2005年6月
フランス-3 |
|
6月15日(水) ベルドン峡谷,晴れ
6時20分起床.いい天気なので,やっとベルドン峡谷に行くことになった.一般道でゆりを送っていく途中のこと,遠くの山に雲がかかっていると見る間に車はその雲の中に突入した.一面の霧で車の周囲数メートルのあたりしか見えない.昨日降った雨のせいだろうか.しかし,マノスクまで来た時にはもうすっかり晴れていた.グレオーで止まってガソリンを入れ,トイレを借りた.トイレの鍵を渡してくれる.
サントマーチンドブローメまで来た時,古い教会と美しい村が見えたので止まって写真を撮っているうちに,正さんが道端のおじさんと友達になったらしい.庭に招き入れてさくらんぼを取ってくれた.橙色のおいしいさくらんぼだ.片言のフランス語で日本から来たとか言っていると,こちらの木のさくらんぼの方が美味しいからと私たちを奥に連れて行く.下の枝は食べてしまったのだと傘の柄のような道具で上の枝を引き寄せて取ってくれる.こちらは赤黒くて大粒のアメリカンチェリーの種類だ.どちらもとても美味しい.家の中に向かってボンジュールと呼びかけると,彼のお兄さんが出てきた.彼は木工師で仕事場を見せてくれる.木屑が一杯散らかった中で窓枠を作っていた.正さんが必死で写真を撮り始める.おじさんの方はまた,長い柄の付いた道具を持って来て見せ,それからそれで窓の回りのくもの巣をとってから,わっはっはと陽気に笑った.二階のベランダに連れて行って,ここからだと隣の教会がきれいに見えるから写真を撮れと言う.お母さんの写真を見せるというので付いて行くと,白黒の美しい女性の写真だった.彼が描いた絵も飾ってある.どこを描いたのかと聞くと,想像,イマジナシオンだということだった.さらに,奥に呼んでパスティスまでご馳走してくれようとするので,車を運転するからとお酒だけは断って出てきた.後日,このおじさんから手紙が来た.フランス人らしいというべきか,哲学的な難しい内容の手紙だった. |

ゴルドGordes

サントマーチンドブローメSt Martin-de-Bromes
|

 ムスティエMoustievs Ste Maris |
やがて険しい剥き出しの山裾に美しい村,ムスティエMoustievs Ste Marisが見えてきた.観光地のようだが,落ち着いた感じがする.山の高い所に教会が見える.村の通りに見え隠れする教会に惹かれて登っていく.最後には,滑りそうなほど丸くなった石の敷き詰められた階段を登る.息切れがするくらいだが,結構年配の人が上から降りてくるのに励まされて頂上の教会まで登りつめた.明るい青空の中から急に薄暗い教会の中に足を踏み入れると,部屋の中は真っ暗で,正面の祭壇だけが蝋燭の明かりに浮き出るように照らされて厳かに見えた.
戸外にテーブルが並んだちょっと高級そうなレストランに入る.実はこのレストランしか見つからなかったのだが,25ユーロのコース料理を注文.メニューの説明は長かったので,辞書を引く手間を省いて,前菜,メイン,デザートのそれぞれ2種類を全部頼んだ.周りの観光客はこの村のホテルにでも泊まっているのか,みなテーブルの脇に冷やしたワインを置いてゆっくり食事を楽しんでいる.料理はとても美味しかったので,車でなかったら正さんもワインが飲みたかっただろう.目的のベルドン峡谷はまだなのに,さわやかな風に吹かれてゆっくりしてしまった.レストランの女主人は従業員にてきぱきと指示を出し,客にも話しかけて気配りをしている.料理を運んでくる男の子も礼儀正しいし,デザートを持ってきてくれた女性もやさしく話しかけてくれた.「中国人?」「いいえ,日本人です.エクスから来ました.娘がエクスに住んでいて働いています.」「お嬢さんはフランス人と結婚しているの」「いいえ,日本人と結婚しています」「ああ,それもいいことね」たわいのない会話だけどフランス語で話せたので嬉しかった. |

