切符をいやに時間をかけて見たあと「途中の駅からバスに乗れ」と言う.なぜだろう.「その方が早いからなの?」と聞いてもよくわからない.せっかく乗った列車を動きたくない.「バスの切符を買わなきゃ」と言っても「いやいやこの切符で大丈夫」そして「降りる前に教えに来てあげる」と言う.ほんとうに「次の駅だから」とわざわざ言いに来てくれた.とても親切な車掌さん.ところが降りてみると,この列車の乗客はみんなバスに乗り換えてコステレツまで行くのだった.なぜだか列車が動いていないらしい.バスの乗り場まで係員が誘導してくれ,バスの車掌もわざわざ次の駅で降りるようにと私たちの所まで言いに来てくれた.何人かは降りたが,大半はそのままバスに乗って行った.

ブディエヨビツェ門 
  つづく