論文:「ダイビング事故に関わる人数比問題と民間規準の法的問題の研究」



掲載誌:日本スポーツ法学会年報第19号(2013年2月) ※この年報は学術誌のため発行部数が少ないため、必要な方は早めに学会事務局に申し込んで入手して下さい。


■この論文について

 この論文の主たる部分は、多発するダイビング事故の原因として最も多い部類に入る、初級・初心者に対するインストラクターの人数比の法的問題です。

 インストラクターの方は自分を守るために、事故に遭いたくない初級・初心者の方は自己防衛のために読んでいただけると有益だと思います。

 扱っている判例の中には、事故が起きたことを記した公式記録(警察の公式記録・海保の発表資料)では「生存」とされて助かったかのように扱われているダイバーが実は亡くなっており、それに対するインストラクターに刑事責任が問われた事例も入っています。

 この消えた死亡事故の問題は、実は大きな意味を持っています。
 海保や警察、ダイビング業界内団体や業界内雑誌などで「生存」として分類されていても、「実は死亡事故だった」という事例は他にもありますが、事故統計ではいつまでたっても「生存」とされ続け、そのダイバーの犠牲はなかったことになっています。これが、私が長年訴えてきている、業界が関与・認容する事故統計とそれに依存する記事・論文・宣伝が、危うい部分もあるという根拠がここにあるのです。
 現状では、「実は死亡事故だった」という事例はその身内と関係者以外には業界側しか知らない(捜査や裁判の際に相談を受けるので、まず知らないことはない。裁判資料を見ても、業界団体への問い合わせや証言証拠が見られる)と言ってもいいでしょう。
 そしてこういった事例を正しく広く開示することを望まない(であろう)業界(業界メディアを含みます)が、一般消費者(プロや冒険ダイバーではない、レクリエーションとしてダイビングを行う人々)に対して必要としている、ダイビングは誰でも安全にできて楽しく、ちょっとだけ用心、そしてその活動を許可したり資格(公的なものではない。私的なもの)を得るには自分たちの手が届く事業の範囲内であればこそそれが可能、というイメージの維持・浸透(一般メディアのほとんども、この観念に、時には宗教的な依存姿勢を見せているように見受けられます)策(イメージコントロール)は、「実は死亡事故だった」という事例がそのまま一般に知られないでいることで、ある意味情報の管理が見事に成功しているとも言えます。
 しかし、多くの一般消費者としてのダイバーや、またこれも事故で犠牲になった方々やその身内の方々の内の多くは、より真実に近い情報が開示されることを望まれていることと思います。自分が楽しむレクリエーション(レジャー)で死にたくない、あるいは重度の後遺障害受傷者となりたくないと願う人々にとっては特にです。また自分や身内の犠牲がすぐ忘れられたり隠され(時に隠蔽され)て、後の世に意味あるものとして残らないということは、多くが望まないことと思います。
 事故に遭った方々の犠牲を無駄にしないためにも、そして重要な情報に接する機会の少ないインストラクターの方々のためにも、好き嫌いは別としてこの情報を知っていく頃は、双方にとって有益だと思います。
 さらに、こういった事故防止のために日々努力している、現状ではごく僅かの優良業者の方々の姿勢が正しく社会に知られるためにも、この論文で紹介した内容が大切だと思います。


「ダイビング事故に関わる人数比問題と民間規準の法的問題の研究」


一 商品スポーツにおける人数比問題と民間規準の法的問題

二 近年の判決の根拠となっている最高裁の判断と、近年の刑事裁判判決例の考察

 1.最高裁の判断

  (1)常時監視義務を明示することで人数比の問題を示した「アドバンスコース講習死亡事件」

  (2)潜水計画自体に業務上の注意義務が存することを示した「サバチ洞窟事件」


 2.刑事判決事例

  (1)民間規準の問題 ―唐津事件―
     禁固1年。これにAは執行猶予4年、Bは3年。

  (2)人数比にかかわる民間規準の問題 ―洲本事件―
     禁固2年。執行猶予4年。

  (3)人数比規準1対1の問題 ―白浜事件―
     禁固2年、執行猶予4年

三 沖縄県の水上安全条例と施行規則にかかる人数比の問題

  (1)条例と施行規則

  (2)那覇地裁の判決
     禁錮1年6か月、執行猶予4年

四 結論
 


平成25年2月25日

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