東京大学で行われたダイバーの実技講習


 去る7月26日、東京大学構内のプールにおいて、学生などを対象にしたダイビング実技講習が行われました。
 私は東京大学のご好意によってこの現場を見学させていただきました。

 これは調査潜水をする(レクリエーションダイビングも同じ)ダイバーたちの潜水技量の向上を実際的な講習を通じて計り、事故を未然に防止することを目的として行われたものです。
 講習を行う指導者(インストラクター)はプロとして5000本をはるかに超える経験を持つ島田誠一氏(東京アクアラングサービス。過酷な作業ダイビングの経験も豊富に持つ)と、同じく山下 力氏(ダイビングスクール&ショップ デポ)の2人でした(氏名の公開にあたっては両者のご承認をいただいています)。
 今回は第一回目で、参加したダイバーは5人(男4人、女1人)でした。皆そのダイビングの経験本数にかかわらず意識の高いダイバーたちでした。もちろん泳げない人は一人もいませんでした。

 講習の内容は緻密で、14時から18時まで行われました。
 講習では、一つ一つの項目を行う前のブリーフィングで、島田氏より、@これから何をするのか A何のためにするのか Bその評価基準は何か ということが明確に語られ、各参加者も真摯にそれに聞き入っていました。そこには学ぶ姿勢というものが見られ、遊び半分のような参加者は一人もいませんでした。(しかしだからといって硬派の体育会の厳格性というものではなく、非常にリラックスした雰囲気でしたので誤解なきように。)

 一般のダイビングの講習では、経験の浅い(プロとして1000本程度の経験もなく、安全基準の厳しい作業潜水の経験もゼロという指導者も多い。その実態は通常講習生に知らされない。)インストラクターによって、いくつかの講習項目を消化したということをのみをノルマとしたような講習が少なくないことが、講習生にダイバーとして十分な技量が身につかないことの大きな原因となっているのですが、今回の講習は、指導者のレベルも本物の一流でしたし、受講した側も真摯であり、理想的な講習ではなかったかと思います。
 ※本数や作業ダイバーの経験があっても手抜きなどを行う指導者がいるので、これらだけを唯一のレベルの判断基準とすべきではない。経験の内容に加えて、安全に対する意識や日々の自助努力をどのようにしているか、その内容をも見るべきである。

最大水深2mを超えるプールでの講習の模様 自分が助けられる側になった時の泳ぎ方の講習を行う前のデモンストレーション

 この講習は、指導者の指示のもとに常に一人か二人が実際に行い、それを2人のインストラクターと他の参加者が見守るという形式でした。つまり実質的に指導者対講習生の1対1の人数比が確保されていました。
 この講習は、何を何のために、何が自分やバディの安全のためになるのか、という意識を正しく持つためにも大変有意義なものであったと思います。

 今回の講習を見て、全国の大学や研究施設で同様のことが継続的に行われて、研究者などが重大な事態に遭遇しないように(ダイビングには本質的な危険性があるので事故はゼロにはできないが、その発生確率を可能な限り下げるための努力はできる。その一つがこのようなことである。)なることを祈ってやみません。

 今後はこの意義深い講習を回数を重ねて行くことに加えて、リーダー養成のための実技講習、そして潜水計画の質的向上と潜水後の評価とリスクマネジメントのために、実際の事故の実態の研究とその回避方法などの研究にかかわる講座も広く行われていくようになることで、一般参加者のみでなく、リーダーとなる方々の質的向上をも達成し、そして潜水調査に携わる方々の安全の確保がなされるように希望するものです。またいつの日かその成果が一般ダイバーへと届いていくように望まれます。

■一般のダイバーの方が、このような優秀なインストラクターと、自ら出会うための活動や調査をせずに出会える確率は相当に低いと思われます。これまで自分の受けた講習の質を上級プロである第三者から正確に測ってもらって正しい技量を習得したいと希望する方は、ご自身で、プロとしての経験本数、作業潜水士としての過酷なプロ現場の経験に有無(ただ優秀なプロでもこの経験がない場合があると思います。)、その方が考える人数比(1対1が基本)などについて聞いてみてから選んだほうがいいと思います。質の低い指導者にしか出合っていないと、自分のダイビングの技量は低いままで終わる可能性があり、それはリスクを高めます(必ず危険に直面する訳ではありません。)。


平成18年8月17日

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