2004年4月
フランス-2


サントビクトワール


サントビクトワール
4月28日(水)
今日からゆりはお休み.敬二さんが来るのは夜である.部屋を落ち着いた感じにするために,絨毯の他にソファーも買いたいということで,FLYという店に行く.いろいろ座ってみて座り心地のいい,手頃な値段のものを選んだ.金曜日に配達してくれるそうだ.食器とおそろいの柄のキッチンセットなどが置いてある.かわいいちょうちょの飾りを見つけた.鮮やかな色のちょうちょが針金の上に花が咲いたように付いていて,揺らすとばねで羽がひらひらする.セコンビアン?C’est combian?おみやげ用と自分のために買った.
パエリエとサンドイッチを買って昼食にする.マルシェのパエリエは美味しかったが,米が硬くて炊けていないので,オーブンで暖め直した.「フランス人は米の炊き方を知らない.説明書にも15分炊くなんて書いてあるけど,そんなんじゃあ旨みのあるおいしいご飯が炊けるはずが無い」とゆりは文句を言った.
美味しいケーキ屋さんのケーキを食べてから,サントビクトワール山へ車ででかけた.セザンヌが好んで描いた山だ.Aixから見たサントビクトワール山が一番美しい.野には赤い花を付けた木々や黄色い草花がちょうど咲き始めたところで,その向うに真っ白なサントビクトワール山が見えた時には,「わぁ」と叫んでいた.道端に車を止めて,山に入るとローズマリーやタイムが自然に生えている.葉っぱをちぎって匂いを嗅いでみるとわかる.教えてもらって気が付くとそこにもここにも,ローズマリーもタイムもちょうど花の時期だ.草ではなく潅木なので,手ではちぎれない.ゆりがはさみとかごを用意していたので,いっぱい摘んだ.
サントビクトワール山の南側にまわると,山は険しい表情に変わった.登山口もある.夕方の陽の光を浴びて,山肌のくぼみはくっきりと濃い色になってきた.
夕方,敬二さんを空港へ迎えに行く.荷物はリュック1つだけなので,出てくるのも早い.「メルセデスでお出迎えとは恐れ入りました」と敬二さんは言った.それから,4人揃ってAixのおいしいレストランで遅い夕食をとった.

マルセイユ
4月29日(木)
朝,教会の鐘の音が聞こえる.8時少し前だ.いつもこの時間に聞こえてくる.ミサが始まる合図だろう.ゆりは起きているかな.戸が開いたので,おはようと言いながら中へ入ると二人はベッドの隅でまだ寝ていた.キッチンまで入ってから,「ドアの鍵くらい閉めて寝なさいよ」と私は言った.ミルクを温めたり,コーヒーを入れたり,パンを切ったり,ヨーグルトと杏じゃむを出したりしているうちに二人ともようやく起きてきた.正さんも降りてくる.
スーパーマーケットMONOPRIで牛乳,ヨーグルト,マッシュルーム,バゲットを買う.お買い物はもう大体慣れた.
今日はバスでマルセイユへ行くことにした.朝あまり明るくないと思っていたら,雨が降り出した.プロバンスでは珍しい雨だ.天気予報で雨マークが出ていても,いつもほんの一時しか降らないというのに.
マルセイユに着いたらもう昼だった.男二人揃ったので,嬉しそうに昼からワインを注文する.白ワインが美味しかったので,BANDOLと,名前をメモ帳に書き留める.オムレツはちょっと期待していたのだが,普通だった.フランスのオムレツは美味しいというイメージを何となく持っていたのだ.
歴史博物館Muse D’History en Marseillを見て回った後,電車でAixに帰る.マルセイユは大きな街で,ちょっぴりアフリカの匂いもする.地中海を渡ればアフリカ大陸だ.スペイン,イタリア,スイス,ドイツ,ルクセンブルグ,ベルギー,イギリス.フランスは実に多くの国と隣り合わせになっている.次回,お天気のいい時に又,マルセイユに来て,ノートルダム寺院とか,イフ島を周ろう.

