コラム:見えざる契約


 「安全・安心」で「楽しい」という宣伝文句を良く見かけます。時には「とにかく安心」などという宣伝すらあります。しかしこういった言葉が使われても、特に「安全・安心」ということに対する納得できる根拠が示されていることはめったにないように感じます。
 「楽しい」というのは、人の感じ方によって異なるので、若くて元気なスタッフがいれば、そのプロとしての品質よりそのような資質に楽しさを感じる人がいるからそれでいいでしょうが、「安全・安心」という以上、そこに来た客とショップや「指導団体」の間には見えざる契約というものが生じるのではないでしょうか。そしてそのとき「安全・安心」の根拠を示さない以上、業者側がその結果を無条件で保証しているということになる契約であろうと思います。黙示の品質保証とでも言うものでしょうか。

 一般に消費者に対して提供される商品には、安全や安心に対する根拠が明示されるようにというのが、現在の社会の一般的な要請です。そういった社会情勢に反してまで、その根拠を示さないということがあった場合、それはいかがなものでしょう。
 安全や安心の根拠となるものには、ダイビングの講習という役務商品の場合には、ざっと考えただけでも次のようなものが考えられます。

 1.インストラクターのプロとしての経験とその技量の履歴
 2.人数比1対1の保証
 3.確実な講習時間の確保の保証(学科と実習)
 4.講習の内容とそこで得られる達成レベルの保証。また達成できなかったときの対応の内容。
 5.講習を行う場所(プールの場合はその設備状況、海洋の場合はその場所の状況→事故時の可能対処レベルの開示・・・適当なものではなく。)の情報の提供の保証
 6.リスク情報の具体的な開示(さまざまなレベルで柔軟かつ積極的に開示できるかどうか)
 7.料金の明細
 8.レンタル器材の状態

 ダイビングに関する役務商品に納得できる根拠も示さずに「安全・安心」と宣伝することは、ダイビングの事故の結果が死や重度後遺障害という結果に直結することからも、不適切なことではないかと思います。
 結局、誰もが客観的に納得できる根拠を示さずに「安全・安心」を宣伝する側には、真剣さや誠実さが欠けている場合が少なくないだろうということが考えられます。


平成20年2月5日

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