 |
人工の青い美しい湖クロワ湖Lac de Ste Croixを通り過ぎ,ベルドン峡谷Grand Canyon du Verdonを一周する.ヨーロッパ最大級の深さを誇る渓谷だ.
帰り道,正さんは車に慣れてきてちょっと飛ばし過ぎているように見えたが,これがトラブルの始まりだった.ちょっと右に寄り過ぎていると思っていたらバンと大きな音がして右側の敷石に当って道路中央に跳ね返り,対向車がなくて良かったのだがとても怖かった. |
6月16日(木) リュベロンの南の村キュキュロン,晴れ
8時半順調にゆりを送って行った後,エクスに帰ってマルシェに行く.山羊のチーズ(シェブレ),ホワイトアスパラ,白い玉ねぎ,そら豆,グリンピース,いんげん,パプリカ,もも,いちじく,子羊.
ソーセージをボイルし,くるみのバゲットとりんごで安い昼食を済ませた後,洗濯物をいっぱい干してから出発.
今日は近場に行くことにする.パーテュイPertuisからla Tour-d’Aigue,ぶどう畑を抜けてSt Martin de la Brasque,さらにすぐ隣の村la Motte d’Aiguesへ.プラタナスの幹が太い.山の上に登って行くように建ち並ぶ家並みは美しく,教会も見える.キュキュロンCucuronの向うは映画「愛と宿命の泉」のロケ地ボージーVauginesだ.
さっきから車が曲がる時にキュルキュルと音がするのに気づいていた.正さんも気になっていたらしく,チェックすることにする.私が乗って正さんが後から見る.今度は正さんがバックするのを私が前から見る.右のタイヤが何となく変だ.調べてみると前右のタイヤの一部がこぶができたように膨らんでいる.心配なのでキュキュロンで小さなガソリンスタンドに立ち寄ると,都合のいいことにすぐ奥が修理工場になっていた.フランス語しか通じないが何とか調べてもらう.修理工のおじさんはタイヤを見て「カセ」と言った.やっぱり壊れているのだ.昨日の敷石事故のせいに違いない.スペアタイヤを見てから車のタイヤを指差して「グホン」大きいと言っている.「ネ...パ」と聞こえたところからするとここでは直せないのだろう.全く困ってしまったが,やがて道具を持って来てジャッキで車を上げ始めた.とりあえずスペアタイヤと取り替えてくれるらしい様子にほっと胸を撫で下ろした.見ると正さんは余裕そうに修理しているおじさんの写真を撮ったりしている.何て調子のいいヤツ!おじさんはスペアタイヤの巾が狭いので,80km以上は出せないと説明してくれていた.「C’est combien?」と聞くと2ユーロだと言う.コインを受け取ったおじさんの手はまっ黒だった.ありがとう.ありがとう.メルシー.ほんとに助かったわ.
ボージーには寄らないで帰る.80km以上は出せないので,高速は止めて一般道をエクスの表示に従って行くことにした.が,ラウンドアバウトを1つ越えたところで突然エクスの表示が消えてしまった.エクスへ通じる道が無い.ラウンドアバウトをもう一回りして再び現れたエクスの表示は,何と今来た道を示している.きっと工事か何かで一般道路の一部が閉鎖されているのに表示が訂正されていないのだろう.仕方なくその道を引き返して,高速道路に入り直し,「できるだけゆっくり走ってね」と何度も念を押しながら帰った.
|

