日本スポーツ法学会での発表レジメから

下記の内容は平成16年12月19日の第12回日本スポーツ法学会での発表のレジメからダイビングの部分を抜書きしたものです。


日本スポーツ法学会第12回大会自由研究
「商品スポーツ」の法的責任−水域・山域・空域を実効環境とする「商品スポーツ」における法的責任の研究−

商品スポーツの定義
 企業、グループないしは個人が、営利を目的として、室内や屋外におけるスポーツの体験や、その実行技能の習得過程をレジャー商品として販売する役務及びその周辺事業のこと。
 商品スポーツには、その技能の習得の結果を、その関係者が任意の民間資格として販売する事業も含む。
 このような自然環境下で行われる商品スポーツが内包する「致死性」に関わる情報開示及びその説明義務は、消費者の安全を確保するための不可欠の要素である。よって「致死性」リスクに関わる情報の説明責任は商品スポーツの債務を構成する重要な要素である。

特性
・自然環境下で実行されるスポーツは、必然的にある程度の「致死性」を内包する。
・商品スポーツは、冬山登山、山壁登山、大深度減圧潜水、地下水脈探検潜水、未整備地でのグライダー飛行などという、実行者が「致死性」を引き受けた上で行うことが社会通念となっている「冒険スポーツ」とは本質的に異なる。
・商品スポーツとは、販売業者によって「致死性」を排除されたことを前提(了解の下)に一般に販売され、その購入・実行者(消費者)は日常生活の中のレジャーの一環としてそれを楽しみ、そして「安全」にそれを終えることを当然の結果と期待した上で販売される。業者側はこの期待を前提にこれを販売する以上、消費者を危険から守るべき法的義務が存在する。

その種類
水域 スクーバ・ダイビング、ラフティング、カヌーなど(プライベートビーチなどでの遊泳などの専権付与−利用権−もこれに準ずる)
山域 散策登山など(専門的訓練の下に使用する登山用具の使用を伴わない)
空域 パラグライダー、ハングライダー、タンデムジャンプなど

商品スポーツの一般的共通問題
・事故発生時のリスクの度合いは死亡ないしは取り返しのつかない後遺障害である。
・安全で誰でもできるレジャースポーツとして販売されている。(同様の宣伝を行う業界マスコミも存在)
・業者側は、インストラクターなどの任意資格をあたかも公的性質を持っているかのような演出や印象付けを行って販売している。
・任意に作った資格販売の目的は営利である。
・人命に係る危険情報は、入り口情報程度の提供しかなされていない。(説明責任の無視乃至は軽視)
・事故の実態(業者側の問題など)の情報は隠蔽する。
・免責同意書などによって一方的な免責を要求する。
・消費者の自己責任のみを強調し、販売責任、認定責任など、商品に係わる事業者責任は無視することが多い。

商品スポーツにおける安全配慮義務
・判例から紹介

T 水域における商品スポーツ
■スクーバ・ダイビング スクーバ・ダイビングの実行環境とは、潜水器材の準備中、その器材を装備した上での、浜(ビーチ)やボートからの入水(エントリー)過程、移動中の水面、そして人類には生存できない特殊環境である水中である。
 現在、この分野の法的問題の研究が最も進んでいる。
■ラフティング ラフティングの実行環境とは、ボートを用いて下る河川である。
■カヌー カヌーの実行環境は河川・湖沼・海域などである。
■参考:プライベートビーチなどの利用権

 自然環境を実行環境とする商品スポーツの法的責任の問題は、それぞれ共通する要因が多く、またその研究は私が行っているダイビングにおけるものがもっとも進展していることから、ダイビングの事故問題から法的責任の共通項を検証・考察し、次にそれぞれの特性を見ていくものとする。

商品スポーツ事業における使用者責任
この業態で最も普及している事業形態は、ダイビング業界の業界構造がビジネスモデルとなっているが、この事業形態は、その業界特性から上下一体の事業と見ることができる。 
したがって最上位の事業者は、その指揮系統に属する下部の事業者の事業の結果に対して使用者責任を負うべきであると考えるのが自然である。

A スクーバ・ダイビング
商品スポーツ全体に共通するプロの法的義務二原則
・最高裁判例の紹介
ダイビングの人身事故の実態(国内のみ)
・分析データの紹介
安全配慮義務
・判例の紹介
免責同意書の有効性(商品スポーツ共通)
・判例の紹介
民事責任
民事判決に見る、各商品パターンの法的責任
講習におけるインストラクターの注意義務
インストラクターの常時監視義務の内容
技術レベルの異なるパーティでのインストラクターの責任
講習とファンダイビング混載のパーティ全体に対するメインインストラクターの責任
ツアーガイドの法的責任:潜水計画責任
ツアー引率者(ガイド)の法的責任:潜水計画責任の根拠
業者はバディシステムに責任転嫁できるか
ツアー主催者会社の法的責任
・以上各種判例の紹介
危険情報の説明責任
入り口情報と奥行き情報は不可分の一体
 ⇒説明義務違反は損害賠償責任が問われる
民事責任の構成(業者側の責任)
ダイビングビジネスの法的責任構成図
参考.事故者のバディの責任の考察
刑事責任
・4判例紹介
海難審判庁裁決と刑事判決の関係
・1例紹介
刑事責任の構成(業者側の責任)
消費者に提供されるべき情報の種類
法的責任の整理
説明責任の背景
履行補助者の責任 共同して責任を負うべき者の範囲
説明責任の認定例
・裁決紹介
説明義務と責任 情報開示と説明責任
危険(リスク)情報の説明責任を果さなかった場合、それは事故の原因となりうる。 
特別の危険性は事前に警告する義務がある。
一般的説明だけでは安全確保義務を免れるものにはならない
⇒説明義務違反には賠償責任が問われる
説明義務・責任と債務の関係
・危険情報の開示義務、説明責任は、商品スポーツの一部を構成する債務である。
(以上、関係判例紹介の上)

商品スポーツ全般の責任論
商品スポーツの法的問題の考察
商品スポーツ事業者に求められる責任の整理
・商品スポーツの製造(企画・計画)者責任
・同販売責任
・同履行責任
・危険の予見・注意義務とその回避義務
・危険情報の説明責任


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 平成16年12月20日