大深度潜水の危険の認識について考える
(4月21日の事故から)


  4月21日に、伊豆で大深度潜水を行った若い男性が行方不明になるという悲しい事故がありました。
 本来、このような事故を速報的に扱うことには、その行方不明者のご家族や関係者の心情を考えると慎重になることが必要なのですが、ダイビングシーズンの開幕が目前ということもあり、同様の事故を防止するための注意を喚起するために、公開すべき情報の内容に注意を払いながらその一部を公開し、問題の提起を行いたいと思います。

 事故と事故者のご家族を含めた関係者の皆様のご心痛に、心から同情申し上げます。

●大深度潜水をレクリエーションダイビングの中で行うことについて
 昨年の日本高気圧環境医学会の時にも、伊豆の某地域でアンケートをとってダイバーの意識調査を行っていた研究発表者から、レクリエーションダイビングの世界で、水深30mを超える大深度潜水をしている人の人数の多さと、その危険に対する認識の薄さに驚愕しているという報告がありました。
 昨年も、写真撮影を目的として水深50mまで潜水したダイバーが、ボートに戻って減圧症を発症し、ボートが急いで港に戻った時には息絶えていたという事故がありました。

●4月21日の事故について(現時点ではこれ以上の詳細の公開はできません)
 今回、行方不明になった方は、21歳の、体力・経験豊富な男性の学生でした。
 21日の事故は、彼ら、伊豆の某ショップで働いている(行方不明者はアルバイト)3人が、仕事の始まる前の早朝に、いつも行っているようにダイビングに行った時に発生した事故でした。
 このような早朝ダイビングは、海が好きだからこそ、まじめに下働きの仕事を中心にがんばって仕事に励んでいるダイバーが得られる、つかの間の楽しみであったことと思います。したがって、本来それ自体には何の問題もなかったはずでしたが、今回、その中で悲しい事故が発生してしまいました。
 彼らの、1日の仕事の活力を得るために行ったダイビングは、残念なことに、レクリエーションダイビングの限界を超える、最大深度65mのダイビングであり、またこのような大深度ダイビングを行う際に必要な綿密な潜水計画とサポート体制の準備のないままのダイビングでありました。
 3人はそれぞれエントリー(OW)レベルのCカードを保持しているダイバーでしたが、3人とも300本を超える経験本数があり、本来、十分その危険を認識できる経験があったはずでした。しかし、彼らが働いているショップ側が、エントリーレベルの従業員が行う、恒例の早朝ダイビングが大深度潜水であったことを知っていたかどうかは不明です。もちろん、これはショップが販売しているツアーの中で起きた事故ではないので、ショップの法的責任はありません。そのような中、彼らは、所属ショップの事情もあり、インストラクターがつかないまま今回の大深度潜水を行ったのです。
 行方不明者は、最大深度近くでの僅かな時間の間にその行方がわからなくなっており、この原因には、気管内給水・錐体内出血・窒素酔い・吹き上げ・ピンポイントの急激な潮の流れなどの可能性が考えられますが、これらはあくまでも想像の域を越えません。事実は不明のままです。
 ダイビングコンピューターは、それぞれ個人の緻密なデータや体調の変化を捉えてデータを表示するのではなく、自分とは別個の人物の基本データを基準に作っているのですから、ダイブテーブルを含めて、より安全な方のデータで(物足りないと思いますが)ダイビングを行うことが安全のために必要なことは、ダイビングのプロの方々もよく言っていることです。しかし今回のダイビングではダイビングコンピューターが重視されすぎていたのではないかとういう関係者の意見もありました。

●事故を無駄にしないために
 大深度潜水には高い危険が付きまとい、レクリエーションダイビングには適さないという指導団体のテキストの内容には私も大賛成です。
 伊豆地域のみでなく、全国のダイビング業者の方々も、この事故を教訓に、皆さんのところで働く若くて希望に満ち溢れた従業員の安全のためにも、今までよりもさらに一層の注意と指導を行って欲しいと思います。また自分達が販売するツアーにおいて、大深度潜水のような、致死的要因の強いダイビングは、すでに「レクリエーション(レジャー)」ではありませんので、ぜひとも中止していただきたいと願います。そして一般ダイバーの方々も、深い深度のダイビングがかっこいいという認識は捨ててください。それは麻薬をやることがかっこいいという認識とあまり変わらない認識だと私は思います。

●公開可能な事故のデータ
 事故の時に、伊豆の、プロダイバーを中心とした多くの方々が、一部自分の身の危険を顧みずに捜索に協力したようです。彼らの、行方不明なった仲間に対する心情は察するに余りあります。
 海上保安庁の方からも、巡視船2隻、巡視艇1隻、羽田からのヘリ1機、名古屋の海上本保安部所属のヘリ1機、そしてこれらのヘリに計5名の特殊救難隊員が乗機しての出動と捜索が行われました。

 今回のダイビングは、3人で早朝5時45分頃から行われ、2人が午前6時45分頃浮上しています。行方不明者は14リットルタンクを使用していました。
 事故のポイントは、富戸「伊豆海洋公園」沖300mにある「二番の根」付近でした。
 当日の、この海域の付近の天候はくもり、北北東の風10m 波の高さ1〜2m、潜水温度16度でした。

●そして・・・
 彼らがこの大深度潜水を決行した動機は、このポイントの深場で「シロオビハナダイ」を見るためでした。
 彼はそれを見ることができたのでしょうか。

※事故者の年齢が公式発表では22歳となっていましたが、事故者は事故当時21歳であったことが判明しましたので平成13年6月10日に訂正しました。


平成13年4月27日

 このページの内容の無断転載をお断りします。
 このページへの直接のリンクを貼ることはご遠慮ください。
 当ホームページへのリンクに関してはトップページの注意事項をお読みください。


 

home.gif (2588 バイト)