プラタナス

St Martin de la Brasque


キュキュロンCucuron |
 ミラボー通りの噴水

|
6月17日(金) リュベロンのレストランでBさんと夕食,晴れ
9時にハーツから電話がかかってくることになっていたので,ゆりは7時10分のバスに乗ってキャデラッシュに行く.8時半にハーツから電話がかかってきた.Your car is waiting at the airport.マルセイユ空港で車を取り替えてくれるらしい.空港まで約30分,帰国時の練習ができた.車は,黒のディーゼル車のメルセデスから今度は紫色のプジョーになった.
午後,ミラボー通りのインフォーメーションへマルセイユ行きのバスの時間を聞きに行く.ミラボー通りを西の端から東の端まで歩いてみて,それがルイタリーとは馴染みのパン屋さんで交差していることに始めて気づく.マルセイユの石鹸を売っているお店も聞きたい.おみやげの石鹸をまだ買っていなくてあせっていた.ところが,インフォーメーションの職員の返事はマルセイユ行きのバスは5分毎,マルセイユの石鹸はどこの店でもどこのスーパーでも売っているというものだった.マルセイユの石鹸を専門に取り扱っている店があるはずなのに.さらに,バス停まで自分で時間を確認に行くと,マルセイユ行きは月~土は10分毎,日曜日は20分毎.5分毎というのはラッシュアワーだけじゃないですか.何て不親切な対応.本屋へ入ったが目的の写真集が見つからない.おみやげのワインも,正さんはゆりに一緒に行ってもらいたがる.ゆりに頼らなければならないことばかり貯まってしまった.アパートに戻って足を伸ばしていると,昨日まで毎日よく遊びまわった疲れか,二人とも知らない間に眠ってしまった. |
夕方,5時半に出発して,ゆりを迎えにキャデラッシュへ.6時半,キャデラッシュのバスにミゲルの姿が見えた.いつもはこのバスでゆりも帰ってくるのだ.今日はBさんと夕食の約束で,リュベロンの素敵なレストランに連れて行ってもらうことになっている.約束の7時にBさんの家に着いた.彼は目ざとく私たちの車種が変った事を指摘した.5人でBさんの車で出発.2人の子どもたちは友人のところにお泊りで預かってもらっているそうだ.Bさんは彼が毎朝キャデラッシュへ通う美しい道,パスタ用の麦畑,ぶどう畑,リュベロンの村を通り抜けて私たちを案内してくださった.フランスでは小さな村にもとても素敵なレストランがあり,戸外の席が予約してあった.日が暮れて涼しくなったいい雰囲気の中で食事は始まった.Bさんがメニューの説明をしてくださる.ズッキーニの花に貝で作った真っ白なパテを詰めて黄色いソースをかけた前菜が見た目も美しく,ワインもとても美味しかった.食事は適量で,満腹,満足.お勘定はスマートにわりかん.ワインを飲んだのにBさんは車を運転して帰る.すっかり暗くなっていたが,今日は金曜日の夜,戸外でペタンクを楽しんでいる人々を見かけた. |
6月18日(土) 夏至の夜のコンサート,晴れ
昨日アパートに帰ったのが12時半だったので,さすがに朝目が覚めたら8時半だった.マルシェで買い物をする.正さんが無鉄砲に高い魚を一匹買った.キログラム当りの値段だったのでいくらになるかわからないのにOKし,75ユーロ,1万円弱と聞いてゆりと二人でぎょっとする.店の人の反応もびっくり,うれしいと興奮気味.きっと魚好きの日本人とマルシェの間で有名になったに違いない.「お父さんはどうかしてしまったのだ」とゆりと二人で言いあった.
ミラボー通りでやっとマルセイユの石鹸を見つけて買い込んだ.おみやげのワインも6本も買う.正さんが持つのだからいいけど,重いよ.その時広場に結婚式の馬車が到着した.ワインはゆりにまかせて二人ともカメラを持って花嫁を追いかけた.花嫁の友人がオープンカーで乗り付けて,市庁舎前の広場で踊り始める.周囲で見ていた人々も巻き込んで一緒に踊った後,一行は市庁舎に入って行った.最近のフランスではキリスト教信者も減ってきて,結婚式も教会より市庁舎で行なう方が多いらしい. |
 |
夕食にミゲルがやって来た.食前酒にポートワインを持ってきてくれる.塩焼きした例の高級魚を,塩味だけで魚がこんなにも美味しいのは驚きだとミゲルは絶賛しながらぱくぱく食べてくれた.食後,彼は持参のメロンを2つ割りにして種を取り除き,そこにポートワインを流し込んだ.メロンのオレンジ色とポートワインの濃い赤紫色,そしてその味がぴったりマッチしていて素敵なデザートだった.
4人揃って9時過ぎに出かける.6月20日は夏至で今日はその前の土曜日.近くの公園で無料の野外コンサートが催されるのだ.エクスの町の外周道路を南へ越えた所にPark Jurdanという,英語とフランス語で公園公園と重ねた変な名前の公園がある.階段にはすでに大勢の人が座ってコンサートの開始を待っていた.やがてオーケストラの演奏が始まった.ロッシーニだ.昼間はとても暑かったが夜は涼しくて気持ちがいい.静かで,ひんやりした,いい雰囲気の中,美しい音楽が流れていく.アンコールはラデッキーマーチ,闘牛士の歌.楽団の人がみんなでトーレアドールララララララと歌う.聴衆もみな手拍子.立ち上がって拍手.拍手. |
6月19日(日) マルセイユ,晴れ
最後の日になった.ゆりも一緒にバスでマルセイユに行く.日曜日だったが,港では魚市も少し出ていた.いろんな魚の他,飾りにするためのタツノオトシゴやヒトデや貝を売っている.深く入り込んだ港には沢山の船が係留されている.それらの船とその向うに見えるマルセイユの建物,港町独特の景色を眺めながら船でイフ島に渡り,イフ城を見学する.船にはもっと先の島のビーチでレジャーを楽しむ子ども連れや若者も乗っている.船からノートルダム聖堂も見えた.
昼食にブイヤベースを食べた後,タクシーでノートルダム聖堂Basilique Notre Dame de la Gardeに行く.急な坂を登り,タクシーは一番高いところまで登ってくれた.聖堂からはマルセイユの町と地中海が一望できた.帰りはツアートレインバスでポートまで帰る.太陽がきつく照りつけてとても暑い.まさに焼かれていると感じながらエクス行きのバス停までの道を歩いた.
エクスに帰ってから,サントビクトワールの麓にあるデニスの別荘に行く.デニスとワサンタが笑顔で迎えてくれた.ワサンタはインドから踊りを披露するために来ている.デニスは彼のパフォーマンスのマネージャーであり,英語の教師であり,ワサンタはデニスをサポートしながら生活を共にしている.来年はフランスの大学に通うそうだ.
庭には小さなさくらんぼの木,オリーブ,柿,プラム,もも,いちじく,レモンが植えてあってどれにも小さい実が付いている.デニスは一本一本ていねいに説明してくれた.家の横にガラスを張って温室を作り,レモンは冬にはそこに入れる,納屋にある古い農機具は始末する,といっても大型ゴミに出すのではなく,フリーマーケットに出すのだそうだ.60歳は過ぎていると思われるがデニスは活動家で,まだまだ沢山の夢と計画を持っている.「家の中から食卓に座ったままサントビクトワール山が目の前に見える.もうすぐ夕日が美しくなるよ」とデニスは言ったが,この日は残念ながら少し陰ったまま日は落ちた.米粒のようなパスタの入った冷たいスープ,ソーセージ,パテ,チーズ,パン,それから手作りあつあつのチェリーケーキ.ケーキの中には生のチェリーがたくさん入っていた.
帰ったら結構遅い時間になっていた.急いで片付けて寝る.明日は帰国だ. |


 ノートルダムドラギャルドバジリカ聖堂 |
|
 |