免責同意書や確認書/誓約書類の免責項目否定の社会的の流れ


 次の内容におけるコメントは、あくまで私見であります。


 最近、いくつかの新聞報道などで、ダイビング業界でも、事故のときに事業者責任が免責されるとしている(そう主張している)、免責同意書や確認書、誓約書などの書類では、客の生命・身体の安全に対する責任の免責がさまざまな場面で否定されている実態が報道されるようになってきました。
 そのいくつかを紹介します。
 
○平成15年10月1日付け夕刊各紙など(10月2日付け一部朝刊にも掲載)で報道

 ファンダイバー水死事故でのインストラクター書類送検に関する事例

 この事例は、インストラクター(ガイド)1人と客のダイバー2人とのファンダイビング中に、インストラクターがダイバーたちを2人とも見失い、結果として1人が溺死体として発見された事例です。
 この事件を捜査していた警察は、インストラクターを業務上過失致死の疑いで書類送検しました。
 送検理由は注意監督義務違反で、水中でダイバーたちを見失って孤立させたこと、事前に緊急時の合図などを打ち合わせていなかった、そしてインストラクターは本来ダイバーを見失わないようにすべきなのに、漫然と監視して見失った。この結果、客のダイバーを死亡させたからだとされました
 インストラクターやガイドが水中でダイバーを見失うことは業務上の過失であり、その結果には法的責任が問われるということは、拙著(「ダイビングの事故・法的責任と問題」(杏林書院)、「ダイビング事故とリスクマネジメント」(大修館書店)、「新版 誰も教えてくれなかったダイビング安全マニュアル」(太田出版)、他)でも幾度も紹介しています。
 今年の事故でも、客のダイバーを見失って死亡させた事例は複数見られます。聞くところでは、それらは警察や海上保安庁が刑事事件として捜査を行なっているようです。
 よく見られる見失いの事例として、インストラクターやガイドが、水中で自分が何かを楽しむことを少しでも優先したとき、あるいは自分の役目の最優先事項が客の安全確保であることを忘れた瞬間に事故に至る原因となっているようです。
 いくつかの指導団体が、客に免責同意書や確認書、誓約書などに署名をさせれば自分の(及び使用者)責任が免責されると主張しているようですが、実際の社会ではどうなのか、よく考えてください。
 「海が好き」、「この仕事が好き」だけでは許されないのが、お金をもらうダイバー側の責任です。また、ダイビングの技量と安全対策の技術と意識レベルが低いままのプロ(ダイブマスターでもガイドでも)活動は、客と自分の一生に大きなリスクを背負うことになることを理解すべきです。

○平成15年10月29日付け夕刊各紙などで報道

 ラフティングツアーでの死亡事故で、業者が有罪判決を受けた事例

 これは、ゴムボートによる急流下り(ラフティング)中にボートが転覆して、乗客1人が死亡した事件の刑事裁判で、そのガイドとして乗客を指導・引率していた業者に有罪判決が出た事例です。
 判決では、ガイドが自分もラフティングを楽しみたいという思いをもって、自らの技術などを過信したことと、ガイドが最も重視すべきものとして「乗客の安全」を上げ、それを怠ったことをあげて、それを重大な過失と認定しました。
 このような司法の判断はダイビングの事件捜査の際の送検・起訴の判断基準ともなっています。
 自然相手のサービス産業においては「客の安全」が最重要事項であることは忘れてはなりません。

○平成15年10月30日付け朝刊各紙などで報道

 レース事故で主催者に、判決で賠償命令が出された事例

 これは、自動車のレース中に起きた事故で、後遺障害が残ったレーサーが、主催者とテレビ局に損害賠償を求めていた裁判の判決です。
 裁判所は、ドライバーが誓約書(内容は、競技参加に関連して起こった事故について、決して主催者らに損害賠償を請求せず、このことは事故が主催者または大会関係役員の手違いなどに起因した場合でも変わらないというもの)を大会組織委員会に提出していたことについて、これを提出しないとドライバーがレースに参加することができなかったことを認めた。しかし、この誓約書について、「同誓約書の効力を文字どおり認めた場合には、主催者は、ドライバーの安全への配慮を故意又は過失によって怠り、その結果、重大な結果を伴う事故が生じた場合でも、自動車レースによる経済的利益を取得しながら、責任は一切負わないという結果を容認することになり、著しく不当、不公平である。同誓約書のうち、主催者らの故意・過失にかかわらず損害賠償を請求できないとの部分は、社会的相当性を欠き公序良俗に反し無効である。」と規定しました。
 また「主催者ではない」と主張していたテレビ局についても、主催者であり、その従業員が大会組織委員会の組織委員となって重要事項の協議決定に関与でき、さらにこのレースに関する費用負担・収益配分にも預かっていたとして債務不履行責任を負うとしました。
 ダイビングの場合は、消費者契約法によって講習生やダイバーに対しての免責同意書は無効(違法文書)であることが分かると思いますが、サバチ洞窟事件(拙著「ダイビングの事故・法的責任と問題」参照)のように、客がプロレベルであっても刑事責任が認められていることから、今後、客がいかなる立場の者であっても、安全配慮義務を負う側の、つまりそのサービスの販売側には法的責任があることがさらに司法によって確認されたと思います。


 以上からも、ダイビングのプロとは、遊びの延長や、自分もついでにダイビングを楽しめるなどという軽い意識、また「海は自己責任だから」という言葉や免責同意書(及び、どのような形式を取ろうとも、サービス販売側を一方的に免責するような不当文書)に少しでもリスク管理を依存するような感覚を持つダイバーには不向きな職業(パートタイムや夏季の繁忙期のみのアルバイトでも)であるといえるのではないでしょうか。
 講習生や一般ダイバーなら、上記のような意識の人は、決してプロにはなって欲しくないのではないでしょうか。またこのような意識の人を、プロ活動ができる、と規定する基準を作って資格販売を行なっている業者には、その結果として資格を得た人が起こした事故の法的責任を共同して負わねばならないはずではないか、と考えることも、ごく自然なことではないかと思います。


平成15年11月3日

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