障がい者ダイビングで起きている事故から見る常時監視義務とサポートの品質問題


 

今日は障がい者ダイビングで起きた事故例から、個人的に感じた、ダイビングの品質問題を考えてみます。

この事例を見て、障がい者ダイビングをサポートする方々は特に、自らのサポートと注意の仕方と用いるべき感性(感じるべきこと)のあるべき姿の「品質」をチェックしてください。

 

1.車椅子でのファンダイビング事故

ある下半身不随のダイバーが、障がい者ダイビングのサポートができるというショップでダイビングを行いました。

水中活動を無事に終えてボートに上がりましたが、このダイバーは自分の左大腿部がグニャグニャするような感じがし、このことをスタッフに伝えました。

その後、ダイバーたちはホテルへ戻りましたが、特にこのダイバーに対して救急対応をすることはなかったようです。

 

ホテルに戻った事故者は、ウエットスーツを脱いで、違和感のあった自分の左大腿部を見ると腫れているのを発見しました。ここでやっと診療所に行くことになったのです。

診療所の医師は左大腿部の骨折と診断しました。

そして医師はただちに事故者の急患輸送を要請。海保の航空機が医療機関のある場所まで事故者を輸送し、そこから救急車で病院に搬送しました。この件はそれほどの事態だったのです。

そして搬送先の病院で検査が行われ、その結果、左大腿部の骨折が確認されました。

事故者は2日後に手術となりました。

 

この事例は、エントリー時に大腿骨を骨折するという重大事故が起きたことについてです。

私は医者ではないので推測にすぎませんが、もし水中活動中、骨折した部位に小さな骨片が生じていて、それが心臓や脳に届くようなことになっていたら、あるいはその骨片によって大きな欠陥が切れていたら、あるいは血栓ができて脳や心臓に届いていたらと考えると、恐ろしさを感じざるを得ません。

 

このダイビングのサポートサービスでは、重大な事故発生の可能性を予見して事前に排除することはできませんでした。

 

この事故の公的記録を見ると、エントリーする際に事故者自身が、タンクが梯子にぶつかったような音を聞いていたとの記録があります。

これは一見、そもそも下半身不随の障がい者のサポートをするアシスタントが、下半身に痛みを感じる感覚を持っていない、そして動作も自由にならない部分に関する慎重な注意は払うことが重要であると理解してその監視訓練を受けてさえいれば、もっと早く事態に気づくか、あるいは人間の最も太くて丈夫な骨が折れるような不自然な動きがないように、又はしないようにサポートすることもできたのではないでしょうか?

付き添っていたスタッフが、客の大腿骨が骨折してしまうような動作の不自然さを見ていなかった、あるいは感じることができなかったという事実は、これが、いわゆる常時監視義務を履行できていなかったことがもたらした結果であるということを心に刻んでいただきたいと思います。

だからこそ、一般のダイバーは、注意義務を履行できるプロと出会う、いやそのようなプロの下でダイビングを行うことの必要性をよく認識することこそが、自分の身を守ることにつながる重要なダイビングの要素であると心に刻んでおいてください。

 

2.油断による溺水

ある障がい者ダイバーがダイビングを終了し、アシスタントのバディに背後から抱きかかえられて浮上を開始しました。

その際、事故者は海面が近くなってきたことで安心し、その結果レギュレーターを噛む力が弱まり、それが外れてしまいました。

結果、事故者は海水を飲み込み、パニックになりました。

この事故者は病院に搬送されましたが、幸い意識ははっきりしていました。

結局、事故者は溺水(溺れた)ということだけで、幸いにもその後に問題が生じることはなかったのです。

 

コメント:障がい者ダイビングを行う場合には、一般のダイバーに対してよりリスクの幅を大きく取って対応を考えるべきです。

この事例では、サポート体制が対障がい者であったようであっても、サポートする側の「気分」はそこまで行っていなかったのではないでしょうか。

ダイビングにおける事故の多くが、エントリーとエキジットという、水面を挟んでの上下域でよく起きている(最初の事例もエントリー時に起きています)ことについての知識は、ダイビングを安全にしたいと思うダイバー(特にプロ)には常識として持つべき知識なのですから、この部分に関する気遣いの質はより高く持つべきでしょう。

ただし、それでも事故は起きることがあるという覚悟を忘れずに、重大な事故は発生するものだという前提で、その発生後の対処にとまどいや躊躇の起きないような心と体制の準備を怠らないことが不可欠です。

精一杯のことを行っても、「それでも起きる」と考えて対応を考えてください。

 

3.最後に

ずいぶん前のことですが、ある障がい者ダイバーがファンダイビングで死亡した後、残された奥さんが小さな子供たちを抱えて途方に暮れ、私に相談してきたことがあります。

相談された当時の私には、実質的に役に立つ助言はできませんでした。ボランティアとして対応に走り回れる経済的余裕もありませんでした。

それでも今なら少しは役に立つ助言もできたのではと思うと、いまだに自分の無力さによって何もできなかったあの時が忘れられません。

あの、電話の向こうから聞こえていた小さな子供たちの声が今でも耳に残っています。

その後、遺族は十分な補償はされたのでしょうか。難しい状況だったことだけは、当時の私でも理解はできました。

当時の子供たちも今は大きくなっているはずです。これからさらにどんな人生を歩んでいくのでしょうか。

 

障がい者ダイビングのサポートをボランティアで行っている方々、あるいはそれをビジネスとして行っている方々(補助金含む)は、障がい者の方々の肉体的事情をよく把握した上で適切な対応計画の立案と、自分とスタッフの対応訓練を忘れないでください。

それができれば、障がい者の方々に、素晴らしい体験を提供できると思います。

 


 平成26年7月31日
 

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