ピーターラビットの里
Bownessからフェリーで湖を対岸のFar Sawreyに渡る.ほんの5分かそこいらの渡しだった.石垣や木立で囲われた牧場には真っ白な羊が点々と寝そべっているのが見える.ここがピーターラビットの作者ベアトリクス ポターが過ごした村だ.実際に石垣のそばに立ってみると思ったより石垣は高く,辺りを見渡せない.石垣や生垣で囲われた道は牧場の中をうねうねと高くなり低くなりして続いていた.湖の前の草地では子羊が跳ね,小道を下ったところに古い農家と物置小屋がぽつんと建っていて,B&Bの札が下がっていたりといった平和な景色が連なっている.
 
グラスミア
ワーズワースが愛した地Grasmereではかつての貴族の屋敷,マナーハウスWhite Moss Houseに泊まった.コテージを自由に使っても良いと鍵を渡される.木の門を開けて車を中に入れ,コテージの鍵をあけた.下の階に朝食用のテーブルがセットされ,居間にはりっぱな食器棚が並んでいる.ベッドルームは2階で,女王や貴族が寝るような天蓋つきのりっぱなベッドがある.小高いところにあるので,木立を通して,下の方にグラスミア湖を望むことができる.7時半には客間でワインが振舞われ,宿泊客があちこちに座って談笑している.しばらくして準備が整ったからとテーブルに案内され,フルコースのご馳走が始まった.Grasmere湖のほとりにはワーズワースが泊まっていたというDove Cottageがある.
ヘイドリアンズウォールHadrian’s Wall
ローマ時代,北方のスコットランド民族の侵入を防ぐために造られた城壁の一部が残っている.景色はますます荒涼としてきた.黄色いGroceの茂みも多く目にするようになった.城壁の西の端,城壁の上がウォーキングコースになっているのだが,ここも口蹄疫のため立ち入り禁止になっていた.外にいた村の人に尋ねて,車でもっと間近に城壁が見える所を教えてもらった.城壁は荒野の中に延々と続いてまだしっかりと残っていた.荒涼とした風景はいかにもスコットランドをその端から眺めているという気分にさせてくれる.しかし,この石垣は,そう,この辺りの牧場の囲いとほとんど変わらない.昔から岩の多い土地なのだろう.牧場に整備して,その時に出た岩を囲いに使っているのに違いない.


スコットランド
Newton Stewartで小さなホテルを見つけることができた.この町もこのホテルもいかにもスコットランドという感じでとても楽しい所であった.ホテルの1階がレストランとパブになっている.レストランは一杯で,私たちはパブの横の部屋で食事をした.ガラス戸で仕切られた向こうにカウンターがあって,パブのお客さんとカウンター越しに向かい合う形になっている.パブで盛り上がっているお客さんたちの笑い声や歌声が聞こえてくるので,正さんは向こうに行きたくてそわそわしている.ひげを生やしたおじさんと目が合ったら向こうから手を振って合図を送ってくる.食事をそこそこに済ませて3人でパブの方に入っていくと,さらに盛り上がった.スコットランドはいいところだから好きだと言ったら,イエーイ!スコットランド!とかいう感じで大騒ぎになり,ひげのおじさんにキスされてしまった.肩を組んで歌ったり,正しさんのカメラの前でキスをするカップルもいて,陽気で人なつこいスコットランド人に感激.
朝早く起きて,食事前にNewton Stewartの町を一回りした.とっても興味深い,おもしろい町だった.
イギリス紳士
StranraerからフェリーでBelfastに向かう.恵子さんの友人のクック先生が妹さんのご主人クレメンツさんと一緒にBelfastの港で待っていてくださった.今日はBelfastでマラソン大会が開かれているので,一方通行など交通規制されていて,随分通りにくいらしい.クック先生は私達の車に乗り込み,クレメンツさんの車の後を付いて行く.2人でBelfastの主な所を次々に案内して回ってくださる.Queens大学,ボタニックガーデンのパームハウス,裁判所,大聖堂,シティーホール.2人共かなりの年配で,チャーリー,ジム,とか呼び合い,冗談を言いながら,先頭立ってずんずん行く様はいくぶん滑稽にさえ見える.クック先生は太目の体格で,漫画に出てくるイギリス紳士の風貌だ.私たちが昼食がまだだときいて,店を決める時も,2人で中まで入っていってから,ここはうるさいからだめだとか,この店のメニューはもうひとつだとか,私達の意見を聞くこともせずに出てくる.あちこち歩き回って,お腹もすいてすっかりくたびれてしまった.クック先生は私たちの北アイルランドでの滞在をすっかり仕切ってくださるようである.
ウイスキー工場見学
まず始めに案内してもらったのがBushmillsのウイスキー工場だった.ツアー見学の時間を聞いて,予約を入れ,みやげもの売場でどのウイスキーセットがみやげに手頃かまるでガイドのように私たちに勧め,私達が見学している間はティールームで待っていてくださるという.私たちだけでは訪ねることもできないであろう,ありがたいが,あっけにとられる北アイルランド2日目観光の始まりだった.見学ツアーは14,5人だろうか.仕込み,醗酵から,ねかせ,蒸留と見て回る.驚いたのは,区切り区切りで説明者が何か質問はないかと訊ねると必ず何人もの人たちから,酵母はどこからのものなのか等いろいろ質問がでてくることだ.説明する人も熱心に聞いてもらえて嬉しいだろう.最後にウイスキーの試飲があった.私はウイスキーは飲めないからクック先生に飲んでもらおうとすると,彼はそれをアイリッシュコーヒーにするよう交渉してくださった.
イングリッシュディナー
夕食はクレメンツさんのところでご馳走になる.ディナーをよばれるほどの着替えなど用意してきていない.せめて泥の付いていないものに着替えて行ったが,りっぱなお家で,すごいおもてなしだった.テラスでお酒をいただく.食卓には真っ白なレースのテーブルクロスが敷かれ,ナフキンも使うのがためらわれる程の白さだ.そしてスープから始まってフルコースのご馳走が次々に出てくる.肉料理,温野菜,サラダ,ケーキ,各種チーズ,フルーツ,ご夫婦2人で台所と食卓を行ったり来たりしながら,一人づつ運んで下さる.当然と言えば当然なのだけれど,奥さんのフォークとナイフの使い方はとても上手だ.人参を切った後,フォークを横に刺し直して,その上に小さい野菜を載せて,背中をまっすぐ伸ばしたまま,こぼしそうになることなど全然なく,口にもっていかれる.感心してその手つきにみとれてしまった.お腹一杯になったが,自分で取ったものはとやっと平らげると,クレメンツの奥さんがGood Appetiteと言って誉めてくださった.そして最後がアイリッシュコーヒー.ウイスキーの入ったコーヒーの上に真っ白なクリームが乗っている.暖かいコーヒーの上に冷たいクリーム,この褐色と白がくっきりと分かれているのが正しいアイリッシュコーヒーの入れ方なのだそうだ.

