バリ島事故の問題を考える


バリ島での漂流事故のあと、最後に見つかってDNA鑑定を受けていたご遺体が、漂流して見つかっていなかった最後の方であったとの報道が先日ありました。

漂流された方々、及び亡くなられた方々には深い悲しみを表明させていただきます。

 

ここでは、今後の事故防止のために、悲しみとは別に今回の事故に関するいくつかの問題を考えてみます。

ただし、すべて報道を通じて得た知識からのものなので、もし事実を間違った認識の下に評論していたことが分かりましたら訂正させていただきますので、 ご指導をお願いいたします。

 

1.ダイビングツアー計画の問題

 このツアーは、上級者向けで行われたと聞きました。
 この場所では過去に事故が起きているとも聞いていますので、ドリフトダイビングというハイリスクのダイビングと、熱帯地方特有の天候のリスクを踏まえた 上で、予見し得る事故対策を入れた潜水計画を立てるべきでありました。しかし、どうもそれが十分だったとは見られません。
 まずダイバーですが、わずか100本(報道媒体によっては「100回」と、ダイビングに行った回数(1回行って数本潜る)のことなのか本数なのか、注釈もなく報道していました。しかし「本」で報道していたところもありましたので、ダイビング事故を扱う記事で「本」というダイバー用語を使う記事の方が信頼性が高いと思い、そちらを採用します)の 経験しかないダイバーすら、この上級者向けのドリフトダイビングポイントに、十分なフォロー体制もないまま(漂流した後のフォロー体制は存在していなかったと同義)連れて行った計画はずさんと言うべきでしょう。 ツアーを手配した沖縄の会社の社長が十分な経験のあるダイバーだったという内容の発言をしているテレビのニュースも見ましたが、これは問われるかもしれない責任を意識したものでは ないかと思います。
 100本でも、過酷なダイバーとしての訓練を受け、厳しいドリフトダイビングでの環境での訓練と経験を積んだ方ならこのような表現も適切と思いますが、事故に遭ったダイバー はそうではなかったのではないでしょうか。
 それと、当日の人数比の問題ですが、不十分な経験を持つダイバーを、漂流事故のリスクがあり、さらに熱帯特有の大雨などのリスクも加えて存在するところでのダイビング に連れていき、しかもプロ側と客側の人数比がマンツーマンでなかったことは、重大な問題だと思います。
 それと、このダイビングでは、経験、ダイビングの仕方、環境変化への対処方法の準備、人数比のリスクについて、死を含む警告となる事前説明を徹底して行っていたかどうかが分かりませんが、今現在までの情報 からでは、そのような安全にかかわる十分な警告は行ていなかったようです。
 そうであれば、ダイバーたちが、特に、命の危険があるダイビングのやり方へのリスクへの十分な理解があるかどうか不明なレベルの経験しかないダイバーたちが、このリスクを正しく理解して承知していたかどうかは分かりません。

 以上から、推定ではありますが、この事故の際の潜水計画は、注意義務履行が正しく十分にできるような適切なものではなかったと考えられます。

 

2.装備品の問題

 ダイビングのウェブマガジンにも書きました(「漂流事故で生き残るための一つの有力な方法を知る」→ウェブマガジン側はこのタイトルを変更して掲載しました「バリ島のダイビング漂流事故。早期救助されていた可能性を考える」)が、技術的には この事故は予防できたか、漂流しても早期発見できた可能性があったのが、を考えてみます。

 過去に起きた漂流事故事例や他の事故事例を知り、これらの事故対策のためにどんな手段や装備があるかを知り、そのうえでこれらの対策を準備していたら、この事故は、最初の 、船から発見できなかった時点近辺で解決できていた可能性が高いと思えます。そしてそれでも漂流したとしても、この対策器材(わずか数千円でBCのポケットに入る、数百グラムしかない装備)を用いれば、 レーダー捜索を手段として、早期に発見揚収されていた可能性が高かったと言えるでしょう。

 潜水計画にも含まれますが、事故を予見した装備計画がなっていなかったということのようです。

 

3.法的問題

 日本国内でこの事故が起きれば、刑事では業者側の注意義務違反の事実の有無が検討されるでしょう。
 もし注意義務違反が認められた場合には、罰金刑か、あるいは禁固刑(状況によっては執行猶予が付く)が問われる可能性があります。
 同じく国内での事故だったなら、民事では、一人当たり、生存者で数百万円から、死者の遺族からは億を超える損害賠償訴訟が起こされる可能性があり、そしてその請求が認められる確率も高いと言えるでしょう。
 なお、ツアーを手配した会社への損賠賠償訴訟も起きる、あるいはインストラクターへの訴訟と合わせて起こされる可能性があります。

 

4.報道側の問題

 多くの場合、報道の視点が大事な点からずれていました。少なくとも上記1〜3の視点を踏まえた報道はなかったようです。
 そのうえ、事故者の悲劇をネタ扱いにしたような記事もあり、そこでは緊急救助要請を切実に求める、海面で手を大きく振って救助を求める、という世界共通の緊急救助要請(これは初心者が 講習中の最初の方でいち早く叩き込まれる知識であり、ダイバーならだれでも知っている常識である)を、助かったダイバーたちへの「さよなら」だという表現をしていました。
 もしまともな取材をするか、現場から上がってきた記事の内容の是非を最終チェックして記事に載せる決済をする立場の方がまともにチャックしていたら、こんなむごい記事 (となる可能性のあること)にはならなかったと思います。すくなくとも、例えダイバーとは思えない(これは未確認ですが)遺族が、海面で大きく手を振っていたことを、「さよならだった ろう」と思ったとしても、ダイバーから見れば、最後まで見捨てないで助けてほしいという意思表示だったかもしれないという重要な要件は、必ず記事の中に入れておくべきだったでしょう。
 実は私はこの記事の問題を、その新聞社の知り合いの記者に知らせたところ、いちいちそんなことで自分に連絡してくるな、と叱られました。それ以前の誤報の可能性のある点についても、読者センターに連絡し直せ、とのことでした での連絡したのですが、有効な反応もなかったです。

 以上は、ダイビング事故に関する現在の報道機関のレベルです。
 私ごときが偉そうに言うのもなんですが、各社のレベルがこうですので、困ります。

 このような状況だから、一般の社会がダイビング事故の深刻さや、深刻な事故の背景には、人災の側面が強い(事前の計画の時点でのミスや装備品への評価のミス=不携帯など=などは人間の側の判断ミス)状況が知られず に事故だけが続いているのだと思います。

 

 バリ島の事故の背景には、人災とも言える重要な要因があったことを誰もが心に刻み、自分の判断ミスや思い込み、そして業者及び仲間の判断ミスや思い込みで重大な事故に遭わないよう、この事故を教訓に(本当は過去に膨大な 数の教訓となる事故が累々とあるのですが)、本当に注意してください。

 バリの事故は、単純なミスと手抜きから起きた側面が強いように思われるからです。

 


 平成26年4月16日
 

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