アンスイ


アンスイ
4月30日(金)
朝,バゲットを買いに行くついでにカメラを持って,うろうろする.Aix-en-Provenceの写真をまともに撮っていないのに気が付いたのだ.人々はマルシェを開く準備をしていた.
朝食後,ソファーが来るので,ゆりが留守番することにして,後の3人で買い物に行く.たまねぎ,トマト,じゃがいも,いちご,木苺,そしてうさぎ.ゆりが敬二さんに是非食べさせたいと言ったからだ.今日も雨模様.
午後,雨が上がったのでリュベロンの南側の村,アンスイAnsouisに行く.ここも期待通り美しい村だった.
夜は大家さんのDenisを夕食に招待している.メインは魚のオーブン焼き.朝,マルシェで大きなちぬを買ったのだ.正さんが料理する.いか,なすのバター焼き,こうやどうふ,玉ねぎとわかめの味噌汁,炊き込みご飯.そして,白ワイン.ワインは正さんと敬二さんで買いに行ったのだけど,お店が忙しそうでよく聞けなかったらしい.Denisさんが味見をして,これは甘いから食前酒だ,料理には向かないと首をふった.それで急遽,正しさんがおみやげに買っていた白ワインを開けることにした.食事もおみやげに持ってきた舞扇も,大家さんはとてもよろこんでくれたようだった.大家さんは歌舞伎についてとても詳しい.私たちなんかとうてい太刀打ちできない.早代わりの着替えや,化粧をするところなど普通の人が立ち入れないような場所まで入れてもらって写真を撮ったという.下駄の鼻緒が切れて,手ぬぐいを裂く女形のなまめかしい仕草をとても上手にまねながら,ストーリーを話してくれた.小柄でおしゃべりなおじいさんだ.

カマルグ


カマルグ


サントメリードラメール
5月1日(土)
今日はゆりの希望でカマルグCamargue湿原地帯に行くことにした.自然保護地域に指定されている広大な湿地帯で,野生のフラミンゴがいるということでこの辺りでも有名な場所らしい.ゆりはラボの人からカマルグへは行ったかとよく聞かれるので一度は行ってみたいと思っていたらしい.今日はメーデーなので,お店が閉まっていることも警戒して,昨日の炊き込みご飯をおにぎりにし,バゲットとお茶を持って出かけることにした.
ほんとうに広い湿地帯だった.頭の上をフラミンゴが飛んで行く.長い首を真っ直ぐに伸ばして,長い足も足先までぴんと張り,羽だけをひらひらさせて飛んで行く様子は,バランスの悪いとんぼが飛んで行くようである.7,8羽群れになって飛んで行く.車を止めて,湿原を歩いた.水鳥の親が小さなひなを6羽従えて泳いでいく.お父さん鳥とお母さん鳥が3羽ずつめんどうを見ているようだった.ぐるっと湿地帯をまわった所で,池の縁をビーバーが泳いで行くのに出会った.初めてビーバーを見た.人間を少しも気にする様子も無く,目をつむって気持ちよさそうに泳いで行く.地面に上がって葦原をうろちょろしているビーバーも見かけたが,私たちに頓着無しに茂みに消えて行った.この湿地帯には私たちが気づかないだけで,もっといろいろな生き物が生息しているに違いない.野生の白い馬や,馬で観光している一団もみかけた.
湿地帯が海に続くところに,サントマリードラメールStes-Maries-de-la-Merの町があった.白い壁に屋根は赤く,場違いと感じるほど,町の雰囲気はとても明るい.お祭りのように人が道に溢れていて,一気ににぎやかな喧騒の中に飛び込んでしまった.この町の教会も屋根の上まで登れる.見渡すと,海,そして,反対側の町並みの向うには広大な湿原が広がっていた.
帰りはうまく高速に乗れたので,欲張ってサントビクトワール山まで足を延ばし,麓のぶどう畑を眺め,今度は一周してAixに帰った.ぶどうの木には若葉が元気良く芽吹いていた.

