減圧症(潜水病)は病気?事故?


 レクリエーション(レジャー)・ダイビングを行なったことで起きる減圧症(潜水病)は、急激・偶然の原因に起因する事故の結果であるということは、ダイビングに関心がある人にとっては当然のこと思われますが、日本語の減圧症(潜水病)には、「症」「病」という字がついていることで、これを「病気」と誤解する人々がいます。
 実際に、作業ダイバーとして長年の経験があり、現在はレクリエーション・ダイビングのショップを経営しているベテラン・インストラクター(プロとしての経験が2000本未満の浅い経験ではなく、最低でもプロとして5000本以上の経験を積んでいる人を私はベテラン・インストラクターと呼ぶ)で、自らも重度の減圧症で何年も苦しんだことがある人も、今年の1月17日にこの話題が出たときに、「長年の(窒素)の蓄積がある作業ダイバーの減圧症は、ある種の”病気”と言えなくも無いが、レジャー・ダイバーの減圧症は、明らかに事故でしょう。」と語っていました。
 これは当然の認識だと思います。
 私が昨年まで話を聞いた他のベテラン・インストラクターの方も、同じように語っていました。
 では、他の方々や組織、また保険会社はどう認識しているのでしょうか。


  1. 日本の潜水医学の最高峰の研究を行なっている「日本高気圧環境医学界雑誌 2002 Vol. 37 No.2」(2002年6月)の論文の、[レジャーダイバーの潜水障害罹患割合]という論文の70ページでは、「調査した潜水障害は4項目で、その頻度は窒素酔いが最も多く(12.2%)、耳圧外傷(10.2%)、副鼻腔圧外傷(5.5%)、減圧症(1.9%)の順であった(表2)」とし、71ページにある表2 レジャーダイバーの潜水障害(1996〜2000, n=2688)でも、潜水障害として挙げた名称として、「窒素酔い」「耳圧外傷」「副鼻腔圧外傷」「減圧症」としています。この論文では「障害」として、「外傷」と「減圧症」を同一分類として扱っていることから、「減圧症」は医学的に見て、怪我と同類の事故と見ていることがわかります。
     なおこの論文は次に掲げる潜水医学の著名な医師たちの手によるものです。論文の記載順に紹介します。
     中山晴美 芝山正治 山見信夫 小宮正久 内山めぐみ 高橋正好 外川誠一郎 大久保仁 眞野善洋 (敬称略)

  2. 潜水医学の権威である東京医科歯科大学の眞野善洋教授は、彼が主催して、年一回「安全潜水を考える会」という研究集会を開催しています。その「第5回安全潜水を考える会」(2002年11月16日)の「研究集会 発表集」の3ページでは、彼が[潜水事故の予防−その基本的マニュアル−]で、「減圧症」を「潜水事故」の主要なものとして分析しています。

  3. 「第4回安全潜水を考える会」(2001年10月27日)の「研究集会 発表集」の9ページからの[レジャーダイバーの耳と副鼻腔は大丈夫?]という発表で、駒沢女子大学の芝山正治教授も、10ページの表1で潜水障害の一覧を示して「減圧症」を、「歯の傷害」などと同じグループに分類しています。
  4. 「第3回安全潜水を考える会」(2000年11月18日)の「研究集会 発表集」の12ページにもありますが、日本海洋レジャー安全・振興協会の早野正記氏は、[DAN Japanの保険適用の事例]で、DAN JAPANのダイバー保険について説明し、これを国内大手損害保険会社19社のネットとして(つまり共同引き受け。幹事会社は三井海上、副幹事会社は日産火災)説明しています。そして12ページの「2.ダイビング保険の加入とその内容」として、「会員がレジャーダイビングを行っている間に、急激かつ偶然な外来の事故と、これによってこうむった傷害に対して補償していくもの」と説明しています。
     この発表では、この傷害保険の支払い事例について説明と事例の紹介を行ないながら、15ページの「12.事故状況と傷害分類」で、「事故原因別、分析表では、一番多いのは、減圧傷害、耳の傷害、外傷、その他となっています。」としています。
     これらは引き受けている19社の保険会社が傷害保険を実際に支払った事例の紹介であり、これらの保険会社が「減圧症」をあたりまえに「事故」「傷害」と承認して支払っている事実を示しています。
    ※引き受け保険会社数は、時代の趨勢による合併などでこの数字より少なくなっているようです。
  5. 平成16年1月28日に確認できたDAN JAPANの保険に関するwebページ(www.danjapan.gr.jp/dan/danho/index.shtml)でも、DAN保険の内容の説明の中の「給付事例」で、「日本国内外におけるレジャー・スキューバダイビング中に急激・偶然・外来の事故により傷害を被った場合および・・・保険金が支払われます。給付の対象となる事故例は、以下のとおりです。」として「潜水病で治療を受けた」を挙げています。
     さらにこのwebページでは、「DAN潜水事故における酸素供給法講習」の説明の中で、「減圧症を始めとする潜水事故・・・」と明確に記しています。
  6. 私が過去見たPADIの「事故報告書」には「減圧症」の報告も記されていました。つまりこれを書いた側(当然プロダイバー)も「減圧症」を事故扱いしてることが分かります。(私は後にこの報告書が無効として返されてきたとは聞いていません。もし「減圧症」の報告が記された「事故報告書」が、過去すべて無効とされていた事実が証明されましたら、私はこのwebページ上で謝罪をいたします。)



     以上から、レクリエーション(レジャー)・ダイバーたちの「減圧症」(潜水病)は、ダイバーたちの常識、潜水医学の権威たちによる認識と分類、DAN JAPANによる規定、及び保険会社が傷害と認定して保険金を支払っているという事実、そしてPADIへの事故報告の実態から、明らかにこれは「病気」ではなく、「事故」による「傷害」と認識すべきと考えられます。

平成16年1月29日

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