忘れてはいけないこと


 某年某月某日某所、20代の初級女性ダイバーが死亡しました。
 この女性は、ごく初級者であり、ショップやインストラクターの指示のままに、海況が悪い中、上級者用のダイビングに一緒に連れて行かれ、しかもあまりの水中の状態の危険さに、インストラクターなどの指示でダイビングを中止して浮上する際にショップがつけたスタッフダイバーが、そのような状態の水中で彼女を放置して離れていった為、彼女は行方不明となり、数時間後に水底で発見されることになった事故でした。
 この写真は、発見された時にすでに死亡していたこの女性が、待機していた救急車に運び込まれる時の写真です。
 警察は、捜査の上、業者たちを業務上過失致死罪の疑いで送致されています。(このショップは雑誌に多くの広告を出している某大手スポーツクラブの下請けでしたが、スポーツクラブは一切責任を問われていません)
 この事件も、業者の責任が問われているためか、ダイビングマスコミは黙殺しています。

 ダイビングマスコミは、この事故が、自分の雑誌に広告を出してくれている、某大手スポーツクラブが募集して下請けのショップに出した時の事故であることをひた隠しにし、そのスポーツクラブでも、この死亡事故に関しては、そこで講習を申し込んでダイバーとなった会員からの事故についての質問も黙殺して「事故はなかった」ことにしていました。
 ダイビングの安全は、決してダイビング雑誌や旅行会社が称えているショップや、指導団体、また大手だというショップの名前や単に長くやっているからという「表向きの信用」からは得られません。また明るく楽しいから、という「演出」から得られるものでもありません。それはショップのオーナーやインストラクターまたはガイドの個人的資質(安全配慮義務を果す強い意志と責任感)こそが非常に重要な問題なのです。
 今年のシーズンにおいて、皆さんがショップを選ぶ時、はやる気持ちを押さえて、冷静になってショップやガイドを選んでください。その向こうにこそ、安全で楽しい、感動に満ち溢れた水中世界がひろがって、あなたの思い出として心の中に刻み込まれていくことになるのです。

 なお、インターネット上のショップも含めて、公的・準公的組織の推薦や認定を得ているとしているショップなどもありますが、本当にそれを得ているのか、自分で、そのショップを推薦や認定をしているとしている団体などに電話して確認してください。本当のところは少ないと思います。またそのショップの経営者やインストラクターの氏名などを明らかにしていないショップは、そこがどんなに大きくても申し込むのは止めましょう。それと初級者と上級者を同じ上級者用ポイントに連れて行くとか、講習ダイビングとファンダイビングを同時に同じパーティで行うような潜水計画を提示するショップやインストラクターも拒否しましょう。

 このホームページの情報を見て、それでも上記のような選択基準を無視して事故に遭った場合、その責任の一端は、そのようなショップを選んだあなたの責任と問われるかもしれません。

 私は、同じような犠牲者が出ないことを願って、またこの女性がこの時までこの世に存在したことが、同じくダイビングを愛するダイバーたちの命を守るための意味のあるものとなるように、つまり決して彼女の死が、さまざまな思惑から無視されるようなものではなく、後に続くダイバー達の命を救うための非常に重要な警鐘となることを示したく、この夏のシーズンを前に、敢えてこの写真を公開しました。
 私はこの事故を深く悲しみ、そして亡くなった女性のご冥福をお祈りすると共に、ご遺族の方々の心の傷が、いつか癒される時が来るよう、祈っております。


 自分が事故に遭うリスクを減らすために、さらに情報が必要な方は、以下の拙著をお読みください。

●「誰も教えてくれなかったダイビング安全マニュアル」(太田出版・・・別の出版社から類似本が出ていますが、類似本が出るだけの評価をいただいたとも言えます)

●「事故に遭いたくない人のためのダイビング生き残りハンドブック」(太田出版・・・初版第3刷が出ます)

●「自分の命を自分で守るためのダイビング事故防止ファイル」(太田出版・・・ダイビング安全マニュアルシリーズ最新刊です)

●「ダイビングの事故・法的責任と問題」(杏林書院・・・中級以上のダイバーとプロダイバーのための本です。書店にない場合は注文してください)


平成13年6月10日

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