平成10年から19年に至るダイビング事故と安全宣伝の矛盾


 本資料をご自身の安全のための参考にしていただく以外に、このデータからの引用については、出展を明示していただければ可能ですが、転載する場合は事前に許可をとってください。なお状況によっては転載をお断りする場合もありますのでご了承をお願いいたします。


 ここに示す数値は、平成10年は海上保安庁のデータに限定し、それ以降は、海保のデータに加えて、全国の警察・消防などにスクーバダイビングの事故と記録された事例のうち、海保に届けられなかったものを加えたものです。
 また、潜水作業(素潜り、フーカー潜水、スクーバ式潜水土木工事、業務としての船舶の製造や保守、軍事目的、職業的漁業目的など)は統計から除いていますが、インストラクター自身、レジャー目的ではないが同じ手法を使っての潜水(学術調査、水中の落し物を拾ったりなどの個人的目的の潜水、軍事訓練や海保の潜水士訓練を経たものではなく、一般のレジャー用のインストラクターの指導程度の訓練を受けた警官による、大深度ではない水中捜索程度のレベル)の事故は含めております。つまり、特に高い訓練を受けた人を除く一般(及び同等のレベル)の人々が、前述の作業潜水以外に行うダイビングの事故者は含めています。また日本領海内で事故に遭った外国籍のダイバーの事故も含めています。
 私の発表する数値は、海保の発表数より、平均して人数で数十パーセント多いですが、これは海保以外の機関がダイビングの事故として公的に記録していても、それを届けなかったケースが少なからず見られるからで、これは決して海保の責任ではありません。これを踏まえてこのデータを見てください。

1.最近10年間の、記録された限りにおいての事故者数
  ※死亡・行方不明者数はそれほど海保データと変わりはないですが、調査の経験から、他にこれより相当多くの方々が事故に遭っているように推定されます。


 ※平成10年は、海保データのみ。

2.最近10年間の、記録された限りの死亡・行方不明者数(国内のみ)


 ※平成10年は、海保データのみ。

3.5年区切りで見た、平成10年から19年の10年間の事故から見えるリスク

 (a)死亡・行方不明者数(※平成10年は海保データを使用)

平成10年から14年 106人
平成15年から19年 107人

 

コメント:業界による安全宣伝は盛んに行われているようであるが、5年単位での実際の状況を見ると、二つの5年間レンジの死亡・行方不明者数は変わってない。この間の不況下で、ダイバー数やダイビング実行数は前の方の5年間より減っているとみられることから、それを踏まえて見れば、実質的にダイビングの致死性は高まっていると見るべきである。そして事故の背景を見ていて導かれる思いは、現在のダイビングビジネスモデルの制度疲労である。致死的リスクが高めるほどの制度疲労である。これ以上、このビジネスモデルのままで利益を追求するシステムやそれに依拠した人々の個人的幸福の追求が維持拡大し続けることは、いかに表面上立派な、あるいは公的風な組織や制度を作ってW立派さ”を演出し、さらに行政を取り込み、また業界ぐるみできれいな宣伝を行っても、きれいな言葉では表現しにくいほどの、極めて深刻な社会的問題性を感じのである。このビジネスモデルの中で、表に出ただけでも少なからずある、全国で出されている業者側への有罪判決、そしてそれよりも多い、民事での賠償責任を認める判決、さらにこれも少なからずある、業者側に賠償責任を負わせる条件で提案される、裁判所からの和解勧告。こういった事実があってすら、どうして、業界マスコミでも一般マスコミでも、この深刻さを社会に対して秘匿することになるこの本質的な背景と問題について語らないのであろうか?

 (b)事故者総数(※平成10年は海保データを使用)

平成10年から14年 250人
平成15年から19年 373人

 

 

コメント:5年単位見ると総事故者数が250人から373人と激増している。実に149%の伸びである。この間の日本は不況下で、ダイバー数やダイビング実行数は減っていたとみられることから、実質的にダイビングの際の事故遭遇率は相当に高まっていると見るべきである。また生存者とされている中には、一定の割合で、後遺障害の程度によって、多少不便や苦痛を感じても社会生活をほぼ同程度のレベルでおくれる人から、人生がくるってしまう程の重度の後遺障害を負う人が少なからずいることを決して忘れてはならない。またそのような方々が、積極的に救済されることも、補償されることもなく、裁判などで、多額の費用と苦痛を負いながら、何人にもわたる交渉に人生を費やしている実態をも、決して忘れてはならない。

4.事故の事実から考えられること

 この現状でダイビングは安全と宣伝し続けるビジネスのあり方は、社会的に妥当な事業なのであろうか?そしてこの間、ダイバーが減って減収となりながらなぜか毎年増益となるビジネスモデルを展開している背景で、事故が継続して、発生確率を高めながら続いている状況はどうしてなのであろうか?どうして事故被害者やその遺族や家族は、十分とは言えない補償を得るために、何年も苦しみ続けなければならないのであろうか?

 そしてどうしてこのような状況を招いている現状に対して、業界マスコミだけに限らず一般マスコミまで鈍感を演じ続けるのであろうか? またこういった事態に対して、これは“ニュース性”がどうのこうのと語るジャーナリストの方々は、犠牲者を前に、『あなたの苦しみや悲しみや損害の程度は、それがあなたが生きていく上でどんなに苦しむ原因となっていたとしても、それは我々の商業報道に利益をもたらすネタではないので、社会的な必要性よりも、経済的価値から見て自分たちにもたらす利益が低いので、報道を通して社会に知らせる必要はないのだ。』と宣言していることになるのだが、どうしてこれほどの社会的損害の実態が、社会的に優位にある一方の利益を重要視した上での価値づけをされてしまうのでであろうか? これには“残念”というばかりか、“無念”という表現も当てはまるかもしれない。

5.メッセージ

 ダイビングの素晴らしさは、このホームページ全体を費やしても語りつくせないほどの感動をもたらしますが、そこには確実に致死的なリスクが存在しています。そのリスクが、あなたにかかってこないようにするには、あるいはかかってきても、せめて致死的にはならないようにするためには、ダイビングに必ず付帯する危険の存在を軽く見ず、有能かつ努力を欠かさない優良インストラクターや優良ショップで適切な訓練や指導を受けて、そこで適切なサポートや正しい潜水計画(危険に対する予備計画を複数立案できていることが不可欠)の下にダイビングを行い、その経験を持って、自己計画でのダイビングを行うことが不可欠と思われます。

 現在のビジネスモデルに順応しすぎることで利益を上げているショップやインストラクター、そしてその背景にある組織よりも、愚直に安全を直視しているプロダイバーをこそ、みんなで応援しましょう。彼らこそ、どんなきれいごとの組織や団体よりも、はるかにあなたの命を大切に思っている存在なのです。


平成20年7月21日

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