ジャパニーズディナー
昨日はイングリッシュディナーだったので,翌日はジャパニーズディナーの日だということになった.初めからわかっていればもっと準備してきたのに.クック先生は豆腐が大好きなのだけれど,残念ながら豆腐を持ってくることはできないので,代わりに高野豆腐を持ってきている.恵子さんは散らし寿司の素と米を持ってきたという.クレメンツさんの奥さんとスーパーに行き,正さんのアイデアで,かれいの煮付け,ますの塩焼き,なすの生姜いためを作ることにした.正さんがキャンプの腕前を発揮してごはんを炊き,だし醤油に塩を足して魚の味付けをし,生八橋を食後のデザートに何とかジャパニーズディナーが出来上がった.
ジャイアントコーズウエイ
巨人の石道Giant’s Cawsewayをめざす.スコットランドとの間の,ノース海峡に面した海岸はとても美しかった. Giant’s Cawsewayは火山の溶岩でできていて,割れる時にあのように規則正しい形になるそうだ.溶岩が結晶しながら固まったのだろうか.
海辺の小高い所にワゴン車が一台止まっていた.犬を連れた一人の画家がそこからの景色を絵に描いていた.車の中にも外にも絵が沢山並べられていて,彼は描いた絵を観光客に売っているのだった.クック先生はこの画家とすぐに友達になっておしゃべりがはずんでいた.もう少し先に行った所に店があってそこでこの画家の奥さんが作っているミンスパイがおいしいから是非食べていけというようなことだった.アイスクリームがそばに付いていてとてもおいしいパイであった.
ノーザンアイランドの海辺
Portrushの海辺には広い丘に白い花が一面に咲き乱れていてとても美しい景色だ.岩場を通りかかると子供たちが大勢いる.手に網などを持って,かにや貝を取っている.付き添いの先生の姿も見えた.クラブの課外活動のようである.こんなに気持ちのいい所で自然に接しながら勉強できるなんて何てすばらしいことなのだろう.ぞろぞろ行く子供たちの後を,海辺の科学館のような建物の中までついて入った.今採ってきた海の生き物を水槽の中に移して,先生は子供たちに話し始めた.どの子も元気良く生き生きしていて楽しそうだった.
イギリスのコーヒー
昼食を取りながら,イギリスの紅茶はおいしいけれどコーヒーはもうひとつだという話しになった.するとその直後,クック先生はその店の店員の所まで行って,何か話している.コーヒー豆を見せてもらったり,どうやらコーヒーの味の話をしている様子だ.豆はいいけれど,入れ方が悪いという結論になった.確かに紅茶を入れるようにしてコーヒーを押し込んで注いでいたら,コーヒーが濁ってしまって美味しくない.しかし,クック先生の好奇心と行動力には感心してしまった.
それから,アフリカ出身のアーチストの絵画が飾られていた喫茶室で,ウガンダの牧師さんと,ウガンダに学校を建ててそれを維持していく活動をしているイギリス人のご夫婦に紹介された.それから元神戸学院大学教授の家に案内してもらった.目が丸くてかわいらしいが,頬まで髯が伸びていかにも教授という感じがする方だ.奥さんは和歌山出身の日本人で息子さんが一人いる.最近の日本人には批判的で,礼儀知らずの日本人とは付き合いたくないそうだ.ご主人が日本語が達者なので「私の英語が上達しない」と奥さんは言われた.
それにしても,クック先生は顔が広くて,人と人をうまく繋ぎ合わされる.好奇心旺盛で,人なつこく,おしゃべり好きで,何となくユーモラス,それがクック先生の印象だ.
2001年5月
イギリス-2