ラシオタ


ラシオタの町を望む


カシス


カシス




5月2日(日)
今日は地中海の海辺の町ラシオタLa ciotatへ向かう.マルセイユの南東にあたる.日曜日なので,昨日炊いたごはんにゆかりをまぶして,おにぎりにした.
ラシオタLa Ciotatは世界で始めて映画が上映されたところである.港には沢山の船が係留されていた.船室のあるもの,むき出しの椅子だけのもの,乗り心地よさそうに飾り付けられたもの,どれも海でレジャーを楽しむ持ち主の到着を待ち受けて,波に揺れていた.
さらに,地中海の町カシスCassisにも足を延ばす.敬二さんが地図を見てくれているので,今回のドライブは楽勝である.しかし,ラシオタからカシスへの山越えの道は地図にも載っていなくて迷ってしまった.途中で出会った人に尋ねたら,ホームパーティーの最中らしかったのに親切にも車で先導して,分かれ道まで案内してくれた.少し上気したおじさんの帰り道を気づかいながら私たちは感謝の言葉を言いあった.
カシスはラシオタよりもっとにぎやかな感じの港町であった.狭い路地にお店が並び,海岸に面したレストランの外で人々は飲んだり食べたりしていた.ランチタイムの終わり頃だったが,ムール貝とモッツァレラとトマトのサラダは残っていた.ワインが美味しかったので,店のおじさんにJe voudrais acheter le vin. Où, sil vous plait?このワインを買いたいけどどこで買えますか?と聞いたら,なんと私のフランス語が通じて,すぐにお店の場所を教えてくれた.真っ直ぐ行って,左に曲がって2メートル行って又左.残念ながらおじさんの返事は聞き取れなくて,ゆりが聞いてくれた.今度来る時にはもっとフランス語がわかるようになっていたい.カシスは美味しいワインで有名らしい.教えてもらったお店は閉まっていたので,開いていた酒屋でDenisさんにおみやげのワインを買った.今日は大家さんが私たちを夕食に招待してくれているのだ.
夜7時に大家さんの家を訪ねる.フランスでは大体が約束の時間よりも遅い目の集合になるらしいけれど,大家さんは例外的に時間にはきっちりしている.私たちが招待した時にも約束の時間に現れた.部屋に上がる階段は美しい木の手すりが付いている.部屋の暖炉には薪がくべてあって,ほんとうの火が燃えていた.オリーブの木を燃やすといい香りがするそうである.白いテーブルクロスの上にはローズマリーが飾られてあり,食器がすでにセットされていた.Denisさんが自分で漬けた食前酒が出てきた.少しハーブの香りがしてとても美味しい.白ぶどうのレーズンとナッツが置いてある.「今日の献立は,ムール貝のスープ,生かきのレモン添え」という風に大家さんは前もってメニューを説明してくれた.暖炉にまきもくべながら,一人で私たち4人をもてなしてくれる.パンも私には切ってくれて,後は皆さん同じようにどうぞという感じである.かきのお皿は殻付きのかきが返らない様にくぼみのある専用の皿であった.シースネールとあさりにはマヨネーズを付けていただく.今朝,市場で聞いたら,「昨日,日本人が大きな魚を買っていった.日本人は魚のことは良く知っているから一番いいのを買っていったよ」とお店の人が言っていたそうである.私たちが買ったちぬの話だ.次の料理は日本では食べられない,との前口上で出てきたのは,アンティチョークだった.市場で売っているのは見たが,食べるのは始めてである.塩味で柔らかく料理してあった.それから,山羊や牛の珍しそうなチーズ.どれも少しずつ味見させてもらった.最後に,美味しいケーキ屋さんのケーキとダサムティー.
緑色の食器棚があったので,「きれいですね」と言ったら,「ちょっと待って,これには長い話がある」のだと,片付けていた食器を奥まで運んでから,イタリアでこれを見つけてからどう交渉してどのように持って来て,どう色付けしたか,教えてくれた.元来おしゃべりの好きなおじいさんのようだ.隣の書斎も見せてもらって,Denisさんの書かれた本なども見せてもらってから,例の緑色の食器棚の前に並んでみんなで記念に写真を撮った.