中田誠氏のダイビング事故資料について

日本スポーツ法学会前会長(1992-95)

千葉正士       

(東京都立大学名誉教授)

 日本でもレジャーとスポーツの社会的様相が変わりつつあり、その中でスクーバダイビングは比較的に新しいのですが飛躍的に普及しつつあります。これは、楽しみながら人間の可能性を試すものとしては結構なことですが、ご承知のとうり、とかく事故を伴いやすいこと、それも事の性質上生命にかかわる危険を含んでいて、事実その事例は続々と伝えられています。

 これを防ぐには、海という自然条件の研究と器具器材の改良に加え技術の進歩と訓練も勿論条件ですが、それらを促進し権利義務関係を明定する法の整備が絶対に必要です。ただ事実においては、国家法は最後の砦でありながら現状では不備な上に実際の利用は困難むしろ直接には無用ですから、これを基本条件として整備する用意を法学者と立法担当者に、私は願ってやみません。

 したがって、事故と危険を十分に予防し、それでも万一事故が起こった場合に敏速・的確に対処する手段は、実際上は、当事者自身の慎重で周到な注意と配慮、そして各当事者の責任原則を明定する事前の取り決めしかありません。通常のスクーバダイビングならば、ダイバー自身が技術・方法に習熟すること、インストラクターが適切に指導すること、そして、業者が個々でも団体でも自己自身の規約類と利用者との契約で安全体制を保障することです。その体系的手続が、スポーツ法学で言うスポーツルールとスポーツ団体協約、すなわち国家法とは別に市民が自主的に作りそして守るスポーツ固有法にほかなりません。その整備が安全なダイビングの前提条件です。

 中田誠氏が経験に基づいて集めホームページに整理した関係資料は、他に比類なく膨大になりました。その中には、上記の各当事者が、どうすれば事故を予防できるか、万一事故が生じた場合にどうすればよいか、したがって逆に言うと、予めどう手配しておけば事故とその責任から免れることができるか、など固有法上の注意点を満載しています。したがってこれは、ダイバーとインストラクターには安全と責任を、業者には責任の範囲を貯蔵しているそれぞれの宝庫です。

 これは、ご本人の熱意によるりっぱな成果です。それだけに私は、これが広く利用されることを切に願いますし、さらにこの内容がハンディなスポーツマニュアルあるいは整理されたスポーツ法学文献に発展するようならば、一層大きな効用を発揮するに違いないと期待しております。

(1999年2月16日)


(注)千葉正士先生は日本のスポーツ法学の基礎を築いた方です。

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